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40代サラリーマン、アメリカMBAに行く vol. 17


権力に頼らない
リーダーシップ

5月上旬から8月末までバブソンMBAは夏休みに入る。通常MBA生はこの間来年の就職のためのインターンシップを行う。ただ私は就職活動をしないため、どう過ごそうかを教授たちに相談したところ、ハーバードビジネススクールがエグゼクティブMBAのようなプログラム「Executive Education」を提供しているのでチャレンジしてはどうかと提案された。ハーバードは家から歩いていける距離にあるので、せっかくボストンに住んでいるので考えてみることにした。

応募にあたって頭によぎったのがリーダーシップ。バブソンMBAの授業で、このリーダーシップの必要性を痛感したのだった。というのもバブソンでは個人ワークよりもグループワークの課題が中心。特に必修科目はほぼ全てがグループによる課題が大きな割合を占め、これにより各自の成績も決まる。グループメンバーを自分たちで決めることはできず、ランダムに学校が決定する。そのためグループのアサインは運・不運もあるだろうが、それは世の常。入社した時の上司が世界最高の上司である確率は限りなく低いのと同じだ。

私が何よりグループワークで苦労したことが、学生という同じ立場で、国籍も年齢も常識も優先順位も違う人たちと短期間のうちに成果を出さないといけないということだった。これは実は意外なことだった。これまで長らくチームで仕事をしてきたが、世界各地のブランドマネージャーたちと仕事をする上で、自分が権力を使ってプロジェクトを進行してきた認識など全くなかったからだった。しかしバブソンで学生という同じ立場でグループプロジェクトを進める中で、限られた期限内に困難な仕事を完了させるために、これまでいかに自分が地位の力を活用していたのかに気付かされた。

私は本社の人間であり、日本企業で働く日本語の話せる日本人であり、広告やマーケティングキャンペーンの企画において承認する力を有している。これを無意識に使って、認識の異なる各国のブランドマネージャーたちを必要に応じて軌道修正してきたのだと痛感した。バブソンでは例えば提出期限よりも早め早めに行動しようと言っても、そんなことは必要ないと言うチームメイトはいた。資料の細かい体裁を直したくても、そんな細かいところは誰も見ないからやめろと言う人もいた。こうした中、相手も自分も納得できるレベルを目指していかなければならない。特に提出期限が迫る中、他の授業の課題やインターンシップの面接、クラブ活動などが重なると、グループメンバー間で優先順位の違いが生まれた。そうした時に権力に頼らずにどうすれば全員がちゃんと力を出し切るかに困っていた。

55歳アメリカ人女性が見せた
リーダーシップ

こうしたグループワークに対する思いは、バブソン同級生も国籍問わず同じだった。またハーバードビジネススクールも同じようだ。『True North Fieldbook 』(Craig・George・Snook、2015、pp.130-131)によると、リーダーシップの授業を担当するSnook教授が学生たちに授業の採点方法をグループワークによるものにするかと聞くと、誰も賛成しないという。しかし教授は「なぜ誰もいないのですか?ハーバードビジネススクールは、世界に違いをもたらすリーダーを育てる教育機関であり、ここにいる全員がそうしたリーダーになりたいというエッセイを提出して入学したはず。リーダーはチームメンバーの成果によって評価されることを理解しなければならない」と言ってグループワークの必要性を説く。

ただ私は賛成しなかったハーバードの学生の気持ちは理解できる。グループワークでは全員が同じプライオリティで授業の課題に力を入れるわけではない。ただ単位がもらえれば良いと思っている人と最高の評価を得たいと思っている人が同じグループにいる可能性はある。中にはフリーライドする学生もいる。そうした消極的な人と同じチームになった時、私はある程度促してそれでダメなら部下でもないので仕方がないとあきらめていた。個人ワークはこうしたストレスなく取り組むことができるのは事実だ。

しかしバブソンでOne-Year-MBA生の55歳アメリカ人女性とある授業で同じチームになった時(私はTwo-Year-MBA生)、非協力的な学生に真っ向から向き合って、その人に積極的な参加を促したのを目の当たりにして衝撃を受けた。たしかに年齢は上ではあるが上司でもなく同じ学生という立場だったが、彼女は「何か理由があるのでしょう。まずは直接話してみる」と言って個別に連絡を取り、参加を促し、全く何もやらなかった人に、最後までプロジェクトに参加させたのだった。彼女のこの行動を見て、自分には圧倒的にリーダーシップが欠けていると思い知らされた。そのためハーバードビジネススクールのエグゼクティブ教育プログラムに応募するなら、リーダーシップのプログラムにしようと考えたのだった。

なぜ誰かがあなたに
リードされなければならないのか

ビジネススクールは通常20代後半から30代前半を対象にしたMBAを提供するが、Executive Educationは少なくとも10年以上、場合によっては30年以上の業務経験を持つ社会人を対象にしたExecutive MBAのようなプログラム。EMBAとの違いは学位取得ではなく、ビジネススクールが培った知見を興味のある内容だけに特化して短期間で学習することが目的。

著名なビジネススクールは、大学近辺で働く社会人だけでなく世界中から受講者を募集したいため、長期間通学しなければならないEMBAよりも「太くて短い」プログラムを提供する傾向にあるようだ。ハーバードビジネススクールもその1つで、数日から1週間という短期間だが、泊り込みで十分な受講時間を提供する。私が受講したプログラムも3時間半の授業を10回行って合計35時間。バブソンMBAの1科目が2時間半の授業を14週で合計35時間なので、同じ時間分を受講したことになる。

試験はなく、選考はエッセイと推薦文のみ。ある一定以上の経歴を有し、時間的・金銭的投資が可能な人のみが応募するため合格率は60~70%と高いようだ。応募には会社応募と個人応募があるようだが、私は個人応募で2つのリーダーシッププログラムを受験。1つ目のものは不合格(ウェイトリスト)で、2つ目になんとか合格して通うことになった。そして前述のSnook教授から教わることになる。

残念ながら授業の詳細はお伝えできないのだが、印象的だったことは、なぜ他の誰かがあなたにリードされなければならないのかあなたは知っているか?という問いだった。これまで考えても見ない視点。なぜ私にリードされないといけないのか(なぜ私がリーダーになるのか)、なかなか説明できない。会社の社長だから、上司だから、チームのキャプテンだから、グループのリーダーだからといったポジションに関係なく、なぜこの人たちが私にリードされないといけないのか。これを説明できるようになるために、自分の過去を振り返ったり、他人に言いたくない自分の側面に目を向けたり、自分が気づいていない側面をグループメンバーに気づかせてもらったりしながら探っていった。

HBSでも参加者を7~8名の小グループに分け、教室での講義とは別に、予習や復習、提出課題をグループで取り組むことになった。私はアメリカ人、オーストラリア人、オランダ人、ガーナ人、ドイツ人、ポーランド人、ラトビア人と同じだった。年齢はほとんどが40代で、男女もほぼ半々。20時間以上の時間を一緒に過ごした。興味深かったのは、彼ら彼女らと出会ってまだ数日しか経っていないのに、過去の経験を共有したり、自分がやりたいことを話し合ったりしていると、それぞれの得意なことや改善した方がいいこと、きっとこんなリーダーになれると思うことがイメージできるようになることだ。そして7人が私に助言してくれたことは昔から私を知っている友人や同僚のように的を得たものばかりで、本当に驚いた。彼ら彼女らの言葉が、なぜ私がリーダーになるのかという問いに対する答えを言語化することに役立ったことは間違いない。

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