見出し画像

【読書感想】泡坂妻夫『湖底のまつり』

2017.11.30 読了。

泡坂妻夫『湖底のまつり』 

『できることならば、カバー裏や巻頭に記されたあらすじも、この解説文も、あるいは他の場所で得てしまった何らかの情報も、すべての予備知識や先入観をどこかに封じ込めてしまった上で、最初のページをめくられますよう』

綾辻行人さんの解説文はこう締めくくられている。

書店で帯に惹かれて手に取った。奥付には初版が1994年と記載してあり、結構古い本なんだなと思った。後で調べてみたら1978年の作品でこの文庫は復刊本であった。この帯はその復刊本に巻いてあるらしい。綾辻行人さんのコメントがなければ素通りしてしまっただろう。本屋さんでこの本と帯に出会えて本当によかった。出会うためには本屋に行かねばならぬね。ほんとそう思います。

この小説は、本当に本当に読み応えがあって多くの人に薦めたいけれど、この本を手に取った方に前知識を持って欲しくない。見てきた景色を話したくない。広めたいけど広まらない。そういう本でした。

綾辻行人さんはこうも言っています。 

『これ以上は書けない。(中略)最高のミステリ作家が命を削って書き上げた最高の作品、それを前にした読者によけいな情報を提供してしまうような真似は、何をおいても避けねばならない』

何を書いても核心に触れてしまう。例えば、感動したであるとか、泣けたであるとかそういう事さえも書きたくない。

とはいえ、何も書かないのもアレなんで書きます。結局書きます。でもちょびっとだけ。

まず、冒頭の自然の描写が素晴らしい。文章は流麗でとても読みやすい。湿度が高い。でもジメジメとはしていない。自分も深い森にいるような錯覚を覚える。細か過ぎる描写が伏線なのだろうとは思う。思うから、熱心に取りこぼさず集中して読む。そうすると、いつしか伏線やミステリなんて関係ない世界に入り込んでしまう。官能的な純文学の世界。そこから出ると、現実の閉鎖的な村社会。世界が目まぐるしく変わっていく。

早く本を開きたい。続きが読みたい。あの世界に行きたい。取り憑かれたような2日間だった。2日で読み終わるとか私にしたら異常な程のハイスピード。

本当に凄い読書体験でした。

#湖底のまつり  #泡坂妻夫
#文庫本  #創元推理文庫 #綾辻行人
#読書  #読書体験 #読書感想 #読書記録 #読了
#竹竿の本棚

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?