『失敗の本質』から読み解く、コロナ禍に学べない日本的組織 ①

戦時日本の組織的欠陥を考察した名著『失敗の本質』からコロナ禍における日本組織の問題点を考えてみたい。

そもそも本書の優れている点は、「精神論に流れてしまう日本人」というほぼ一般化した日本人論で締めくくるのではなく、(1)組織的欠陥を示したこと(2)欠陥を補うための行動指針を示したこと、だと考える。つまり、精神論に流れてしまう日本人という"精神論"ではなく、再現性を生み出すための解決策を提示してくれているのである。

しかし、戦後約80年となる現在においても本書で示された解決策を実行できないでいる日本組織をこのコロナ禍においてはっきりと観察できると感じてしまうのが、なんともやるせない気持ちになる。

そこで、現在の日本的課題を本書から読み解き、未来への教訓を考えてみたい。

日本的集団主義

日本的な組織の大きな特徴は、「根回し」などに代表をされるような人的ネットワークが重視された情緒的結合によって成り立っているということである。本書では、"個人と組織とを二者択一のものとして選ぶ視点ではなく、組織とメンバーとの共生を志向するために、人間と人間との間の関係(対人関係)それ自体が最も価値 あるものとされる" と定義している。当時日本軍においても、1)微妙な表現による作戦遂行の指示がなされていたこと、2)根回しと腹のすり合わせによる意思決定による作戦中止の決定が遅れたこと を指摘している。

翻って今の日本社会を見てみるとどうだろうか。1)については、緊急事態宣言発令と解除の決定がまさに同じではないだろうか。緊急事態宣言発令後の行動制限の内容が示されないまま、国民の「自粛」というキャッチ―だが曖昧な言葉による宣言がなされた。そして、期限の延長を経て1か月強の緊急事態宣言が解除される。しかし、その解除する基準について何も議論されないまま、感染者が"減ってきたから"、経済の再開が"必要だから"という抽象的な議論によって実行されてきたように思う。もちろん、政府内の背景には、財政や政治的な複雑な要因もあるだろう。

いずれにしろ、日本という国で見たとき、この重要な局面において曖昧な根拠によって決定がなされた事実を考え直さなければならない。

一番の問題は再現性がないということだ。それが今の第二波の問題が騒がれ始めたときに尾を引いているのではないだろうか。経験したことを活かせず、いま私たちは何をしなければいけないのか、行動指針がないままに、ああでもない、こうでもないと言い合っているのだ。つい数か月前に経験したことにも関わらず...。

・・・・つづく


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