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さようなら、ぼろ

いつもと かわらない あさでした。
あいちゃんが 3びきの ねこたちの あさごはんの よういを していると しろみけの ききが とんできました。
ミャアミャアと おおごえで なきます。
でも なんだか へん。
いつもの「ごはん ちょうだい」コールでは ありません。

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「あれっ? どうしたの きき?」

ききは ベランダのほうに むかおうとします。
あいちゃんを よんでいるみたいです。
おかあさんが せんたくを していたので ベランダの まどが あいていました。

「あっ もしかしたら…」

あいちゃんは まっさおに なって ベランダに でました。
そこは 6かいでした。
ゆうきを ふりしぼって したをのぞきます。
すると…

くろい ものが したの ちゅうしゃじょうに おちていました。

「ぼろ!」

あしが がくがくして きを うしないそうになりました。

「おかあさん ぼろが おちた!」

エレベーターが まちきれなくて ひじょうかいだんを かけおりました。

ぼろが よこたわっています。
それは ひろったときと おんなじ かっこうでした。
きずひとつ ないけど めは あいたまま。

そっと だきあげて

「ぼろ!ぼろ!」

とよぶと

「あうう…」

と ふたこと みこと こえをあげました。
はあはあ いきもしています。

「あっ いきてる」

めは なみだで いっぱい。
あいちゃんが かおを ちかづけると
つつーっと ひとしずく こぼれおちました。

「とにかく びょういんに…
すぐ くるま だすから まっててね」

おかあさんの こえで あいちゃんは はっと おもいだしました。

「おにいちゃん おまもりが…」

はちまんぐうで もらった ペットようの おまもりが なくなっていたのです。
ぼろの くびに つけてあった にくきゅうマークの まるいおまもり…

「わかった。さがしておくよ」

るすばんを まかされた おにいちゃんが いいました。

まだ しんさつじかんの まえだったけれども びょういんに つくと ぼろは すぐ しゅうちゅうちりょうしつに つれていかれました。

「しばらく おあずかりします。
なにか あったら おでんわしますから いったん おかえりになってください」

しんぱいで しんぱいで ずっと いっしょに いたかったけれども せんせいに そう いわれて いえに もどることに しました。

いえに かえると おにいちゃんが まっていました。

「ほら みつかったよ。
ちゅうしゃじょうの はじっこまで とんでた」

おまもりを あいちゃんに わたします。
くさりが きれて とびちっていたのです。
いやな よかんが しました。
でも あいちゃんは おまもりを しっかり にぎりしめて いっしょうけんめい おいのりしました。
ぼろが たすかりますように…。

それから すぐ しょうがっこうに いきました。
がっこうなんか やすんでしまいたかったけれども

「だいじょうぶ。
きっと げんきになるわよ。
なにか あったら むかえにいくから」

と おかあさんが いうので いくことにしたのです。
おにいちゃんも こうこうに はしっていきました。

がっこうが おわって とんでかえると

「びょういんからは まだ なにも いってこないわ。
きっと だいじょうぶよ」

と おかあさんが いいました。

なんにも てに つきませんでした。
なにを したら いいのかも わかりませんでした。

はやく でんわが かかって こないかなあ…
でも いま でんわが あったら わるい しらせに きまってる。
よるまで かかって こなければ いいなあ…

そんな ことを あれこれ かんがえて いるとき でんわが なったのです。

おかあさんが じゅわきを とります。

「ぼろの ようすが きゅうへんしたって…」

おかあさんと びょういんに かけつけると ちりょうだいの うえに チューブに つながれた ぼろが よこたわっていました。
ひろったときと おんなじかっこうで。

あしたの あさには ペットれいえんから むかえにくるので そのひの うちに おかあさんと おはなを かいに いきました。
むらさきの かわいい おはなを いっぱい かいました。
ぼろを かそうばに つれていってもらうとき いっしょに はこに いれてあげるのです。

でも あしたになるまでは ぼろを はこにいれたくは なかったので おはなで かこんで へやのかたすみに おいておくことにしました。

すると やさしい みみが やってきて しんぱいそうに くんくん つめたくなった ぼろの においを かぎました。

ねむれない よるが すぎました。
あいちゃんは だれよりも はやく おきました。
ないしょで やりたいことが あったのです。

かぞくを おこさないように そうっときがえると ぼろを だいて そとにでました。
ぼろは すっかり つめたくなっていました。

あいちゃんは ぼろを だきかかえて こうえんの ほうに あるいていきます。
ぼろを ひろった ばしょまで…。

「ぼろくん おぼえてる?
ここに おちてたのよ。
はえと ありに たかられて…」

かたく なった ぼろは とても おもく かんじられました。
だんだん うでが いたくなってきました。
あかるくなってきて ジョギングや さんぽの ひとも ふえてきました。

「もう かえらなくちゃね。
おかあさんも おきちゃうし」

あさ 10じごろ ペットれいえんから むかえの くるまが やってきました。
だんボールばこの なかで はなに つつまれた ぼろに さいごの おわかれ をしました。

くるまの うしろとびらから つみこむ まえに もう いちど ふたを あけて こんどこそ ほんとうに さいごの おわかれをしました。
そして テープで ふたを とめました。

うんてんしゅの おじさんは きを つかって そっ ととびらを しめました。
でも あいちゃんには ばたんと いきおいよく しまったような きがしました。

くるまが ゆっくり しゅっぱつします。
さようなら、ぼろ…
あいちゃんは こころの なかで なんども くりかえしました。
(おしまい)

鎮魂歌:ばかやろう猫

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