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戦争映画についてあれこれ考えてみた

戦争映画についてあれこれ考えてみた

Netflixで 『西部戦線異状なし』を観た(異常ではなく異状という点に注意されたし)。本作はドイツ人作家による同名小説を元に1930年にアメリカ映画として公開された作品のリメイクではあるが、ドイツ人自身の手による再映画化となる点では単なるリメイクとは言い切れない。というかこの視点がまさに重要なのだ。

主人公は若きドイツ陸軍兵パウルで、舞台は第一次世界大戦においてドイツとフランスが激闘を交わしたベルギーおよびフランス北東部である。戦地がドイツから見て西なので西部戦線なのだ。ちなみに東部戦線はロシアだ。

本作の舞台となる第一次大戦は、今から1世紀以上前の1914年7月から1918年11月に行われた人類史上稀に見る大規模戦争であり、さらなる被害をもたらした第二次大戦の原因ともなった。この2つの大戦に挟まれた戦間期はたった20年しか保たれなかった。そして、現在のパレスチナ問題の萌芽も、第一世界大戦中のイギリスによる三枚舌外交にある。

そろそろ1年を迎えるロシアによるウクライナ侵攻があったからこそ、今一度“国家間の戦争”とはどういうものなのかを自分事化するためにも、戦争映画が持つ意味は大きい。核兵器が地球の破滅をもたらすものである以上、そう容易く使えるものではないし、ドローンによる索敵と爆撃や対戦車バズーカのジャベリンといった新しい兵器の活用も目立つものの、結局は泥臭い戦車戦と白兵戦の模様が報道によって日々伝えられている。

話を映画に戻すと、本作で印象的なシーンとして新しい兵器の登場がある。飛行機はもちろん、特に戦車(カルティエのタンクはこの頃の戦車がモチーフ)と毒ガス(後にアウシュヴィッツでユダヤ人を大量虐殺した)に対する恐怖がリアルに描かれており、塹壕で敵兵を待ち伏せるドイツ軍兵士を大いに苦しめた。手榴弾や機関銃による戦闘シーンはもちろんだが、銃剣やスコップで兵士同士が刺し合う白兵戦となるシーンも多く、少年らしさを宿していた主人公がどんどん無口になり、陰鬱な表情へ変化していく。戦争は兵士を身体的にも精神的にも破壊してしまうのだ。

時折流れる不気味な音楽(ブラックサバス感あり)も非常に効果的で、兵士に訪れる死や破壊を予感させる。また、随所に挟まれる美しい森や川、陽が差し込む大空といった風景描写が、死体と泥濘に塗れた薄暗い大地とのコントラスト描く点も興味深い。変わることのない自然の美しさが、戦争という人間の愚かさを際立たせる。

そもそも僕が戦争映画に興味を持つようになったのは、中学生時代に観たオリバー・ストーン監督の『プラトーン』で、高校生から大学生にかけて『ハンバーガー・ヒル』『カジュアリティーズ』『フルメタル・ジャケット』『地獄の黙示録』などのベトナム戦争を題材にした作品をレンタルビデオで鑑賞した。特に残虐な描写でインパクトが強かったのが『ハンバーガー・ヒル』で、徹底的にリアリティを追求した点がこの戦争の悲惨さを克明に描き出すことに成功していたと思う。

戦争は絶対悪であることは誰しも理解している。だけど、歴史上戦争がない世界は一度たりとも訪れたことはない。ロシアとウクライナによる“国家間の戦争”は珍しいとしても、“局所的な戦争”=内戦や紛争はずっと続いているし、ミャンマーやアフリカの国々で起きている暴動やクーデターなども含めると、戦争は世界で現在進行形なのだ。

美談や悲哀に満ちたストーリーではなく、戦争とは一体何なのか? そこで何が行われたのか? そこで戦い死んで行った先人たちの記憶を少しでも知りたい。イデオロギーはいったん脇において、戦争の本質を知りたかったから僕は戦争映画をよく観たし、今でもその思いは変わらない。

社会人になってから、さらなる衝撃を受けた戦争映画は『プライベート・ライアン』だった。この作品はアメリカ兵の視点から描いたノルマンディー上陸作戦であるが、冒頭の15分くらいでバタバタとアメリカ兵が死ぬ。大砲や爆弾で手足を吹っ飛ばされる者、機関銃掃射の標的にされ水中で死ぬ者、腹から飛び出した内臓を必死で押さえながら母の名を叫ぶ者。

爆弾や機関銃の音はもちろんだが、銃弾が身体に命中する音までひたすらリアル。我が家のシアターサウンドシステムでも十分すぎるほど四方八方から銃声や爆発音が聞こえてきて、まるで実際の戦場に居合わせたかのような感覚が味わえる。また、断片的にではあるが人間らしいドイツ兵の姿をも描写している点も見逃せない。

戦争の不条理さを描くという点では、サム・ペキンパーの『戦争のはらわた』という作品が秀逸だと思っていたが、アメリカ人俳優(ジェームズ・コバーン)が英語でドイツ兵を演じているという点で、リアリティを大幅に欠いている。また、兵士の心理状態を克明に捉えた『シン・レッド・ライン』も名作とされているので観たことがあるが、いかんせん退屈なシーンが多く冗漫な印象を受ける。

最近話題になった戦争映画として『ダンケルク』があるが、この脚本はどうしてもイギリス(連合軍)側に感情移入してしまう。陸海空の異なる視点と異なる時間軸から描いているのは斬新だが、どうもアクション映画を観ているような気分になってしまう。そもそも監督のクリストファー・ノーランは、流血シーンや酷い死体といった描写を意図的に避けたと語っていたし、敵方であるドイツ兵を周到に避けながら描写している点でも、型通りの戦争映画を作ろうという気はなかったのだろう。サム・メンデス監督の『1917』も、『ダンケルク』同様に没入感のある映像が特徴的だが、いかんせん主人公(連合軍)をヒーロー視した内容に疑問符がつく。

スティーブン・スピルバーグが『プライベート・ライアン』で辿り着いた境地と、クリストファー・ノーランが『ダンケルク』描いた世界観とでは当然ながら大きな違いがある。鑑賞者をあたかも戦場に迷い込んだような感覚にするという点ではどちらも共通しているが、鑑賞後の印象はかなり違う。

ひたすら戦場のリアルを描くことで、結果的に反戦感情へと訴える『プライベート・ライアン』の手法は、『西部戦線異状なし』においても同様だ。その点で、この突き抜けた描写と主人公に訪れる死の描き方も含め、非常に深い余韻を残す傑作となっていたように思う。




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