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リメイク短編小説

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アマチュア時代に投稿した短編小説をリメイクして公開します。
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#小説

わたしのパズル

 最初のピースはカラスがくわえていた。
 公園で羽を休めていたカラスは、わたしの視線に気付くと咥えていたピースをぽとりと地面に落とした。
 かあとひと声鳴き、空に羽ばたいていく翼は夜闇のように真っ黒だ。見る間に小さくなっていく姿を眺めながら、わたしはコンクリートに転がるピースを拾い上げる。それが寄り集まってパズルになるとわかっていても、手持ちのピースが少なすぎて他とあわせることができなかった。
 

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あいことばは愛のささやき

 ひらけ、ごま。
 慶(けい)が唇を開くよりも早く、窓の外で風が鳴いた。
 礒の香りを孕んだ潮風が窓ガラスを白く染めている。暦の上では春も近いのだが、北の街では雪がまだ多く残っていた。凍てつく海原の上、鰊のかかった網を引く漁師の手はさぞ冷たかろうと思う。
 海沿いの集落は鰊漁に精を出し、市街地では商いの店が盛んに金をまわしている。小樽の風は慶の言葉をかすめ取るかのように空へと消えていった。
「どう

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