田丸久深

第10回日本ラブストーリー&エンターテインメント大賞・最優秀賞受賞。既刊は『小樽おやす…

田丸久深

第10回日本ラブストーリー&エンターテインメント大賞・最優秀賞受賞。既刊は『小樽おやすみ処カフェ・オリエンタル』『眠りの森クリニックへようこそ』『僕は奇跡しか起こせない』『YOSAKOIソーラン娘』『陸くんは、女神になれない』など

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  • リメイク短編小説

    アマチュア時代に投稿した短編小説をリメイクして公開します。

最近の記事

にじいろにんぎょ

 雨の日が来るたびに、人魚はじっと、空を見上げていた。 「……人魚、腹減らないか?」  そう呼びかけるタケルたち人間と同じ、二本の長い脚を持て余すように抱えている。豊かな黒髪は生足を覆うほどに長く、丸く大きな瞳の色は、空を覆う雨雲と同じ灰色をしていた。  古くて狭くて汚いこのアパートの自慢は、家賃が安いことと、海が目と鼻の先にある景色の良さだった。 「聞いてるか? 朝飯食べてないだろ?」  着丈の長いTシャツをワンピースのかわりにして、彼女は膝を抱えたままころんと横

    • 三人目のセシル

      「今日お店に立っているのは、マリーのほう? エリーのほう?」 「姉のマリーです。いらっしゃいませ」  名乗りながら、私ははじめて店を訪れたお客様に優雅に微笑んだ。 「娘に頼まれていた服を取りにきたの。エリーさんに話せばわかると言われたのだけど」 「シエラさんからのご依頼はエリーから聞いています。こちらですね」  大好きな彼とのデートのために作った、とっておきのスカート。カウンターの中に取り置きしておいた紙袋を取り出し、私はそれをお客様に見せる。  依頼主と二人でデザインを決め

      • わたしのパズル

         最初のピースはカラスがくわえていた。  公園で羽を休めていたカラスは、わたしの視線に気付くと咥えていたピースをぽとりと地面に落とした。  かあとひと声鳴き、空に羽ばたいていく翼は夜闇のように真っ黒だ。見る間に小さくなっていく姿を眺めながら、わたしはコンクリートに転がるピースを拾い上げる。それが寄り集まってパズルになるとわかっていても、手持ちのピースが少なすぎて他とあわせることができなかった。  わたしはピースを手のひらで包み、その冷たさにわけもなく泣きそうになった。けれど涙

        • あいことばは愛のささやき

           ひらけ、ごま。  慶(けい)が唇を開くよりも早く、窓の外で風が鳴いた。  礒の香りを孕んだ潮風が窓ガラスを白く染めている。暦の上では春も近いのだが、北の街では雪がまだ多く残っていた。凍てつく海原の上、鰊のかかった網を引く漁師の手はさぞ冷たかろうと思う。  海沿いの集落は鰊漁に精を出し、市街地では商いの店が盛んに金をまわしている。小樽の風は慶の言葉をかすめ取るかのように空へと消えていった。 「どうしたの? 合い言葉を言ってよ」  慶の手のひらの上で、鈴を転がすような愛らしい声

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          瓶底眼鏡から裸眼生活になりました〜ICL手術体験記・一年健診〜

           ご無沙汰しております、田丸久深です。  2022年の2月に受けたICL手術。一ヶ月検診までこつこつと書いていましたが、その後は特筆することもなく順調に一年が過ぎていました。  手術を受けてから快適な裸眼生活を送っていますが、周囲やTwitterからICL手術について質問をされることが増えてきたため、一年を良い区切として記事に書いていきたいと思います。 ・三ヶ月検診  手術直後は両眼とも1.5の視力でしたが、三ヶ月検診では右が1.2の左が1.5。視力は日々変動がありますが、

          瓶底眼鏡から裸眼生活になりました〜ICL手術体験記・一年健診〜

          宅配便でクリオネが送られてきた話。

           みなさんは流氷の天使と呼ばれる『クリオネ』をご存じでしょうか?  季節は冬。厳寒の1月下旬に北海道のオホーツク海に流れ着く流氷は、3月上旬まで海岸を氷で埋め尽くし、海底を削り取って磯掃除をしてくれます。また、流氷に付着したプランクトンが海を豊かにするのも有名な話ですね。  流氷の下にはプランクトンを捕食する生物がたくさんいて、その中のひとつが、そう、クリオネなんです。  わたしは北海道の海沿いの町に生まれましたが、太平洋側のため流氷が接岸する地域ではありません。豪雪地

          宅配便でクリオネが送られてきた話。

          瓶底眼鏡から裸眼生活になりました〜ICL手術体験記⑥術後一ヶ月検診

           ICL手術体験記、今回は術後1ヶ月健診のお話です。  一週間検診で術後の経過も良好と言われ、日々の生活でも保護眼鏡を外せるようになりました。  日常生活の制限も「温泉・プール」以外は元通り。点眼薬は手術当日にもらったものを使い切ったら終了。2週間くらいでなくなったと記憶しています。  最初のうちは裸眼になるのが不安で保護眼鏡をかけていましたが、そのうち眼鏡の曇りが煩わしくて外すようになり、そのまま裸眼生活に突入しました。 毎日顔を合わせている人からは「化粧した顔

          瓶底眼鏡から裸眼生活になりました〜ICL手術体験記⑥術後一ヶ月検診

          瓶底眼鏡から裸眼生活になりました〜⑤術後一週間検診

          ICL手術の体験談ももうすぐ終わり。今回は一週間検診までのお話です。 手術翌日は自宅で安静にしていましたが、3日目には仕事にも復活。首から下の入浴やシャワーは解禁になったものの、洗顔・洗髪ができないため蒸しタオル洗顔とドライシャンプーで頑張ります。マスク生活のおかげで、すっぴんもほぼ目立ちませんでした。  保護眼鏡は目や眉やこめかみまで覆う大きさのため、手術を知らない人から見るとなにか言われるかな……と覚悟していたのですが、ご時世ゆえか新手のフェイスシールドと思わ

          瓶底眼鏡から裸眼生活になりました〜⑤術後一週間検診

          瓶底眼鏡から裸眼生活になりました〜ICL手術体験記④手術後の翌日健診

          前回に引き続き、手術当日のお話です。  手術シーンは終わったので、痛い話が苦手な人も今回から読んで大丈夫ですよ。  手術が終わると回復室に戻り、10分ほど椅子に座って休憩します。ここから保護眼鏡の装着がスタート。術後は目を守り、擦ったりしないよう注意しなければなりません。 視界はまだぼんやりしているけれど、明らかに視力が良くなっているのが自分でもわかります。あちこち見てみたいけど、まぶたの注射(麻酔だったのかな?)の影響で目を開けづらい。そしてまばたきをする

          瓶底眼鏡から裸眼生活になりました〜ICL手術体験記④手術後の翌日健診

          瓶底眼鏡から裸眼生活になりました〜ICL手術体験記③手術当日

          ICL手術体験記、今回はいよいよ手術のお話です。 術中の様子について、マイルドですがしっかり書きます。痛そうな描写が苦手な人は今回は読まずに次回の更新をお待ちください。  今年の北海道はドカ雪が続き、公共交通機関が麻痺して移動だけで大変な毎日でした。  手術を受けたのはそんな雪深い日のことです。  予約時に処方された抗生剤を目薬を、手術4日前から1日4回点眼します。病院には指定された時間に向かいます。 当日は不思議なほど冷静な気持ちで病院に到着しました。

          瓶底眼鏡から裸眼生活になりました〜ICL手術体験記③手術当日

          瓶底眼鏡から裸眼生活になりました〜ICL手術体験記②手術に至るきっかけ・後編

          前回の記事の続き。ICL手術に至るまでの話は今回で終わりです。 「ICL手術をするか悩んでいる」と話すと、周囲から反対ばかりされる毎日。その中でひとり、背中を押してくれる人がいました。 それが、私の母親です。 お金もかかるし自分の身体にメスを入れるICL手術。相談したら誰よりも反対しそうなのが両親だと思うのですが、私の場合は背中を押してくれたのが母でした。  何を隠そう、私のド近眼は母親からの遺伝です。母は私よりも視力の悪い最強度近視の人でした。60と数

          瓶底眼鏡から裸眼生活になりました〜ICL手術体験記②手術に至るきっかけ・後編

          瓶底眼鏡から裸眼生活になりました〜ICL手術体験記〜①手術に至るきっかけ・前編

          思い立ったが吉日、ということで登録してみたnote。これから少しずつ更新していけたらと思います。 今回は小説ではなくエッセイ的位置付けで、今年受けたICL手術という視力矯正の話をしていきたいと思います。ついて書いていけたらと思います。  視力矯正の手術といえばレーシックが有名ですね。私の周囲にもレーシックを受けた人は何人かいるのですが、ICLを受けた人はいなかったため、手術についてはひとりでインターネットで調べるしかありませんでした。  私と同じようにICL手術の情報を

          瓶底眼鏡から裸眼生活になりました〜ICL手術体験記〜①手術に至るきっかけ・前編