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【映画/感想】『あんのこと』#7

閲覧いただきありがとうございます。
※以下ネタバレを含みます、鑑賞前の方はお気を付けください。


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ある程度あらすじでわかってましたが楽しい映画ではなかったです。
社会構造の歪が生んだ悲劇的な事実をまざまざと見せられた感じでした。

度重なる悲劇が観ていて辛かったです。
冒頭から売春、薬物、虐待が主人公である杏に降りかかります。
それらから解放されたかと思うと、中盤にとある事が起き再びどん底に落とされてしまう。
一部脚色している部分もあるみたいですが、この「負の連鎖」は全て事実のようです。
観れる環境にあるなら今すぐ観に行った方が良いと思います。
河合優実さんの抜群の芝居も楽しめます。


「正義の所在」は一体どこにあったのだろう。
鑑賞後、最初に思ったのはそんな事でした。
杏の更生過程で、誰ひとり悪い人がいるようには見えませんでした。
杏は前向きに人生を再構築しようとし、2人はそのサポートをする。
杏が何かを成し遂げれば褒めてあげるし、時には友として接する。
でもそんな人間にも裏の顔はあって、それについて世界は容赦なく罰を与える。

裁くことが本当の正義なのだろうか?
コロナ渦で分断された世界にすら分断された杏が、唯一頼りにしていた一本の糸がプツリと切れてしまう。
その糸が切れたらまたあの地獄の様な日々に戻ってしまう。
そんな現実から逃げるために頼れるのは結局クスリであり、そのクスリを使用した事で更なる悲劇が生まれてしまう。
本当に救いがないです。
特に現実が何か変わった様子もなく映画は終わります。
多々羅と桐野も救われることはありません。
杏のためにしたことは間違っていない。けどもう杏はいない。
この描き方は結構抉られました。

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緊張と緩和の映し方が見事でした。
お店でノートを買うか迷っているシーン。包丁を持って寝室に向かうシーン。
飛行機雲を吐きながら進むブルーインパルスを見てベランダへ出るシーン。
更生過程であるからこそ、もしかしたらと思ってしまう。見事な演出だと感じました。

役者陣は言う事なしです。全員名演です。
どうしたら良いかわからず過呼吸になる杏と無償の愛で包んであげる多々羅の高架下のシーンは本作唯一の愛に満ちたシーンだったと思います。
箸の持ち方や、ファーストカットの眼の下のクマだったり細かい所まで拘られていて良かったです。

現実の残酷さの描き方は『空白』や『さがす』なんかよりもキツかった気がします。
入江悠監督がここまで無慈悲に描くとは思ってなかったのでびっくりでした。

多くの人にちゃんと見て欲しいな感じた1作でした。

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