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映画「ユージュアル・サスペクツ」のラストで起こる物語構造の逆転について

アカデミー脚本賞受賞は伊達じゃない。

今回は、
嫁田 実さんよりコメントにてリクエスト頂きました、
「最後のオチ、ウソー!!系」の映画をご紹介したいと思います。

コメントに添えられているように、
「ミスト」はそのウソー系の最上級だと思います。

あんなに絶望的になったラストは
ミスト以外に見たことがありません。

私がウソー系の映画でまず
頭に浮んだのが本作でした。

ネタバレ全開でいきますので、ご注意ください。

一度目は、ぜったいネタバレなしで見た方がいい映画です。

ラストの展開を知ることで、
全体の文脈が変わってしまう。

一度目の楽しみは一度しか味わえません。

まだご覧になっていないという方は、
NetflixかU-NEXTかHuluで見られます。

文句なしに面白い映画であること請け合いますので
速やかにそちらでご一覧頂くのがいいかと思います。

ってかマジで早く見てほしい。



以下、致命的なネタバレ入ります。



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普通にタバコ吸ってカッコイイですやん


まずは、「ウソー!!」の瞬間はどこかということですが、

そのシーンを画像6枚を使って示したいと思います。


©️ASMIK ACE
©️ASMIK ACE
©️ASMIK ACE

普通に歩いてますやん・・・


©️ASMIK ACE
©️ASMIK ACE
©️ASMIK ACE

左手バリバリ使ってライター点けてますやん・・・

「ウソーーー!!」

ってことは、あの時も、あの時も、
全部演技してたんすか!
という驚きが脳内をめぐる。

冒頭から回想シーンから全部、
左足に障害があるフリ、
左手に障害があるフリを
ずっと見せられてきたことになる。

その事実の大きさに、
また私たちは愕然とすることになる。

一つの「ウソーーー」が
連鎖して「ウソーーー」を呼び起こす、
そんな構造をしてると思います。

とくに、ライターを落とすシーンがあります。

1回目に見た時は何気ないシーンだから
あんまり記憶に残ってなかったのですが、
2回目に見るとなんかムカついてくる。

動きにくい左手を不器用に使いながら、
自分で火をつけようとするが失敗して、
それを見兼ねた刑事が火を点けてます
(本当は自分でできるのにw)

©️ASMIK ACE

情報を引き出すか引き出されるか、
しかも2時間の制限付きで、という緊迫した状況のはずなのに、

この「タバコに火を点けさせる」ことで、
心理的に優位な立場に自分を置くことに成功してます。
(相手の行動を自分のために向けさせているから)

彼は作戦屋でもあるから、そういう知恵は
余裕で持ってることでしょう。恐ろしい。

「タバコ」が印象的に使われるシーンは冒頭にもあります。

この映画、不思議な編集をしてて、

クライマックスを冒頭に持ってきています。

このあたりのカメラの位置とか角度とかで
雄弁にストーリーを語っていく様は見事なのですが、

どうやら、最後はキートンがガソリンに着火して
爆発したらOKみたいな流れが伝えられます。

ガソリンになんとか着火できて
火柱が筋を伝っていくところで


©️ASMIK ACE

お食事中の方ごめんなさい><

この火柱を前に、はるか高いところから、
カイザー・ソゼはオシッコをして、火を消します。

最後の希望を断たれて、絶望的なシーンで

©️ASMIK ACE

余裕しゃくしゃくとライターでタバコに火をつける。

1回目の鑑賞だと、普通にタバコ吸ってるだけのシーンですが
2回目はもちろん、この男は左手を使えないフリを
ずっとしていたものだとわかっているので、
シラこさ?余裕感?みたいなのが画面に出てきます。

うわ、この場面からもう演技始まってたのかよ、と。


カイザー・ソゼの正体(笑)

まさかお前やったんかい。

映画冒頭から最大の謎の存在、
カイザー・ソぜの正体は
語り手であり、
片足を引きずる男、キント(ケビン・スペイシー)でした。

この、一瞬の真実を際立たせるために、
約100分の物語があった、と言っても過言ではないくらい、
見事に脚本が仕上がってます。

その運びと語り口の見事な鮮やかさで
わかりやすく、物語は進められていく。

やっとでてきた「本音の顔」

ラストに戻ります。

©️ASMIK ACE

両手両足を自由に動かしたあと
ラストは渋い顔で、強面に戻って、
余裕のタバコをふかす。

驚きの展開に「ウソーーーー」って愕然としている観客の前に、
「やったったぜ」と言わんばかりのこのやり終えた感。

冒頭から直前までは、ずーっと能面で無表情だったのが、

この一瞬だけ、「本音の顔」が見える。
恐い、というより、やられたーって感じが強いかな。

こんな顔をしたのはこのシーンが最初で最後です。

演技、というよりベースの顔作りが
名人級だと言えます。
ケビンスペイシーだからこその成せる技だと思います。

最後に、おまけです。


さんざんこすられてきたネタかもわからないんですが、
主人公チームの警察署での顔合わせの場面で、
NGシーンがそのまま使われることになりました。

©️ASMIK ACE

全員、必死に笑いを堪えてるのがおわかり頂けると思います。
とくに一番右のケビン・スペイシーはちょっと笑っちゃってます。

不機嫌にしなきゃいけないのに。

これが起きた原因は、脚本のイタズラもあったんじゃないかな。

なんで笑いを堪えてるかって言うと、
左のトッドから順番に
「キーをこっちによこせ、このチンポコ野郎」
と言っていくシーンのこと。

(この台詞作ったやつが悪意あるんじゃないか)
2番目のマイケルの番で

©️ASMIK ACE

「キーをこっちによこしやがれ
このチンポコ野郎があああ!!!
うらああああああ!!」

って感じで、フザけて言ったんです。

警官の
「もういい。下がってろ。」
っていうセリフも突っ込みみたいにうまく入って、

次のフレッドの番になると

©️ASMIK ACE

もう全員笑っちゃってますw

フレッドは必死に笑いを堪えながら
セリフを言うのですが、力が抜けてふにゃふにゃ言う。

このシーンはNGだと思ったようで、
このあと画面の外から、
「・・・In English please.」
日本語で、「ちゃんと言って」と脚本家が言ったそうなんですが、
このカットこそが本作で使われることになったそうです。

でも次のカットでキントは

©️ASMIK ACE

視線を一点に据えて、人でも殺しそうな
悪人の顔に戻ります。

一瞬カイザー・ソゼの顔が現れたかのように。

このあたりも、
ケビン・スペイシーの顔芸が生きて
引き締まった出来上がりになってると思います。

まとめ

ラストのネタばらし一つで
物語全体のこれほどまでに影響を与えることがあると
お伝えしてきましたが、

もっと単純に、面白いです。

お話全部がカイザー・ソゼのついた嘘だったとしても、
普通に犯罪モノのサスペンスとして面白いです。

音楽の使い方も抜群だし、
台詞回しも無駄がなくていい。

加えて、ラストのウソーーー展開で
もっと面白くなる、という映画だと思います。

「最後のオチ、ウソー!!系」の映画というリクエストでしたが

いかがだったでしょうか?

嫁田 実さんの挙げた「ミスト」も相当でしたが、
本作もある意味負けてないと思います。

いい映画を見直すきっかけになりました。

この場を借りて感謝申し上げます。
ありがとうございました。




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