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バックオフィスシステムの一考

会計システムって何を使ってますか?とか勤怠システムは何を使ってますか?とか、そういう質問を受けることがある。しかしながら、種々の会社の管理部門を預かってきた立場としては、正直そういう単品質問は何も物事を解決しないと言いたい。収益を生まないシステムを自ら作ることは管理部門の場合は稀なので、提供側の単品販売ロジックにしたがって選択するしかないから、単品質問にならざるを得ないという状況もあるだろう。

昨今ではオンプレミスでの製品提供は姿を消して、SAASでのサービス提供が主流になってきている。多くの提供会社がしのぎを削ってよりよい製品を色々な切り口で提供し、乗り換えを防ぐために機能強化を図って開発競争を展開している。2020年くらいまではそうしたサービスの単品販売が主流だったような感じだが、ある程度勝負はついてきていて、最近では〇〇×□□というAPI連携を前提とした合従連衡での販売競争が強まっている感がある。

こうした企業環境の中で管理部門は、各種取引が適法性を担保され、適度にリスクがコントロールされ、効率的な内部統制を実現し、適正な決算報告を行うということが求められる。とはいえ管理部門が構築しようとする社内プロセスの全てを責任をもって、担保してくれるシステムサービスを提供してくれる会社など存在しえないのだ。提供側はUser数の伸びそうな領域をカバーする製品づくりには力を入れるのだが、実は事業会社のバックオフィスすべてをカバーすることに関心はない。つまりは、管理部門は、自分たちの会社の発展段階や今後の成長戦略、業界のビジネスモデル、社員のスキルセットを考えて、自ら包括的なシステム設計をしていく必要がある。サービスAとサービスBを組み合わせ、あるレベルに達したら、ここはサービスBはサービスCに入れ替えて、とシステムを更新していくという「想定」を常にしておくことがとても大事なのだ。

末端の会計システム

会計システムと聞くと何かとてつもなく重要なシステムのように思えるし、事実そこには会社の経済的取引が全部記録されているという意味では、簡単に修正できてはならないし、正しい数字が正しいタイミングで取引が記録されていかなければならない。その集計結果が損益計算書や貸借対照表になり、投資家や税務当局に提供されることになる。又、適切な分析を加え、組み換えを行うことで経営判断資料としての管理会計情報が提供される。

しかしながら、よく考えてみれば会計システムは単に集計システムでしかなく、むしろどうやってInputするかがとても大事なのである。つまり、その元となるデータがどうやって生成され、どうやってそのデータが会計システムあるいは経理担当に渡されるのかが重要なのだ。極論、会計システムは仕訳データを集計するだけなんだから、正直どのメーカーのものも差があるはずがない。いわばデータ量の多い巨大なエクセルでしかない。つまり、会計システムを考えるというのは、本質的には会社の中のあらゆる経済的取引情報をどうやって収集するかというプロセス設計をするということなのだ。

最近、SAASの会計システムとしてfreeeやマネーフォワードが有名になってきているが、私が考えるあのシステムの最も優れた点は、銀行システムとの接続だと思っている。貸借対照表の流動資産の主要項目となる普通預金口座の記録は、まさに会社の資金収支が全部記録されている。それを全く過不足なく、会計システムに半自動的に取り込めていくというのは、経理処理の容易性・効率性、情報の網羅性・適時性という内部統制の観点からも、相当素晴らしい機能だと考える。

損益計算書のトップに出てくるのが売上高であるが、実はこれは普通預金の記録から読み取りきれない。売上高を把握するなら、商品やサービスを売ったという事実をどうやって認識し、いくらの金額の請求書を発行するか、を考えなければならない。そして、その入金期日に誰がどうやって入金確認をするのかが出来て初めて、普通預金の記録と関連してくることになる。その一連の取引を設計しなければならない。

小売店であれば商品を売るのはレジで顧客に商品を渡し、お金を預かった時点ということになる。となると会計システムよりもどういうレジを導入し、どうやってお金をもらうか、という観点が会計システムの選別なんかよりもはるかに重要。レジに商品販売した記録を残さずに顧客に渡してしまうなんて事が起これば、収益機会を失うし、商品の横領も許し、健全な企業風土が形成されない。顧客から受け取ったキャッシュをレジに入れないで、容易に自分の財布に入れてしまえれば、それもまた不正の温床になる。誰がいつどのレジで仕事をしたのかのシフト管理、仕入れた商品がちゃんと販売されているかの棚卸管理、販売した分だけ決済されて入金されたかの回収管理こそ重要ということになる。

B2Bビジネスをしているとして、請求書を発行するときを想像してほしいのだが、商品名だけでなく、相手先の企業名、部署名、担当者名、住所あるいはメールアドレス等を把握していないと発行できない。もう一歩踏み込んで考えると、その相手先企業との取引を開始するぞ、という時には取引条件を決める契約が必要になる。当該顧客が商品を売ってお金を確実に払ってもらうえるかどうかという与信調査も必要になるし、販売代金が回収できないとなればどう動くべきなのかも取り決めて置く必要がある。

日本では反社チェックも暴対法の要請から重要なプロセスになる。つまり、取引開始をする前にもいくつかのステップを用意しなければならないのだ。コロナ禍でかなり導入が進んだ気もするが電子契約プロセスも円滑な取引開始には必要と言えるし、契約そのものを記録し管理することも重要になる。契約書自体が適切なのかを判断するのをサポートする契約書審査システム、さらには締結した契約書の管理システムといったものも昨今のIT技術の進歩により登場している。

最近ではRPAも結構リーズナブルな価格になり、人力で行ってきた反社チェック業務をロボットに行わせ、最終判断だけを人間が行うといったことも可能になってきている。こうしたプロセスを経て、取引を開始時出来た企業をデータベース化して、請求書発行管理システムの基礎データとすることになる。これはそのまま売上情報として会計システムに流し込む際にも使われるようになる。

会計システムがいかにプロセスの末端に位置するシステムかということがよく分かるだろう。

勤怠管理システムは人事のシステムなのか

多くのスタートアップは社員数が増えてくると、労基法の要請もあって、就業規則を整備し、勤怠システムを入れて労働時間管理をするようになる。その労働時間の記録に基づいて残業手当や休日勤務手当を含む給与計算の基礎データとして使うようになる。36協定の締結も行われ、違反状況を確認するようになる。労基署も勤怠データの正確性にはかなり関心があるようだ。昨今の上場審査では過労自殺事件の影響もあって、きっちり見られる主要ポイントになっている。コンプライアンス上の問題であり、残業未払があるようであれば簿外負債の不適切会計の問題となるのだ。業種にもよるが、こうした労働時間管理は、製品原価の基礎資料にもなるので会計と密接に関係することになる。

給与計算上は、有給日数管理もしっかりと行われないと適切な計算ができない。有給なのか無給なのかで計算結果が変わってきてしまうからだ。企業が発展し、JGAAPから企業買収した時に営業権を償却したくないとか(最近これも変わりそうだが)、海外投資家に説明しやすいようにとかで、IFRSで決算をするようになったりもする。そうなると有給休暇引当金の計算が必要になり、その意味でも有給消化状況はシビアに会計と結びつくことになる。

つまり、勤怠管理システム導入を労務担当の人間が給与計算だけの視点でシステムを選択してしまうと、そこに紐つく会計処理が視野に入っていないことになる。会計処理上、適切に労務担当から経理担当に流れるようにしなければならないし、個人の給与金額を経理担当に共有したくなければどうやって経理処理の基礎資料を渡していくのかも考えなければならない。つまり、もう少し視点を高くもってシステムプロセスや情報管理を構築しないといけないわけだ。

勤怠管理という全従業員が必ず、毎日使うことが求められるわけだが、日本では最近は海外人材の採用も進んでいるので、英語を含む外国語対応できているのか、といったところがポイントにもなる。逆に言えば、海外人材を重視する姿勢を持った企業であれば、システムもそういうものを使うことで、ある種の会社としてのメッセージも持つことになる。1人1人の社員のおかれたシステム環境に思いをはせられないようであれば、リテンションリスクも背負うし、採用力にも影響しうる。

ある人の給与や時給がいくらなのかもしっかり管理できていなければならない。その意味では雇用条件をしっかりとデータベース化しないと給与計算の根幹となるデータが不確実なものとなってしまう。新給与・時給は適法に労働条件通知書として社員に通知されなければならない。これらプロセスをしっかり設計することが、給与計算を適正化させ、ひいては会計データを適正化させることになる。

企業が人の集団である以上、人事評価とは無縁でいられず、人事評価は給与・時給の昇給や降給の決定要因となる。人事組織が拡大し、評価業務をするチームと労務管理をするチームが別々になれば、給与・時給方法をどうやって適切に渡すかが内部統制上重要なポイントとなる。加えて、評価記録をしっかりと残していくことも、社員の長期的な育成記録という意味で重要となる。特に会社が成長し、異動があるようになれば、新任の上司は過去の評価記録はマネジメントや育成の重要な資料になる。

受取請求書にまつわるエトセトラ

ベンチャー企業で色々と働いていると、ほとんどの企業がその初期段階において請求書の宛先が経理担当になっている。どうしてそうなるかというと請求書の支払処理をするということが、営業やマーケティング、研究開発部門の社員にとって主たる業務ではないからだ。自分たちが発注した商品やサービスの請求書なんだから、当然払ってほしいし、それは経理が勝手にやってくれればいい話なのだ。

大企業勤務経験しかない方だと驚くような話かもしれないが、これには一定の合理性がある。例えば50人くらいの社員しかいない会社なら、経理担当は誰がどんな仕事をしているのか、何を発注し納品されたのかを、容易に把握できる。なので、請求書を直接経理に送ってもらった方が月次決算が早く締まるし、支払漏れを防ぐことができる。

ところが社員数が100人を超えたあたりから徐々に怪しくなる。経理担当が請求書を直接受け取っても、それが誰が発注したものなのか、会社が支払うべき正当な請求書なのかが分からなくなってくる。この段階にくると経理担当者は、請求書の元となった発注をしたであろう人を探し、金額の妥当性を確認し、支払処理をするようになる。つまり、月次決算がなかなか締まらなくなり、結構非効率な事態に陥るのである。

そして、経理担当は請求書の送付先を発注した部署や社員に直接送ってもらうように切り替えを始める。各部署からは、面倒だ!今まではやってくれたのになぜ?とクレームが上がることになる。今までのキャリアの中で、出所の不明な請求書を盲目的に払うと不正の温床になる、と何度言ってきたか。そんな処理方法を続けていると監査法人から適正意見はもらえないし、上場できなくなる!っと。

しかしである。発注部署で請求書を確認してもらい、経理に回覧する仕組みに移行できたとして、それで適切な内部統制が出来たのか?となると、これは性善説の内部統制である。適当に友人の会社に業務委託の請求書を送ってもらい、経理に回覧すると支払処理が自動的にされてしまう。つまり、不正の温床が出来上がることになる。

そこで登場するのが稟議システムというものだ。ある部署のある発注を申請した人がいて、それを承認する権限を持った人が承認する。契約書を締結する際には、法務担当が企業リスクや取引の適法性を確認し、捺印(電子署名)プロセスを回すことになる。そして、発注者は、その承認プロセスや契約を根拠に、受領した請求書を経理に回覧し、経理はそれら全てのプロセスを適切に踏んだことを確認して、会社として支払うべき、損益計算書に計上すべき適切な費用として認識し、処理を行うことになる。

さて、ここまで会社が発展すると、必要となるのが「承認する権限を持った人」の定義となる。なので職務権限規程を作るわけだ。部長クラスにいくらまでの裁量権を持たせられるか、その判断を誤り低すぎると中堅クラスの自主性が失われることもある。高すぎると放漫経営となって無駄な支出を増やす要因となる。

会社のステージが進めば、いわゆる「Three Line Model」の第3線の内部監査機能を採用することになる。いわば内部統制が機能しているかのチェック役だ。経営陣も人間なので目が行き届かなくなる。ただ、チェックのためには、その運用を可視化し、記録として残すことが必要となる。稟議システムは承認プロセスというだけでなく、そういう記録としての側面を持つ。

どのような稟議体制にするかは経営思想が現れる。承認者を少なくすれば、申請者との結託のリスクが高まるがスピードは速くなる。不正リスクを防ごうとすれば、会社の機動力が欠けてくる。承認者に24時間以内の承認を求め、承認を放置すれば自動承認される、なんていう仕組みを採用した事例も耳にしたことがある。

必要とされる管理部門人材って?

結構企業の奥の奥まで、隅から隅まで考えないと管理部門の仕事は成り立たない。他にも予算管理システムとか、経費精算システムとか、ウェブバンキングの支払承認をどうするかとか、色々と考えなければいけないことがある。最近では電子帳簿保存法の改正で証憑書類の残し方も電子化を迫られ、システムイシューになっている。土壇場で2年間ほど実質的に延期になったが。

そして、忘れてはならないのが、それらシステムを使う人間側の資質や人員数の問題である。電子化あるいはシステム化が進めば進むほど、システムリテラシーが要求されるし、良いことしか言わないベンダーの営業に負けない包括的なプロセス設計力も求められる。多様なシステムを組み合わせればZapierに代表されるような自動化ツールを創造的に使いこなすことも必要になる。つまり、簿記2級を持っているとか、社労士の資格も重要かもしれないが、それだけで管理部門で重宝がられる人材とはもはや言い難い。

私が2000年頃に勤めていた会社では、エクセルで入力、印刷され、領収書をペタペタ貼られた経費清算書を派遣社員10名で入力していた。もうそれは過去のもので、今は経費精算したい人が写真を撮って電子化すれば、入力は自動読み取りによりシステムが行う。つまり派遣社員10名は、社員一人一人のスマホとアプリに変わったわけだ。では今20代の人がやっている仕事がそのまま残るだろうか?システムリテラシーが求められ、包括的なプロセス設計力が求められる時代であるが、プログラミングが電卓のように使いこなされる時代がやってくるかもしれない。想像しえない革新的な技術が生まれてくるかもしれない。

2022年が始まるが、生き抜いていくというのは結構大変だなと思うわけです。つまり、資格をとってその資格で食べていこうとする人って、結構いるような気がするし、経理職とか労務職とかはその最たるところだったかも。でも、そういう安定志向では管理部門でさえ生き残るのは難しくないかな?と思うわけです。キャリアというものは先輩の話を参考にしながら判断していける時代があったかもだが、もう先輩の経験が役に立たず自分でアンテナをしっかり張って切り開かないといけない時代に突入している。ジョブスの言葉がまんま管理部門のキャリアにも当てはまるように思う。

you can't connect the dots looking forward; you can only connect them looking backwards. So you have to trust that the dots will somehow connect in your future. You have to trust in something ― your gut, destiny, life, karma, whatever. This approach has never let me down, and it has made all the difference in my life.

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