愛こそはすべて
ダンスは嫌いではない
苦手でもない
けれども踊れなかった
漿子さんのせいだ
高校の文化祭が近い
ぼくは1年E組
漿子さんは3年E組だった
みっつの学年のE組がひとつのチームになって
パフォーマンスを繰り広げる
漿子さんはダンスのリーダーだった
ビートルズファンの漿子さんが選んだ曲は
All You Need Is Love
ダンスの振り付けも
素直じゃない男子の調教も
すべて漿子さんの担当だ
「きみちょっとレノンに似てるね」
漿子さんがぼくに言った
ある時期のレノンに結構似ていることは
ぼく自身も自覚していた
漿子さんは国立大学の医学部を目指している
噂では合格の確率は99.9%らしい
ダンスの練習を重ねるうちにぼくは
何度も彼女の診察を受けるようになった
ダンスは嫌いではない
苦手でもない
けれども踊れなかった
漿子さんのせいだ
心も体も
熱くなりすぎて
高まりすぎて
溢れすぎて
もがきすぎて
悶えすぎて
踊れない
文化祭が来ないうちになぜか突然
漿子さんは失踪した
誰もがみな取り残された
遺棄された
ぼくの腕の中には
赤字で愛と書いた腹掛けをした
赤ちゃんが残った
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