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本の要約・紹介:人と組織を強くする交渉力

著者と本書の概要について

著者の鈴木有香さんは、アメリカのコロンビア大学ティーチャーズ・カレッジでコンフリクト(対立)・マネジメントを学び、欧米、日本でコンフリクト・マネジメントの研修に携わってきた方。

グローバル化やIT化などで、ビジネス環境の変化が急速に進む中、日本人の文化・習慣を踏まえて、日本人のための「人と組織を強くする交渉力」を提案しているのが本書です。

本書を読めば、交渉や人・組織の合意形成についての基本的な用語や知識は網羅できます。また、目次を見て、読みたいところだけをかいつまんだとしても前後の流れを気にしてせずに読み進めることができます。コミュニケーションや交渉などを学び始めたい方の一冊目としておすすめです。まさに「協調的交渉術」の教科書です。

今回は、その中から注目したポイントを3つ紹介します。

交渉、話し合いのルールを決める

これは交渉、話し合いの場が慣れていない集団で議論しなければならない時や、参加者が多く意思決定が難しくなることが予想される時には、必ずやっておくことをおすすめします。

著者は以下のような進め方を推奨しています。

①目的
②意思決定の基本的ルール
③議題項目とその順序
④役割分担
⑤発言順番の基本的ルール

第3章 共著的交渉のプロセスと進め方 より

ファシリテーションスキルの一つでもあり、とても重要な要素ですね。一つずつ内容を要約していきます。

①目的

参加者が具体的にここで何をすればいいか、目的を理解するのとしないのとでは、意思決定の効率や質に大きな差が生まれるのは間違いありません。イメージを共有できるように伝えるようにすると良いです。

②意思決定の基本的ルール

基本的に意思決定は3つの手段しかありません。①多数決 ②合意 ③独裁(責任者が決定する)です。交渉の場面では合意形成が意思決定となりますが、会議などの場面では意思決定方法は様々になると思います。基本的には合意に至ることが望ましいですが、全員一致の案は優れた案ではないともいいます。合意に至らなかった場合は、多数決にするのか、責任者の決定に従うのか、案件によってどの意思決定が適切なのか決めておく必要があります。

③議題項目とその順序

いわゆるアジェンダを決めておくことです。意思決定をするために、どんな論点についてどのくらい話し合い、交渉であれば双方の意見を確認、まとめを行い、最終的に合意案を作るというような流れとタイムラインを作っておくことで、参加者に具体的に伝わり解決策を導き出しやすくなります

ただ、個人的にはアジェンダで議論する論点を決めすぎると、柔軟な発想の意思決定や合意形成を阻害してしまうこともあるので、クリエイティブは場面では、アジェンダを緩く設定しておくことをおすすめします。

④役割分担

先にも述べましたが、参加者が多い場合、立場が異なる人たちが集まれば集まるほど、話し合いは難しくなります。そのような場面では進行役などの役割を決めておくことが必要です。

会議であればファシリテーターを置いておくと議論を促進してくれるでしょう。また、交渉の場面でも、当事者だけでは合意形成が難しい場面では、ミディエーター(調停役)という中立の立場の人をおくこともあります。

参加者に対しても議論のどういった役割で貢献してほしいかを伝えておくことも重要です。

⑤発言順番の基本的ルール

ブレストの場面では反対意見を言わないなどのルールを決めておくの同じように、交渉・議論の場面でもルールを決めておくことで円滑にコミュニケーションができます。例えば、相手が言い切るまで口を挟まないとかが定番です。

議論中、声の大きい人の意見に流されないように、また、参加者は意思決定に貢献するために集められているので、全員の意見を聞くと決めておくなどのやり方もあります。

納得は頭ではなくこことで感じるもの

「納得」できたときに「腹落ち」とよく言いますが、これは論理的に理解した状態ではなく感覚・感情を含めて理解できた状態を表す言葉だそうです。

だとすると相手に説明・説得するときに、自分の論理が正しいこと説明・主張するだけでは、決して納得を得られないということになります。

ではどのようにすれば、納得が得られるのか。

それは、説得する側は、相手が現状をどう認識し、そう感じているかを聞き心理的なニーズを理解しようする姿勢が必要だということ。相手に対して理解を示すことによって、相手も意見を聞いてくれる姿勢になってくれます。

この段階で初めて論理的説明が通用するようになります。

破壊的提案は人間関係を終わらせる

本書の中で、敢えてやってはいけないこととして取り上げられていたのが、破壊的提案です。破壊的提案とは、自分の要求を最大限通すために相手のニーズを妨害する提案をすることです。

競争的なプロセスに乗り上げると、「脅し」が「脅し」を呼ぶ悪循環に一気に駆け上がる危険性が高くなります。

第2章 コンフリクトを分析する より

破壊的提案は脅し、脅迫に発展します。 そして、互いにエスカレートしていって破談になります。最悪の場合は力による闘争になってしまいます。

これを防ぐには、自分が破壊的提案を持っているということを知っておくとが必要だと著者は言っています。それによって、この選択肢を使わないと決断できていることが大切だということです。

分配型(とるかとられるか)の交渉しか知らないと、自分の取り分を多くすることだけを考えてしまうため、破壊的提案をしてしまうのではないか、と感じる経験を私自身もしたことがあります。私がnoteやストアカで、Win-Win交渉術を広めてきたいと思った動機の一つでもあります。

本書で取り上げられているような「協調的交渉術」を多くの人に知ってもらいたいです。

まとめ・感想

今回取り上げた部分は、本書のごく一部のテーマです。他にも交渉やコンフリクトの分析対処法など多く情報が詰まっています。特に交渉という場面だけではなく、ビジネスにおける意思決定の方法として役に立つものだと思います。

世界の情勢をニュースで見ながら、本書を読みこの記事を書いていました。「協調的」精神の大切さを改めて実感しています。コンフリクトを話し合いで解決するという行為は尊いものだなと。


最後まで読んでいただきありがとうございました。
これからも交渉やコミュニケーションに関わる本の紹介をしてきます。
スキ・フォローなどしてもらえると嬉しいです。

ではまた。

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