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【電波争奪戦②】 電波割り当て改革で「開かれた波」実現へ

前編では電波割り当ての重要性、電波の仕組み、日本における電波割り当ての問題点その1について解説。まだ見てない方はコチラ→

問題点その2:ホワイトスペース

日本の電波割り当ての問題点その2は、周波数帯に潜むホワイトスペースの存在だ。
ホワイトスペースとは簡単にいうと、「周波数帯にある空きスペース」のことである。順を追って説明しよう。

日本は2003年に地デジ放送が始まってから、それまでアナログ放送に使っていた62コのチャンネル(周波数帯の区分)を約40ch程にまで縮小した経緯がある。これは、アナログ放送だと電波の干渉が起こらないように隣同士のチャンネルの間に最低1チャンネルの間隔を空けないといけなかったからだ。昔テレビについていた、つまみによるチャンネルの切り替えがまさにそれである。

ところが地デジに切り替わってからは、リモコンによるボタン操作一つで隣同士のチャンネルでも干渉を起こすことなく番組を映すことが技術的に可能になった。例えば、4chで日テレをつけた後に隣の5chをつけてもテレ朝の番組がつくだろう。つまり、連続したチャンネルで番組を放送できるようになったのだ。

ここで考えてみて欲しいのは地域ごとのテレビ局の数。東京だと、1・2がNHKは、4は日テレ、5はテレ朝、6がTBS、7がテレビ東京、8にフジテレビ、9にTOKYO MXの計7局が放送している。神奈川では7局、大阪でも7局、福岡でも7局、…。
要するに、全国どの地域に行ってもテレビ局の数は10局もないのだ。

にも関わらず、テレビ局には総務省から40ch分の周波数帯が割り当てられている。何が言いたいかというと、実際のチャンネル数は10もないのに、30ch分がまるまる消費されているということだ。
この、本来使えるはずの空いた周波数帯をホワイトスペースと呼ぶ。

テレビ局側はこの30ch分のホワイトスペースを「地域間での電波による干渉を防ぐために、同じ番組でもチャンネルを離して使っている」という。

例えば、アゴラというメディアの記事では、茨城県の水戸と高松で同じNHKのEテレが13チャンネルと39チャンネルで放送されていることを表す区画図がある。これをNHK側は電波干渉を避けるためにチャンネルを離しているというのだが、日本にはSFNといって、隣同士の局であっても同じ周波数を使うことができる技術がある。それには地上波に伝送から光ファイバーに変えるコストが掛かるのだが、電波の価値に比べると微々たるものなので、そこまで大きな負担はない。

つまり、現在のテレビ局というのは、40chほど与えられなくても技術的には10ch前後で問題なく放送を続けられるということだ。にも関わらず、総務省がテレビ局に対して40chも割り当てているのは、次に話す「政治の人事権」が関係している。

問題点その3:政治の人事権

日本の電波割り当ての問題点その3。これが政治の人事権だ。

日本の役所というのは現時点で縦割り規制を敷いているところが多い。

これは分かりやすく言うと、役所が免許や許可を与えて
「許可を与えた事業者であれば事業をしてOK。許可を与えてない事業者はたとえルールを守れていても事業してはいけません」
という仕組みのこと。要するに、事業者が規制で求められる条件をどれだけクリアしてようと、役所、ここでは総務省による許可がないと何もできない状態になっているのだ。

このように役所が事業者の行う事業を免許や許可といった制度でもって上から規制するようなやり方を縦割り規制と呼ぶ。
もちろん、このやり方自体は人命や公共の安全を守るために分野によっては必要になることもあるのだが、こと電波に関して言えば、縦割りによる規制は弊害にしかならない。
理由は問題点2でも話した通り、日本のテレビ局に対して割り当てられている周波数帯域は、そのほとんどがホワイトスペースで技術的には必要ないにも関わらず浪費されているからだ。

電波割当に限らずこのような規制は、業態別で垂直型に規制することで利権が発生し身動きが取れなくなっている。例えば旅館業に対する規制・タクシー業に関する規制などがまさに典型だ。

「じゃあ、縦割り規制が無くなるように総務省の官僚が働きかければいいじゃないか」
と思うだろう。私も同じことを思った。

ところがこれがそうはいかない。その理由がまさに人事権だ。

総務省などの日本の省庁では、官僚の人事権を内閣が持っている。法律の条文でもたしかに大臣に任命権があることが明記されている。
ところが実態はどうかというと、官僚の選任は省庁におけるトップのポスト・事務次官、あるいは事務次官のOBが実質的に行なっている。大臣はその意向を汲んで、形だけ任命するような状態になっているのだ。内閣人事権が空洞化しているのである。

「そんなのすぐやめれえばいいじゃないか」と思うのだが、この意向を無視して人事を行うと、マスコミや野党から猛烈な批判を浴びる。なぜかというと、そのマスコミの中にいるのがまさにテレビ局だからだ。

さきほどの問題点2で、ホワイトスペースの周波数帯をテレビ局が浪費している話をしたが、それを総務省が事実上黙認しているのは、テレビ局がロビー活動をしているからだ。
要するに、「私たちテレビ局がいい電波を占有できれば、情報の発信を独占できる。だからチャンネルを余分に割り当ててほしい。その代わり、総務省にとって不都合な報道はしないし、天下りにも協力しますよ」ということ。

これによって総務省の事務次官をはじめとする高い役職の人間は、不祥事が起きても報道されないから有耶無耶にできるし、天下りもできる。だからテレビ局にとっって都合の悪い電波の割り当てには消極的になり、それを決める官僚は事務次官によって決められる。これで見事、電話の割り当て業務そのものが利権になるわけだ。

大臣が人事を決められないことで、役所と内閣の連携は取れず、規制改革が進まないことに繋がっている。そして、先ほど言ったような官僚による人事はもはや慣例になっている。
ならば慣例は気にせず法に従って人事を進めればいいと思うのだが、すると今度はマスコミと野党から猛烈な政権批判を浴びる。これを国民がそのまま捉えて世論に響けば、政権を維持できなくなるため迂闊に人事に介入できない。だから内閣と官僚の人事権に関する枠組みを変えないと規制改革はずっと進まない。まさにディレンマである。

解決するには

日本の電波割り当ての問題点を改めてまとめると
・技術的知識の不足
・ホワイトスペース
・政治の人事権

前編でも話したが、電波というのは私たちが情報を得るときの基盤となる技術であり、道路と同じくらい大切な国民の共有財産だ。なので、この電波を適切に割り当てるためにも、これらの問題点をどう解決したいいのか?ここについて解説しよう

解決には大きく以下の方法が挙げられる。
・電波オークション(テレビ局への立ち退き料の支払い)
・電波の区画整理
・ネットメディアによる電波割り当て問題の発信

サクッと説明していこう。まず一つには電波オークションの導入だ。
これは簡単に言うと、「使える電波の周波数帯を競りにかけて事業者かってもらいましょう」と言う仕組みだ。これが実現することで、割り当てまでに掛かる時間を短縮できるだけでなく、事業者が落札にかけた資金を回収しようと効率的に電波を運用し始める。そうなれば競争が促進されて電波がよりゆこう利用できると言う考えだ。

逆に、電波をすでに使っている事業者から帯域を自動返納してもらい、見返りに立退き料を払うというやり方もある。どういうことかと言うと、テレビ局から使っていない電波の帯域をまずは自主的に返納してもらい、その帯域をオークションにかけて新しい事業者に買ってもらう。そこで得た収益の一部をテレビ局に還元するということだ。そうすればテレビ局にとっては、「使ってない電波を返納したのにお金もらえてラッキー」となるだろう。その収益は番組制作費にするなりなんなりすればいい。このいわゆる逆オークションのような仕組みはすでにアメリカで行われている。

経済機構の一つ・OECD加盟国の中で、電波オークションを導入して意なのは日本のみで、世界的にみても日本は電波の割り当てに関するルールが古い。とはいえ、現在は総務省でも電波オークションの導入に関して本格的動き出しているので、実現するのは時間の問題と言っていいかもしれない。

次に電波の区画整理。これは問題点その2で挙げたホワイトスペースの活用に関する案だ。
テレビ局によって浪費されているおよそ40ch分の周波数帯をSFNの技術と光ファイバーの導入で10数chほどに縮小し、空いた30ch分を他の事業者に開放しようというわけだ。
ここで重要なのは、テレビに割り当てられるチャンネル数が10数chに減ったからと言って、放送には何の影響もないことだ。SFNは隣同士の局で同じ周波数帯を使えるようにする技術だし、光ファイバーはそれを実現するために必要な装置であるというだけ。これによってテレビ局の放送が脅かされることは何もない。ゆえに電波の区画整理は割り当て問題を解決する現実的な手段と言えるだろう。

そして最後、ネットメディアによる電波割り当て問題の発信について。
今回取り上げたこの電波の問題。知らない日本の方がきっと多かっただろう。私も今回調べるまでは全く知らなかった。
ところが何度も言う通り、電波は私たちに情報を届けるための基盤となる技術であり、道路同じく、国民全員に共有されるべき財産だ。なので、電波の割り当てが適切に行われているかどうかは、当事者である我々がきちんとチェックしなければならない。

そのためにはまずこの問題を知ることが重要だろう。そしてその役目を担えるのがネットメディアだ。
今回取り上げたアゴラをはじめ、日本にもネットメディアはたくさん登場している。それらのメディアから電波の問題についての情報がより発信しれるようになれば、いつもスマホ見ている私たちは「電波の問題が話題になってるらしい」ということで関心が集まるだろう。それを火種に役所の縦割り規制やテレビ局と総務省による癒着、電波の区画整理、内閣の人事権などについて国民全体で批判の声をあげれば、役所は嫌でも仕組みを変えざるを得ない。なぜなら日本は国民主権の国だから。

まとめ:炎症があるのはどこの国も同じ

ここまで読んでくれた読者の皆さん、本当にありがとうございました。電波割り当ての問題、そしてそこから広がる日本全体の問題が少しだも伝わったら嬉しい。

知れば知るほど、「日本って悲惨な状況なんだな」と思ってしまう気持ちはとてもよく分かる。私も今回調べてみて、日本のダメっぷりを改めて認識させられた。

ただ、国には何かしらの問題点が必ずあると言うのはどの国でもそうではないだろうか?韓国であれば財閥や1期だけの大統領制、北朝鮮なら孤立による経済の低迷、アメリカなら銃の取り締まりや紛争地域への軍隊の派遣。他のどの国であっても、表面化されてないだけで世界から見ても深刻に思える問題は何かしら抱えている。

炎症があるのはどこの国も同じなのだ。これが完璧にはできない人間の悪いところでもあり、また魅力でもある。
大事なことは原因を究明し、一つひとつ解消していくこと。別も問題が次から次へと出てくるだろうが、それも含めて議論し、解決案を出して実行する。その繰り返しで人類はここまで発展してきた。ならば目の前の問題には一人一人問題意識を持って取り組む他ない。それがきっと、社会で生きるということなのだろう。
それを忘れずに、ぜひ皆さんにも日本のいろんな問題に対して関心を持ち、自分なりにでいいので考えてみてほしいと思っている。それがいつか、豊かで暮らしやすい社会の実現につながるだろう。

というわけで今回は以上。全ての知に「幸」あれ。

ありがとうございました。


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