田丸久深

小説家。第10回日本ラブストーリー&エンターテインメント大賞・最優秀賞受賞。既刊は『小…

田丸久深

小説家。第10回日本ラブストーリー&エンターテインメント大賞・最優秀賞受賞。既刊は『小樽おやすみ処カフェ・オリエンタル』『眠りの森クリニックへようこそ』『僕は奇跡しか起こせない』『YOSAKOIソーラン娘』『陸くんは、女神になれない』など。

マガジン

  • 自分のパンツは自分で洗え

    〜34歳恋愛小説家が全力で婚活した一年間〜 婚活といえば何を思い浮かべますか? 街コン、婚活パーティー、マッチングアプリ、結婚相談所……それぞれの活動を赤裸々に綴ります。 目標は毎週更新、週末に頑張ります。

  • リメイク短編小説

    アマチュア時代に投稿した短編小説をリメイクして公開します。

  • とうきび畑でつかまえて

    【長編小説】 30歳の誕生日、息吹(いぶき)は北海道・富良野のラベンダー畑でリゾートバイトを始める。きっかけは婚活の苦い思い出だった。 お仕事あり・恋あり・涙あり、ひと夏の物語が始まるーー

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とうきび畑でつかまえて

    プロローグ  目の前に流れてきた回転寿司を見て、安達息吹(あだちいぶき)は愛想よく微笑んだ。 「はじめまして、よろしくお願いします」  前の席に座った寿司――男性とプロフィールシートを交換し、内容を確認する。シートには生年月日や血液型をはじめ、家族構成や住まいの環境、飲酒や喫煙習慣の有無まで事細かに記されている。  婚活パーティーの前半は参加者が全員と会話できるよう、一人三分のトークタイムが割り当てられていた。  大人数のパーティーはまるで椅子取りゲーム。会話が終わ

    • 婚活エッセイの中では勤務時間が遅い環境にありましたが、今は配置転換があり普通の生活に戻ってます。念のため。

      • 自分のパンツは自分で洗え〜2、お見合い写真は参観日の天童よ◯み③

                    ○ 「それで、写真はどんな感じにできあがったの?」  休み明けの月曜日。昼休憩でお弁当をつつきながら、先輩の甲斐さんが言う。 「撮影前、スキンケアとかエステとかいろいろ頑張ってたじゃない。メイクで綺麗にしてもらえた?」 「……こんな感じになりました」  私が差しだしたスマホの画面を見て、甲斐さんが「へえ」と声を上げる。 「いいじゃない、プロに撮ってもらった写真って感じ」 「私って普段からこんな感じに見えてます?」  参観日の天童よ○みシ

        • 自分のパンツは自分で洗え〜2、お見合い写真は参観日の天童よ◯み②

           くどいようだが、私は地味顔だ。  離れ眉に小さな奥二重、白玉を丸めて乗せたような団子鼻。唇はおちょぼ口であり、全体的な印象は市松人形に近い。肌の白きは七難隠すと言われるが、若い頃はニキビ肌でいつも真っ赤だった。  思春期で自分の顔にコンプレックスを抱き、大人になって化粧を覚えると少しでもマシに見えるよう努力した。メイク教室を利用して離れ目を寄せて見せる技を覚え、奥二重は成長とともに幅が広がった。  作家デビューした際、私は新聞やwebニュースで顔を出す機会があった。写

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        とうきび畑でつかまえて

        • 婚活エッセイの中では勤務時間が遅い環境にありましたが、今は配置転換があり普通の生活に戻ってます。念のため。

        • 自分のパンツは自分で洗え〜2、お見合い写真は参観日の天童よ◯み③

        • 自分のパンツは自分で洗え〜2、お見合い写真は参観日の天童よ◯み②

        マガジン

        • 自分のパンツは自分で洗え
          7本
        • リメイク短編小説
          9本
        • とうきび畑でつかまえて
          19本

        記事

          自分のパンツは自分で洗え〜2、お見合い写真は参観日の天童よ◯み①

          「たくさんお話を聞かせてもらいましたが、田丸さんって本当に頑張り屋さんですね」  紹介文用の対談時間が終わり、仲人の桜田さんがメモをまとめながらそう言った。 「お仕事も遅くまで大変なのに、帰ってからスポーツジムで運動するなんて。お料理やアロマの勉強に、俳句の勉強もしたんですよね? お休みの日も着物でお出かけされて、旅行で本州に行って……パワフルというかアグレッシブというか」 「よく、フットワークが軽いと言われます」  好奇心旺盛な性格もあるが、小説のネタのためにと勉強

          自分のパンツは自分で洗え〜2、お見合い写真は参観日の天童よ◯み①

          自分のパンツは自分で洗え〜1、誰のおかげで飯が食えてると思ってるんだ②

               ○  私が小説を書くことに対して、かつて恋愛関係にあった男性の反応を思い返してみる。  新人賞投稿時代、最終選考に残り喜びに震える私を見て「なにニヤニヤしてんだ気持ち悪い」と一蹴した元彼。本命の新人賞の〆切が迫り、この期間は小説に集中したいと伝えると「俺と小説どっちが大事なの?」と言われた。  同じく新人賞投稿時代。最終選考に残る頻度が上がり、俄然頑張る私が付き合っていたのは自称経営コンサルタント。ある日、仕事について些細なことで言い合いになったとき「お前だっ

          自分のパンツは自分で洗え〜1、誰のおかげで飯が食えてると思ってるんだ②

          自分のパンツは自分で洗え〜1、誰のおかげで飯が食えてると思ってるんだ①

           OL業と小説家の二足のわらじを履く生活と、結婚出産家事育児の両立は可能なのか。  この悩みを打ち明けると、決まって返される言葉がある。 『稼ぎの良い旦那さんを見つけたらいいんだよ』  このアドバイスを受け、素直に行動に移せる人はいるのだろうか。  少なくとも私は、この言葉に対して引け目とも後ろめたさともいえない気持ちを抱くタイプだった。  たとえばデビュー前から付き合っていた相手だとか、友人として出会い人となりを知ってから関係を深めた相手ならわかる。  たとえば

          自分のパンツは自分で洗え〜1、誰のおかげで飯が食えてると思ってるんだ①

          自分のパンツは自分で洗え〜34歳恋愛小説家が全力で婚活した一年間〜序②

                ○  日曜日に3件のお見合いを終え、気疲れを引きずったまま月曜日が始まる。土日休みであれば片方の休日を自分の時間に使えるだろうが、医療の片隅で働く私は二連休も少なく、休日がすべて婚活で潰れることもままあった。 「それで、昨日の婚活はどうだったの?」  職場には年上の先輩がいる。少数精鋭でまわす職場のため、同じ業務をするのは彼女だけだ。ふたりで働くうちに姉妹のような感覚になり、午後の診察が始まるまでのつかの間の休憩が私の婚活報告の時間になっていた。 「11時

          自分のパンツは自分で洗え〜34歳恋愛小説家が全力で婚活した一年間〜序②

          自分のパンツは自分で洗え~34歳恋愛小説家が全力で婚活した一年間~序①

          「自分のパンツくらい自分で洗えばいいんじゃないですか?」  アラサーの枠が居心地悪くなりはじめた34歳。わたしは何度この言葉を飲み込んだことだろう。  女子アナのような清楚なワンピースに身を包み、ナチュラルメイクに控えめなアクセサリーをつけ、コーヒーカップについた淡い口紅を指で拭う。喫茶店のテーブル席、正面に座る男性が話す内容に、笑顔を貼り付けひたすら相づちを打っていた。  男性が着るのはジャケットやスーツ、あるいは清潔感のある服装。あらかじめ打ち合わせた待ち合わせ場所

          自分のパンツは自分で洗え~34歳恋愛小説家が全力で婚活した一年間~序①

          note創作大賞中間発表と、文学フリマ札幌

           note創作大賞の中間発表が公開されましたね。  初参加ですが、通過した作品はありませんでした……残念。  記念受験のつもりで臨んだ作品も多い中、本命は『とうきび畑でつかまえて』でした。  この話が書きたいがために、実際に半年ほどですが富良野地方に住んでいたこともあり、なんとか日の目を見せてあげたいなと思っていたお話しです。  いろんな出版社に営業をしてみましたが、良い返事をもらえぬまま時間が過ぎ、このままお蔵入りになるくらいならと創作大賞の時期にあわせてnoteに公開し

          note創作大賞中間発表と、文学フリマ札幌

          夏の思い出盛り合わせ、RSR2024

          「お前にライジングは無理だよ」  20代前半、当時付き合っていた恋人にそう言われたのをいまもよく覚えている。  6歳上だった彼はライブが好きで、モッシュやダイブは当たり前。対してわたしは田舎生まれ故ライブハウスというものに行ったことがなく、札幌に住み始めてようやく好きなアーティストのコンサートに行けるようになった初心者中の初心者でした。  8月のお盆は毎年実家に帰省していたわたしと、仕事でイベントスタッフをしていた彼。8月のお盆休みは、わたしが帰省している間に彼が毎年北海道石

          夏の思い出盛り合わせ、RSR2024

          note創作大賞2024投稿を終えて。

           こちらで作品やエッセイ以外の文章を投稿するのははじめてかもしれません。  お読みいただきありがとうございます、田丸久深です。  以前からアカウントを作っていたものの、どう活用したらよいものかわからず稀にしか更新していなかったnote。2024年のnote創作大賞に合わせてようやく動かしてみました。  しかし、〆切が終わるととたんに更新しなくなり、これはだめだなと……普段はXであれこれお話ししていますが、読書感想はInstagram、映画や長文で書き連ねたい感想はnoteな

          note創作大賞2024投稿を終えて。

          アメイジング・レイニー・ソング④

                ○○○  狙い通りまっすぐ飛んだ水は、ピアノよりも少し手前で四方に跳ね返った。  しぶきを受けたストーブから蒸気が上がる。こたつも濡れ、電気カーペットが水浸しになる。室内にできた水たまりは、水滴が落ちると小さな波紋を作っていた。 「……アメ兄」  その波紋の上で、アメ兄はきょとんと、わたしを見つめていた。  彼は気づかれないと思っていたのだろう。息も気配も殺して、わたしが探し回ってあきらめるのを待っていた。それをいとも簡単に見破られたことに、悔しさよりも、

          アメイジング・レイニー・ソング④

          アメイジング・レイニー・ソング③

          「……ん」  いつの間にか眠っていたようだ。  涙が乾いて、目じりがパリパリする。休みの日はいつも遅くまで寝ているため、早起きには慣れていなかった。  雨はあいかわらず降り続き、からくりの音楽も繰り返されている。ぴちゃん、ぽちゃんと低い音はバケツやお鍋にたまった水に。ちん、とん、しゃんと高い音はガラスのコップやプラスチックのカップに。雨の音色だけは、いつ訪れても変わらない。  身体を起こすと、ひやりと冷たい風を感じた。換気のために窓が少し開いている。空は重い雲が立ち込め、昼間

          アメイジング・レイニー・ソング③

          とうきび畑でつかまえて~エピローグ

           エピローグ  五月の十勝岳連峰は山肌に雪を残し、水を引いた田畑がそれを水鏡に映していた。  今年は雪解けが早く、札幌は三月下旬には積雪無しが発表された。桜前線は順調に北上し、ゴールデンウィークには札幌で満開の桜を楽しんだが、富良野はまだ蕾の木がちらほらと見受けられた。  自転車のペダルを踏み、息吹は通い慣れた道を走る。冬の間に嫌というほど味わった満員電車も、むやみに通行を止める信号もない。  無人販売所には旬のアスパラがたくさん並んでいた。ホイル焼きにして食べようと、南京

          とうきび畑でつかまえて~エピローグ

          アメイジング・レイニー・ソング②

               ○○○  わたしがアメ兄と初めて言葉を交わしたのは、みぞれまじりの雨が降る初冬。彼のお父さんのお葬式のときだった。  葬儀は地域の生活館で行われ、アメ兄のお父さんがまだ若かったこともありたくさんの弔問客が訪れていた。通夜振る舞いは宴会のような賑わいで、あちこちで酒瓶が空いていた。お通夜は亡くなった人が寂しくないよう賑やかに過ごすのだと、お酒で顔を真っ赤にしたお父さんが教えてくれた。  その中でわたしは、ひたすらお母さんにくっついていた。  親戚はたくさんいたけれど

          アメイジング・レイニー・ソング②