人類 vs. 感染症 「新型」タンパク質が鍵に?(下)
これまで、感染症がどのようにして広まったのか、なぜ未だに発生するのか、ということを説明しました。
では、どうすれば感染症の繰り返しがなくなるのでしょうか。そこで、最後となる今回は、感染症の根本的な対策を紹介しようと思います。
◉目次
①感染症の歴史 −人類 vs. 感染症 「新型」タンパク質が鍵に?(上)
②感染症の原因 −人類 vs. 感染症 「新型」タンパク質が鍵に?(中)
③感染症の予防策 −人類 vs. 感染症 「新型」タンパク質が鍵に?(下)
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③感染症の予防策
こうした状況の中、どうやって感染症を防ぐかという根本的な解決策までは、よく議論されていないように感じます。次に公開されるテレ東の動画ではワクチンや抗血清が中心に語られるでしょうし、予防接種や抗生剤、ウイルス治療薬はもちろん大切です。
ただ、今回のように新しい病原菌に対してはワクチンを作るのにも時間がかかり、その間に多くの人が命を落としていることが連日報道されています。
さらに、細菌型の感染症に対しては、有効な抗生物質を見つけても耐性菌が出て効かなくなるという問題もあります。
そういう点においても、新たな病原体が発生するリスクを抜本的に下げるための方法、予防策が必要なことは明白です。
では、どのように病原体の発生リスクを下げるか。
隣国で野生動物の取引が違法になるという報道があったように、病原体を保有する可能性のある動物との接触を避けることは、もちろん理に叶っています。
そうした動物を含め、病原体に汚染された肉が売買される可能性のある"wet market"を閉鎖することも対策の一つとしては有効かもしれません(が、以前、鳥インフルが発生した際、閉鎖された市場の代わりに出現した闇市場が感染を拡大させたという皮肉もあります)。
しかし、市場の閉鎖や取引の禁止だけでは完全ではなく、上述した通り、家畜という名の貯水池・増幅器が働く限り、感染爆発が起こる可能性があります。
とはいえ、畜肉やジビエは禁止ということではなく、人間の知を生かしたより良い解決策があるはずです。
その上で、鍵になるのが「代替タンパク質」です。
これは、動物性タンパク質(肉、魚、卵、乳製品等)を従来の方法(畜産、養殖、狩猟・捕獲等)に代わる方法で生産するというものです。
これまで色々開発されてきましたが、大きく分けると現時点で以下の四つの手法があります。
A. 植物性タンパク質(豆、ナッツ、藻類等)で再現する
B. 微生物(酵母やキノコ等の真菌類)や発酵でタンパク質をつくる
C. 空気(二酸化炭素やメタン、窒素等)からタンパク質をつくる
D. 動物細胞(筋肉、脂肪、結合組織等)をそのまま培養する
※昆虫食や陸上養殖等、動物性タンパク質の生産を効率化する手段もありますが、既存の動物性タンパク質や家畜化の代替となり、虫や魚を始め、動物に由来する病原体(寄生虫やスーパー耐性菌含む)の発生を低減させる手法、という観点からあえて外しています。
上記のどの生産方法も、先に述べた問題を引き起こす家畜化という手段が不要で、(I)病原体の発生リスクを抑えられるのはもちろん、(Ⅱ)環境負荷や利用資源を節約可能、(Ⅲ)エネルギー効率や生産コストを改善可能という利点が共通してあります。
(Ⅰ)病原体に関しては上述の通りです。家畜起源でも自然に存在するリステリアや土壌にも分布するボツリヌス等が、代替タンパク質の製造現場で混入するリスクは依然としてありますが、家畜を介して人間に重篤な病気をもたらす要因が減るというのは非常に大きいです。
また、世界の抗生物質の7〜8割が家畜に投与されていると言われており、畜産業や養殖業で多用される抗生物質を投与する必要がなくなると、先述したスーパー耐性菌に対する懸念も低減すると考えられます。
(Ⅱ)環境負荷の低減というのは、従来の動物性タンパク質の生産方法に比べて、水や土地の使用量を減らす、特に温室効果ガスの排出量を減らすことで、より持続的な生産が可能になるというものです。
意外なことに、畜産業は、自動車を含む運輸業よりもCO2やメタンを多く排出し、温室効果に寄与が大きい産業の一つです。また、地球上の利用可能な淡水や土地の3割近くが畜産に使用され、食用作物のおよそ4割が家畜の飼料に回されています。
こうした温室効果ガスや、飼料栽培や家畜の放牧のための森林伐採は、地球温暖化を始め、豪雨、洪水、旱魃、山火事等の気候変動を巻き起こすことが知られており、近年そうした自然災害が問題視されています。
その一方、代替タンパク質はこれらの資源を大幅に(例えば、米国で人気の代替肉は、原料の生産から製品の製造、流通まで、全工程を通し、水の利用を93%、土地の利用を99%、温室効果ガスの排出を96%)節約できることが知られています。
また、畜産農場や養殖場における、排泄物や残餌等による土壌や水質(地下水、湖川、海洋)の汚染など、環境破壊のリスクも低減させると期待されています。
(Ⅲ)エネルギー効率でいうと、米国で1キロカロリーの牛肉や卵を生産するのに、数十倍ものカロリー(飼料など)が必要なのですが、代替タンパク質はエネルギーのインプットを驚異的に(同製品だと87%も)減らすことが可能です。そして、その分だけ生産コストや市場価格も下げられると考えられます。
また、2050年に到達する100億人の人口を養うためには、現在の50%以上食料を増産する必要があると言われています。そのため、こうしたエネルギー効率の良いタンパク質の生産は、食糧危機やタンパク質不足の回避・解決にも繋がると考えられます。
その他、健康面やカスタマイズ性(好みの味、栄養にできる等)においても、代替タンパク質は利点があると言われています。
最後に。
動物との接触を完全に絶たない限り、病原体の発生を根絶するのは難しいですが、こうした生産方法が広まれば、家畜を含む動物に媒介される感染症の発生、蔓延リスクをかなりの割合で低減できると期待されています(※最下部参照)。
現在各方面で取り組みが進んでおり、味の再現や増産等がうまく行けば、地球にも、動物にも、人間にも、財布にも優しい、といいことづくしになりそうです。
特にDの方法なら、高級なブランド牛や乱獲が問題になるクロマグロやニホンウナギ(さらには安全性が疑問視されている食用コウモリのようなジビエまで)も、いつでも手頃な値段で安全に食べられる可能性があります。
さらに、裏庭で野菜を育てたり、キッチンでビールを醸造するように、近い将来、自宅で肉や卵を育てるなんてことも可能になるかもしれません。
そして、遠隔診断やリモートワークを始めとするITサービス等も拡充すれば、どこにいても衣/医・食/職・住にアクセスでき、都市化や移動の必要性が減ることで、ヒト−ヒト間の感染も減るのでは、と想像しています。
最初の記事で、旧約聖書に疫病が書かれているという話を取り上げましたが、新約聖書には、イエス・キリストが、5つのパンと2匹の魚を増やして5000人を満腹にさせたという奇蹟が書かれています。
まさに神の御業としか思えませんが、上の技術を使えば、そうした奇跡も可能になり、疫病も過去の物になるのでは、と期待しています。
よく「歴史は繰り返す」と言われますが、過去から学び、未然に防ぐことで、繰り返すことがなくなる?かもしれません。
以上、感染症の歴史や予防策についてまとめてみました。もしこれ以外にも良い解決策がある、代替タンパク質の詳細を知りたいという方は、ぜひ教えてください。
◉おさらい
感染症は、野生動物を家畜化して共生し始めて以降、人間を苦しませてきた。動物を介して人間に感染することから、動物からの媒介を減らして未知の感染症の発生リスクを下げる予防策が必要となる。そこで、動物性タンパク質を代替・効率的に生産する4つの方法(「植物資源で代替」「微生物・発酵で生産」「空気から生産」「細胞培養で生産」)や、その方法で作られる代替タンパク質が広まれば、歴史の繰り返しがなくなるのではと期待されている。
※後書き
もしご興味があれば、今回参考にした「銃・病原菌・鉄」という本と「クリーンミート」という本を読まれることをお勧めします。
前者は、病原菌と感染症の起源や歴史を知る上で大変勉強になりますが、それとは別に、なぜ世界の勢力図が今のようになったか、もう一度歴史をやり直したら、例えばアジアが世界の覇権を握っているのかという疑問に対する答え、一説も教えてくれます。
後者は、近年、世界中で誕生している代替タンパク質のプレーヤーが、どういう考えで何を目指して活動しているのか、またどこまで進捗しているかという現在の状況についても知ることができます。
この二冊を読まれたらわかるように、人間も文化も時代に合わせて少しずつ進化・アップデートしてきましたし、これからも進化していくはずです。
これまでの進化は、自分達の利益だけを考えるだけで良かったかもしれません。しかし、今回の事態や気候変動など、我々人間が不利益を被ることも増えてきました。
これからは他者や社会全体、そして地球の利益を考えて、進化し、共存していく道が開かれているはずです。
※参照
同じように、家畜と感染症の関連性を報告している記事を記載しておきます。(気分を害される可能性のあるサムネイルが付いた記事は、URLのみ添付しました。)
https://sentientmedia.org/ominous-links-between-covid-19-and-industrial-animal-farming/
https://www.nationalreview.com/magazine/2020/04/06/senator-booker-is-right-about-factory-farming/
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