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オーストリアの美しい図書館には、物語の匂いがした

※これは『楽しかった思い出の場所 記事コンテスト』のためにがんばって書いたら完成後に応募資格(日本国内在住)を満たしていないことに気づいて泣いてるアホな子の記事です。良かったら供養のために読んであげて下さい。(応募は5月10日まで)

「楽しい自粛生活の過ごし方」や「ストレスをためない方法」なんて情報がSNSにあふれ、引きこもりにもある種の才能が必要なんだと世の中が気づいたノットゴールデンな春、幸運なことに旅行好きであると同時に自宅警備員の才能もある僕は今の生活もそれなりに楽しんでいます。

それでも旅に出られない寂しさはもちろんあって、本を読んだりマンガを読んだりYouTubeを見たり、20年ぶりにLEGOを組み立てたりたまには文章を書いたりする中で、供給過多になりつつある脳内に対して五感への刺激が懐かしくなっているこの頃。電子の海で生きるどこかのお姉さんならともかく、数十万年前のご先祖様と同じ造りをしている僕にはまだ、精神と肉体両方の刺激が必要のようです。

さて僕がこの状況が落ち着いたら真っ先に再訪しようと思っている場所、それはオーストリアにある2つの図書館、Austrian National Library(オーストリア国立図書館)と、The Library of Admont Abbey(アドモント修道院図書館)です。図書館と言ってもテスト期間中に毎週末イス取りゲームと言う名の戦争が勃発していた懐かしのやつとは少し違って、信じられないほど荘厳で美しく、空間そのものが語りかけてくるような威厳を持つ歴史的な場所です。

強い言葉は弱く見えるぞ教の信者なので「荘厳」とか「威厳」とか重すぎる言葉を使うのは好きではないのですが、おそらく誰もが素晴らしい情景に出会ったときに経験しているように、いくら修飾した言葉を並べ立てても陳腐に感じてしまうので、表現は質量のある単語で済ませてさっさと写真を貼っちゃいます。

Austrian National Library

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The Library of Admont Abbey

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・・・自分で撮っといてアレですが超カッコいいですね。言葉と同じく写真も実体験を再現することはできませんが(その分写真にしかできない表現もある)、それでも写真だけでなんかスゴそうな場所ということは伝わるのではないでしょうか。

正直、これだけで2つの図書館が「死ぬまでリスト」(賢い人はBucket listって言うらしいです)に追加された方は、この先は読まなくても全然かまいません。「俺、この状況が落ち着いたら約束のあの場所へ行くんだ…」そんなフラグを立てられたならそれ以上の目的も幸せもありません。最後に、写真で見るのも素晴らしいけれど現地で感じるものは必ず忘れられない経験になることをお約束しますので、後はGoogle mapや旅行サイトを覗きに行ってみてください。

なので、ここから先は100%僕の経験と主観と趣味で書いていきます。

いきなりマンガについて語る

突然ですが、僕はマンガが好きです。たまにライターとしてマンガについて書いたりもしています。そして本も好き。保育園のころは『エルマーの冒険』を読み漁り、中学3年生の受験期には毎週末図書館で10冊本を借りてきて、平日はひたすらそれを読み、また次の週末新たに10冊借りるということをエンドレスエイトしてたくらいです。あと仏画(フランスの絵画じゃなくて仏様の絵の方)のトレスとかしてました。勉強しろ。

そんな僕がここ数年出会った中でもひと際好きな作品が、『圕(としょかん)の大魔術師』というマンガです。語りだすと止まらないので詳細は省きますが、タイトル通りビブリオファンタジーもの。(旅行記事でいきなり何インドア趣味を披露しとるんじゃ、、、って感じですが一応繋がります。宜しければしばしお付き合いを。)

この作品の一番好きなところは、歴史や書(※)、そこから生まれる物語や挑戦を、これでもかと綿密に設計された世界観で丁寧に丁寧に描いてる点。ストーリーもキャラも、そしてあり得ないほど緻密で繊細な絵も、作品全体から書へのリスペクトが感じられます。
(※)作品内では、本という形が成立するまでのあらゆる記憶媒体(石板、木棺、巻物など)を含めて「書」と呼び、図書館が大切に保護すべき対象としています。

『圕の大魔術師』の中で、こんなセリフが登場します。

最初の書は人が作ったかもしれない けれどすぐにその立場は逆になった
書が人を造り 書が世界を創っているんだ
(『圕の大魔術師』1巻より)

これを読んだときめちゃくちゃ興奮しました。(作、造、創と変化させてくのもカッコいい)

考えてみれば、書として知恵や記憶をアウトソースできるようになってから、人間は「正確に覚えて伝える」ことに脳みそを使わなくて良くなりました。じゃあ余裕の生まれた処理能力で何をしたかと言えば、間違いなく創造です。それまでの知識に対して、賛成したり反対したり違う角度から見てみたり。色んなことを考え探し始める。伝言ゲームから解放されて、連鎖反応で知のビッグバンが起こる。

だから、「図書館」という積み上げられた知の結晶が集まるその場所は、物理的な意味だけじゃなく存在そのものが人類の叡智の象徴なんだと思います。

書や図書館が持つ物語性、泉先生の画力やもともとの本好きが僕の中で綺麗に相乗効果を発揮して、すぐにこの作品は特別な存在になりました。

閑話休題海外駐在

さて話を現実に戻すと(閑話休題って「話を逸らす」じゃなくて「本筋に戻す」って意味らしいです。知らなかった!)、『圕の大魔術師』と出会ったのが2018年、その翌年から僕は中欧のチェコという国で駐在しています。

ヨーロッパに来てからはご多分に漏れず色んなところを旅していますが、存在が頭に刷り込まれているのか、自然と各地の図書館にも足が向いてしまいます。たくさんの場所を訪れたのですが、なかでも先ほど紹介したオーストリアの二か所はめちゃくちゃ良かった。

・規模の大きさ、豪奢さ
・実際に中に入れる(入口までの場合も結構ある)
・自由に見れる(ツアーだけの場合も結構ある)
・撮影可能(撮影禁止の場合も結構ある)

特に2番目が重要で。。

扉の重さと軋む音。開けた時に広がる光景への驚き。一歩踏み出すと漂ってくる香り。天井画に奪われる視界。耳元でオーディオガイドが語る歴史。窓から差し込む陽光。肌に触れる空気。なぜか無性に行きたくなるトイレ。

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いくら不要不急と言われても、その時その場所、自分の五感でしか感じられないものがあります。なぜ建てられたのか?誰がどんな本を読みどんな議論を交わしたのか?その後歴史はどう動いたのか?ひんやりとした広大な空間で静かに思考にふけると、そこには確かに、人類が育んできた物語の匂いがしました。

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あ、ちなみに本に囲まれた場所にいるとトイレに行きたくなるのは「青木まりこ現象」なんて名前が付いてたりします。図書館に入る前はお手洗いに行っておいた方がいいかもしれません。

Connecting dots

・僕はマンガが好きです。『圕の大魔術師』の大ファンです。
・僕は旅行が好きです。Austrian National LibraryとThe Library of Admont Abbeyはめちゃくちゃ良かったです。

この2つは、図書館というキーワードでゆるく関係していたものの、僕にとってそれぞれ独立した「良い体験」でした。

でもある日。

『圕の大魔術師』の作者、泉光先生のツイートです。そして、別のツイートに添付されていた4枚の写真。そこに写っていたのは、紛れもなくAustrian National LibraryとThe Library of Admont Abbeyでした。
(観光客の顔が映っていたのでここには貼れませんが。。)

ゾワーーっと身体の内側から鳥肌が立ち、一気に脳髄へ直撃する感覚がありました。

先生もあの場所にいたんだ、あの空気を感じたんだ、それが物語の一部になってるんだ。大好きなあの作品とあの場所は繋がっていたんだ…!(めっちゃ早口)スティーブ・ジョブズ先生、これがConnecting dotsですか!!

もちろん客観的に見れば、先生が取材でオーストリアを訪ねていた、それだけのことです。だから二つが結びついてるのも当たり前。でもそれぞれを別々に経験して別々に好きになった僕にとって、それは本当に特別な瞬間でした。『圕の大魔術師』のキーパーソンであるセドナが言います。

なにかを学んだり経験していると、ごく稀にこのような瞬間に立ち会えることがあります。

・機内で見た映画の主人公が、翌日読んだ歴史書にも登場して世界史の一部になる
・海外赴任先に決まった小さな国の小さな街が、好きだった作曲家の出身地であることを知る

新しく知ったことや見たこと、別々の引き出しに置いてある知識や経験、それが思いがけず繋がった時。点と点だったまばらな知の集合にバチッ!と電気が走り、回路ができる感覚。あの快感は本当にたまらないです。そのために学んで遊んでると言ってもいい。点が多ければ多いほど、その瞬間が訪れる可能性は高くなります。

だから僕にとって、家の中で本やマンガを読んだりゲームをすることと、外で誰かと会話したり旅行することは全く対立していません。どれも、いつかリンク合体して物語になるのを待っている大切な種です。

今は世界中がStayAtHomeな状況で、過ごし方もつい偏りがちになってしまうかもしれません。でも予期せず生まれたこの時間は、インテリアになっていた本を読んだり、敬遠していたYouTubeを観てみたり、ノープラン旅行派はめちゃくちゃガイドブックを読み込んだり、普段と違うことに手を出す絶好の機会でもあります。

気兼ねなく旅ができるようになった時、気になっていた国やお気に入りの場所を訪れた時、この期間に蒔いた種があなたに新しい体験や喜びをもたらしてくれるかもしれません。

アクセスについてちょこっと

締めに入る前に、現地のアクセスについて少しだけ。最初に言っておくと、僕は現地へ自分の車で行ったのでそれ以外の手段については情報無しです。でも可能なら、精神的なハードルは死ぬほど高いだろうけど、レンタカーも視野に入れてほしいなと思っています。

まずAustrian National Libraryについてはオーストリアの首都ウィーン、しかも観光のメインとなる旧市街エリアにあるので、特にアクセスで困ることは無いと思います。

一方でAdmontは大きな都市から離れた場所にあるため非常に行きづらく、車以外ではウィーンやリンツから電車とバスを乗り継ぐ必要があるようです。この場合、ルートを調べてたどり着くだけでもかなり大変だし、なにより、見学中も帰りの手段や時間のことがずっと気になってしまう可能性が高いです。せっかく行くのであれば、ぜひ何事にも邪魔されずじっくり世界に没頭してほしい。

そしてもう一つ。Admontから車で1時間くらいのこれまた非常にアクセスの悪いところに、Hallstattというそりゃーもう美しい湖畔の街があります。せっかく近くまで来るならココを訪れない手はありません。

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さらに車ならドイツやチェコなど近隣にも気軽に足を延ばせるようになります。交通ルールも難しくは無いし、左ハンドル右車線も意外とすぐ慣れます。なので、そうさ100%勇気な人はぜひレンタカーも検討してみてください。でも絶対に無理はしないでね。(というか、事前に連絡を頂ければ僕がウィーンまで迎えに行ってAdmontまで連れて行きます。結構マジです。)

というわけでまとめ

先ほどカッコつけて「物語の匂い」という表現を使いました。

身も蓋もないことを言ってしまえば、きっとそれはただ木や紙が古びた匂いです。おじいちゃん家の小さな書斎や古書店、BOOKOFFで嗅ぐものと同じかもしれません。

それでも僕があの場所でそう感じたという意味でそれは真実だし、現象に合理的な説明が付けられたとしても、それをただの必然で片付けてしまう必要はありません。少なくとも、『圕の大魔術師』と2つの素晴らしい図書館との出会いがこの記事を書かせ、こうして小さな新しい書が生まれたのは事実です。

いきなり訪れた世界的危機をきっかけにあらゆることが急速に変わっていて、「オンライン化が10年早く進んだ」なんて意見もあります。リモートワークなど難しいと思ってたけど意外と出来るじゃん、なんて事も多くて、状況が落ち着いても不可逆な流れはたくさんありそうです。間違いなく物理的な移動は減ります。

それでも、ここ数年キャンプや音楽フェスが人気だったように、便利が進んで全てのクオリティーが一定以上であることが当たり前になると、不便さやアナログ感、ライブ感など「あえてやる」事はある意味贅沢に変わります。

旅行はお金も時間もかかるし準備も移動も大変で…めちゃくちゃ不便でどうしようもなくアナログで、、、だからこそ心と五感全てが刺激される最高の贅沢です。今はウズウズもグッと我慢しなければいけませんが、おうち時間でいっぱい点をばら撒いて、状況が落ち着いたら思いっきり飛び出して行きましょう。

最後に、こうなったら最高だなーと思うのは、この記事を見て「自分はこっちの図書館の方が好きだ!」「ここにはこんな素晴らしい図書館もあるぞ!」なんて異論や知見が集まってきて、いつか僕がそこを訪れ、そこにしかない匂いを感じて、またこうして小さな物語を書くことです。

それでは。


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