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『コミュニケーション・タスクのアイデアとマテリアル』使ってみた

私は本を読んで文章書くことは割といつでもできるのだが,授業のことは次の授業のことを考えるのに精一杯で一つの授業を記事にするのが遅くなりがちだ。
御多分に洩れず結構前のことにはなるが,こちらの本の助けを借りて授業をしてみた時のことを記しておく。

中学3年生,習熟度別に分けられた上と真ん中のクラス,1クラスあたり30名程度の教室だ。

私は,自分自身の英語学習経験から,教室におけるスピーキングを伴うコミュニケーションアクティビティへの苦手意識が強い。中学時代の英語の授業や大学のコミュニケーションの授業で同級生と英語で会話をする時も,あえてストレートな言葉で言えば「子ども騙し」だと感じていた。

その僕の苦手意識のせいで中2の頃から見ている生徒たちには2年間「話すこと(やりとり)」の経験が結構少ない。一方で(僕自身もオススメしていることもあり)海外の大学への進学や留学に興味を示す生徒も増えてきた。
ALTも30人に対して1人しか来ないし,近隣の大学の留学生もコロナの影響で呼べないし,そろそろ教室でのやりとりの活動をやらざるを得ないなと覚悟を決めた。

苦手なタイプの授業は,ひとまず出来合いのものに頼って,見様見真似でやってみるに限る。守破離の守を地で行く。

Spot the Difference

Spot the Difference(p. 38~)はいわゆる間違い探しだ。間違い探しとしての難易度がそこそこ高く,普通に一人で絵を見て間違い探しをしても楽しめるレベルだ。(サイゼリヤ程のレベルではないので安心してほしい)
もちろんコミュニケーションタスクなので,ペアで絵を一枚ずつ持って,相手に見せずにその絵の情報を伝えていく。相手の絵の情報を聞いて「あ,そこ違う!」などと反応して10個近く用意された間違いを探していく。
間違い探しとしてのクオリティの高さもあり,シンプルに盛り上がれる。

積極的な使用が想定される主な文法項目としては,「There is/are構文」「現在進行形」あたりだろう。特にThere is/are構文については,物の数が違ったり置かれている場所が違ったりするので,数量表現も適切に使用されることが望まれるし,当然場所を表す前置詞句は超重要だ。
本書をヒントに自作の間違い探しを作る場合は,同じものを違う場所に配置した間違い探しの絵を用意すれば,前置詞句の意味を考えながら繰り返し使うことに繋がるだろう。
自作でカラーのマテリアルが作れるのであれば,中1や小学生で色の名前を覚えるのにも良いかもしれない。

裏話というほどでもないが,なんと模範解答にない間違いを生徒達が見つけた。急遽,著者のお一人である田村祐先生に連絡したところ,著者陣も気づいていない間違いだった。「著者も見落としてる間違いがあるらしいから,頑張って見つけて報告しよう!」と言ったらもうひと盛り上がり!

絵も7パターンと豊富に用意されているが,8個目のマテリアルは絵ではなく表になっている。表を読み取り,英語で表現することが求められる。
まだ私の授業では使っていないが,タスクとして非常に興味深く,また絵以上に教員が真似て自作しやすいパターンかもしれない。

余談だが,私は学生時代やたらと活動のオーセンティシティ(Authenticity; 真正性),つまり日常にそういう場面が実際にありそうかどうかということに拘る時期があった。
こういうタスクに「電話で表の内容を聞いて,手元にある自分の表に書き写そう」みたいな日常みのある文脈を無闇につけると,「メールでエクセルファイル送ってもらっていいですか?」で決着が付いてしまう。
コミュニカティブ・タスクも虚構であることを受け入れた方が楽しく有意義になることが多そうだ。

Who Are They?

こちらもペアで一枚ずつ絵を持つタスクだ(p. 74~)。ただし今回は同じ絵を持つ。どこにインフォメーション・ギャップがあるかというと,そこに描かれている人の名前の表示である。
絵の中には10人程度の人がいるのだが,片方の絵に名前が書いてある人はもう片方の絵には名前が書かれていない。
生徒は相手からの情報をもとに手元の絵に書かれていない名前を書き込んでいく。終わったらお互いの絵を見せ合って答え合せをする。

こちらはタスクのレベル自体はSpot the Differenceほど高くないのだが,言語的には関係代名詞分詞の使用が促されるようなもので,中3の後半でわちゃわちゃするにはちょうど良さそうだ。
実際私は分詞の後置修飾までをある程度教え終えたところでこのタスクをやってみたが,結構な人数の生徒が早速,たどたどしさこそあれど,"The man looking at the smartphone is …"など分詞を使って説明していた。
関係代名詞もやり終えた今,もう一度やってみたらどうなるだろうか,ちょっと楽しみである。

タスクの繰り返し

ちなみに「もう一度やってみ」る方法だが,本書のマテリアルを使い切ってしまった場合,二つの道がある。
もう一度同じマテリアルでやってみることと,自分で同じタイプの新しいマテリアルを作ってみることだ。

Fukuta (2016)によれば,全く同じマテリアルによるタスクを2度繰り返すと,文法の正確性語彙の多様性が増す。
この研究ではモノローグのタスクを大学生が1週間という期間を空けて行ったものであり,中高の教室で行うペアでのタスクについてどこまで同じことが言えるかは分からない。

ただ,重要なことは「この絵はもう一回使っちゃったからなぁ」と必ずしも諦める必要はないということだ間違い探しだとさすがに覚えてしまっている部分も多いかもしれないが,架空の人の名前ならおそらく記憶には残っていないだろう。
また,より正確に,より多様な語彙を使って話すという目的に重きを置くならば,別に間違いや人の名前を覚えていてもさほど問題ではない。
特に,ペアのうち一人だけでもその絵をまだ使ったことがなければ十分楽しめるし,2回目の挑戦になる生徒は責任を持って積極的にタスクに取り組む可能性が高まる。

尚,一つ一つの授業のために論文を読み潰すことは私にはできないので,たまたま学部時代に縁あって読んだ福田先生の論文をあてにして,「繰り返しになるけどまたやっちゃおう!」と思っている。
「中学生のペアでのタスクの繰り返しに関する研究も調べろよ」というお叱りを受けてもやむを得ないという思いはあるが,残念ながら今のところその声に応えられそうにはない。

参考文献

Fukuta, J. (2016). Effects of task repetition on learners’ attention orientation in L2 oral production. Language Teaching Research, 20(3), 321-340.

加藤由崇・松村昌紀・Paul Wicking(2020). 『コミュニケーション・タスクのアイデアとマテリアル』三修社

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