空想お散歩紀行 春の訪れ、天と地
春の雨、冬の間に乾燥した空気を潤すかのごとく、しとしとと降り続けている。
それは、新しく芽吹く命のために必要な水を天が与え、祝福するかのようだ。
そして地はそれに応えるように、緑や色とりどりの花たちを土の中から地上へと押し上げ、世界を色付かせる。
それは空の上から見たら、大地というキャンパスに様々な明るい絵具で描かれた、光と空気の芸術作品のように映るかもしれない。
そこに眠りから覚めた生物たちが、暖かな日差しを謳歌し、鳥たちもさえずる。
主に茶色や白が目立ったキャンパスに描かれる絵画と、生き物たちのオーケストラ。
それこそが春であり、それを指揮する最初の一振りが雨なのである。
と、人間たちは考えているのであろう。
だが現実とは、想像以上に現実であることがある。
「ぶえっくしょいいいッッ!!」
大きなその声は、遥か彼方まで届きそうなほどに響いていた。
「大丈夫ですか?神様」
「うむ。今日もここまで来とるようじゃの。おお、もっと雨を降らしといてくれるか。全部下に落としてしまいなさい」
「はい。かしこまりました」
神にそう言われて、従卒の者は急いでその場を離れる。
神は鼻をかみ、目をこする。どちらも何度も触れられたことで赤く腫れていた。
「あ~~~~、花粉症つらい」
春。神様の目も鼻もグジュる季節。
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