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デザイン経営を遠い国の寓話のように受け取るBtoB企業、生産財メーカー、中小企業の皆さんに向けて【展示会出展をファーストステップにしたデザイン経営ことはじめ】

デザイン経営は遥か彼方の北極星なのか

デザイン経営宣言が打ち出されて以降、多くのメディアでこのキーワードに触れる機会が増えましたね。オピニオンリーダーである方々も積極的に発信を続けた結果か、「デザイン経営」というワード自体が一過性のブームに終わらず市民権を獲得し始めているようにも感じる今日この頃です。

私自身、この「デザイン経営宣言」に触れてから常に意識に上るキーワードとして日々を過ごしています。非常に強い期待感を持っている、これは偽らざる本音です。普段のビジネスで、中小企業・ものづくり企業の方と会話する機会があれば、折に触れてこのワードを出していますが、一年前に比べて反応する方も増えているという実感があります。

しかし一方で、デザイン経営を「実践する」となると如何でしょう。「企業競争力を向上させるもの」という認識は広まっているものの、いざ自分のビジネスを考えてみると「実践できるのか・・・?」「ウチのビジネスで意味あるのか・・・?」「ウチにはちょっと早いんじゃないかな・・・」という疑念が沸く方も多いはず。

例えば、デザイン経営に関するセミナーなどに参加すると、他の参加者が「BtoBのウチみたいな会社がデザイン経営を実践する意味はあるのか」といった質問を投げかけている光景も目にします。確かに、そう感じてしまうのも無理からぬこと。

実際、デザイン経営宣言の先進事例を見てみると、多くが世界的な大企業の実例。ソニーや富士フイルムの事例を紹介されても、「いや、何を参考にすれば・・・」とハナから及び腰になるのも理解できます。先進事例は先進事例であるが故に、先進的すぎて遥か彼方にある北極星のように、身近なものとは受け止め難いのかもしれません。

特に、私が普段のビジネスでよく関わるのは、BtoBのなかでも、特に「生産財」と分類されるようなジャンルを取り扱っている企業の方々です。生産財を扱う皆さんにとって、デザイン経営とは憧れでありながらも遠い国の寓話のようなイメージを抱いていないでしょうか。

いや、BtoBや生産財メーカーのデザイン経営導入事例が世の中に存在しないわけではないのです。例えば日経クロストレンドには精密ねじメーカーであるミズキの事例(※有料記事)が取り上げられています。この事例などは生産財メーカーがデザインを経営の根幹にマインドとして取り入れた結果、競争力を獲得できたというケースを的確に紹介しています。

ただ現状は、生産財、BtoB、中小企業にとって、圧倒的に事例が少ないうえに、大企業と比較すると格段にリソースの少ないこれらの企業がデザイン経営に対して投資するのは、もしかすると大企業が決断する以上に勇気が必要なことなのかもしれません。

これらのフィールドで活動している人の多くにとって、「デザイン」は未だ意匠の領域を脱していない。もちろん、行政やオピニオンリーダーが発信することによって理解は得られているのかもしれません、しかしそれは「理解」のレベルであって、「実感」を伴っているわけではないでしょう。

ひょっとすると、私たちはデザイン活用の価値を信じたいものの、デザイン活用に対する成功体験が余りにも少なすぎるために、そこから一歩踏み出すことができないのかもしれませんね。過去にデザイン活用を実践しようとして失敗した経験が尾を引いているというケースに出会うこともあります。

デザイン経営宣言は強いインパクトをもって受け止められたものの、その先の「ファーストステップ」がイメージにしくいのかな、と感じてもいます。

さて、私はそんな企業の皆さんに「展示会出展」を「デザイン経営的アプローチ」で推進し、「戦略にデザインを関与させる成功体験」を積んでいただくことをお勧めしたいのです。よって、ここからの記事はデザイン経営に対して興味を抱いているけど、デザイン活用に対して懐疑的になってしまっているBtoB、生産財、中小企業といった方々に向けた内容です。

皆さんは、そもそも「デザイン活用」の価値に可能性を感じてはいるが、それを実感できるだけの成功体験を持ち合わせていない。だから今一歩踏み出せていないという状態ではないでしょうか。そして、BtoB、生産財、中小企業という領域で活動する皆さんは、大なり小なり「展示会」出展の経験があるのではないでしょうか。

その展示会出展に対する「向き合い方」を変えることが、デザイン活用の価値を知り、成功体験となり、デザイン経営の推進に対する強い推進力になるのでは、と仮説を立てているのです。いわば「デザイン経営ことはじめ」としての展示会出展。そんな展示会とデザイン経営を関連付けた考察です。前置き長太郎でスミマセン。


展示会出展の価値とは

唐突ですよね、展示会出展。そもそも、「展示会」という場にどんなイメージをお持ちでしょうか?

一般的な認識だとモーターショーやゲームショーなどの華やかなショーの場などが思い浮かぶかもしれません。あるいは、クリエイティブ界隈に関わる方であれば、ギフトショーやインテリアライフスタイルなどデザインの粋を集めた取引の場をイメージされるかもしれません。関わる方のフィールドによって「展示会」という場に対して抱くイメージは様々です。

これが、ものづくり企業、生産財メーカー、中小企業といった企業体になってくると「展示会」という場の持つ重要性は大きく変わってきます。展示会とは企業にとってプロモーションの場というよりも「ビジネスに直結した商談の場」というニュアンスが強くなります。

例えば、製造業系の日本最大級の展示会と言えば「ものづくりワールド」という展示会をご存知でしょうか。このイベント自体が要素技術、設計製造ソリューション、工場設備、IoT/AIといった複数のテーマの展示会から構成されています。

そして、その分野に属する企業の担当者が、わずか3日程度のあいだに数万人も集まるのが展示会という場なのです。自社で地道に営業をまわることも、自社ホームページに集客することも、結局は自分たちで顧客を集めなければいけません。展示会の場合は主催者が「集客」については代わりに行ってくれます。そんな機会、展示会以外に存在するでしょうか?、現に「展示会」を年間のセールス先獲得のための最重要機会としてビジネスを動かしている出展者もいます。

大規模展示会場で毎週のように開催される展示会。そのテーマのニッチさは、展示会のタイトルだけ見てもお分かりいただけるかと思います。一度、東京ビッグサイトや幕張メッセのイベントカレンダーなどを検索してみてください。ニッチすぎて客層やビジネスが全くイメージできないことも多々ありますから。

さて、ニッチに細分化された分野のビジネスに関わる多くの企業が一同に会する場。それだけ聞いても展示会出展が価値を持ちそうなことはイメージいただけるかと思います。しかし、展示会出展の最大の価値とは、実はこの言葉だけでは的確に表現できていないのです。

例えばあなたが「ネジ」を作っている企業の営業担当者だったとしましょう。あなたは多くの場合、顧客の「調達」担当者や「購買」担当者と折衝して自社製品の導入を営業します。しかし、「調達」や「購買」担当者は往々にして価格に対する要求が意思決定の大きな要素を占めます。仮にこの「ネジ」を作っている企業が独自技術で他社と差別化を図っていたとしても、調達や購買担当者は価格ありきでビジネスを進めるケースが多いのです。価格だと他者と比較してもあなたに優位性は少ない、普通ならお手上げですよね。

では、どうすれば自社の技術を評価してもらえるのでしょう。答えはカンタンで、あなたはそもそも顧客のなかにいる「あなたの技術を評価してくれる人」と出会わなければいけないのです。それは顧客の「営業」担当者かもしれませんし「製造」担当者かもしれません、「研究・開発」担当者かもしれません。取り扱う商材やサービスによって異なりますが、あなたの技術や製品・サービスを「最も適切に評価してくれる人」と出会わなければいけないのです。

展示会という場は、そんな「顧客のなかにいる、最もあなたを評価してくれる担当者」との出会いを狙って演出できる場なのです。しかも、あなたを評価してくれる担当者と「驚くほど沢山」出会える。多くの展示会が僅か3日間という開催期間、この高効率さは他のマーケティングに関連する活動の追随を振り切ってしまう影響力があります。

他にも、face to faceのコミュニケーションがビジネスプロセスの短縮に繋がったり、超高密度な定性情報の収集に繋がったり、インナーブランディング、社員教育に繋がったりと、展示会出展にはトンでもないポテンシャルがあるのですが、ここでは掘り下げ過ぎると止まらないのでストップしておきます。

展示会は、正しいデザイン投資が如実に成果へ繋がる

そんな価値がある展示会。さて、それが「デザイン経営」と、どう繋がっていくのでしょうか。

一言で申しあげるなら、生産財メーカーやものづくり企業、あるいは中小企業が「デザイン投資の成果を最も実感しやすいのが展示会」であるからです。

BtoBのビジネスは案件化(売り上げが立つ)までが非常に長い、数年単位のアプローチになることもザラにありますよね。BtoBのマーケティングを時間軸で解体すると展示会とはビジネスのイチ接点でしかないように感じますが、展示会の最適化はビジネスの案件化率を劇的に高めてくれます。その効果を高めるためのアプローチが「デザイン経営的な推進」です。

デザイン経営そのもの、とは言わないまでも、「デザイン経営的に展示会出展を推進」したときに、企業がもっとも必要とする「成果」である「売上」に直結するのが展示会です。そして、実は展示会が持つポテンシャルを的確に利用できている企業は圧倒的に少数派。だからこそ、差別化に繋がるのです。


展示会出展をデザイン経営的に推進する方法

さて、デザイン経営に興味のある方はとっくにご存知でしょうが、改めて経産省が定義したデザイン経営の条件について整理しておきましょう。

①経営チームにデザイン責任者がいる
②事業戦略構築の最上流からデザインが関与する。

これを展示会に置き換えると以下のようになります。

①経営チームに展示会責任者がいる
②展示会出展戦略の最上流からデザインが関与する


まず、①の経営チームに展示会責任者がいる。から解説しましょう。

多くの企業はマーケティング担当者・広報担当者、あるいはそれに該当する部署がない場合は営業担当者に展示会出展を「イチ業務」として振っている場合がほとんどなのです。

しかし、そのような推進体制では成果を出すことが難しいのです。仮にその担当者が企業のビジョンや最も出会うべき顧客像を的確に思い描く能力があるのであれば適切な推進も可能かもしれません、しかし、実際の展示会場で適切なアウトプットができているブースは圧倒的に少数派です。

私は展示会出展とは経営層の仕事であると感じています。そもそも展示会とは、企業が「この市場で」「こんな課題を」「こんな製品・サービスで解決する」という決意を対外的に知らしめる場であると感じています。

言わば、経営計画を対外的に発表する場であり、その場で顧客を獲得する場でもあるのです。丸裸の経営指針を全てさらけ出す場です。なぜ経営層がアタマから関与しないのか、担当者に丸投げしてしまえるのか、その理由が分かりません。

だから、いま担当者に丸投げしている、展示会出展企業の経営層の皆さんは、展示会出展について今一度見直してみていただきたいところです。それは、本来あなたがすべき仕事なのではないですか??


次に、②の展示会出展戦略の最上流からデザインが関与するという点について考えてみましょう。

「デザイン」という言葉を考えるときに切っても切り離せない視点が「顧客の視点」です。人間中心設計、UXというキーワードはIT業界を中心にかなり前から謳われていましたが、まだまだ多くの企業の「実践」に落とし込まれているとは言い難いでしょう。

デザインとは「顧客の視点」を踏まえるからこそ、デザインとして成立するものです。では、展示会出展戦略におけるデザインとは何を指すのでしょうか?

これはシンプルな言葉で表現できます。「誰に何を伝えるのか」と「どう伝えるのか」。この2つを顧客視点で構築することが「展示会出展戦略におけるデザイン」と私は定義しています。

最終的な空間やコミュニケーションとしてのアウトプットも当然ながら「デザイン」の領域ですが、その前段として「コンセプトを固める」作業も「デザイン」であると呼んでいます。

そして、「誰に何を伝えるのか」ということが適切に整理できていれば、「どう伝えるのか」を考える作業は比較的容易に進みます。

当たり前のことしか言っていないように感じますか?

実際、当たり前のことしか言っていません。しかし、これが実践できている展示会出展者は驚くほど少数派なのです。二度目ですが大事なことなので繰り返します。実践できている展示会出展者は驚くほど少数派なのです。


展示会のデザイン【誰に何を伝えるのか】

「誰に何を伝えるのか」とは、①顧客像の定義 → ②顧客課題の定義 → ③課題解決の証拠抽出 という3つのステップで具体化します。

最初のステップである顧客像の定義は、BtoBのビジネスであれば一般的に言われる3つのペルソナ(顧客、顧客の組織、組織の関与者)について考えることが必要でしょう。そして、これらの登場人物が抱える課題を想定していきます。

顧客自身の抱える問題と組織の抱える課題は、実はちょっと異なることが多いものです。多くの場合は組織の抱える課題が原因となって個人の問題が引き起こされています。

もちろん、課題と問題の双方ともに解決されることが望まれますが、課題と問題の解決はそれぞれ打ち出すタイミングが異なります。よって、その双方をイメ―ジしておくことが肝要です。

これが製品開発のプロセスであれば、顧客像と課題を定義したあとに、それを的確に解決するソリューションを組み上げていくところなのでしょうが、展示会の場合は既に製品・サービスが存在するケースがほとんどでしょう。

よって、顧客課題を定義したあとは、自社の製品・サービスが顧客の課題を解決できる理由・証拠、解決したときに顧客に発生する現象・感情などを洗い出します。

そうすると、一言で自社の価値を表現できないでしょうか。「〇〇の抱える△△の課題を□□で解決します」と。これが「誰に何を伝えるか」です。


展示会のデザイン【どう伝えるのか】

「誰に何を伝えるのか」が定まったあとは、実際の現場に落とし込む方法論について考えます。これは、展示会ブースで行われるコミュニケーションの設計にあたる部分であり、ここで空間など意匠面のデザインも関連してきます。

どんなデザインを作れば来場者は自社のブースを見つけることができるか、どんなメッセージを打ち出せば来場者はブースに足を踏み入れる強い動機を覚えるか、どんなコミュニケーションを取れば来場者は自社に戻ったあと行動に移したくなるか。

これらを丁寧に「来場者視点」で構築していくことが展示会出展戦略における「どう伝えるか」のデザインです。実際にデザイナーへ発注する前に、これらの整理は終えておく必要があります。


なぜ、展示会でのデザイン経営的アプローチが成果につながるのか

もしかすると、UXデザインを推進している方からすれば、当然のこと過ぎて「なぜこんなことをわざわざ書き連ねているのか」と思われるかもしれませんね。

その理由は簡単です。展示会という場において、「誰に何を伝えるか」「どう伝えるか」という点を「顧客視点で」で落とし込むことができている出展者は、ごく僅かだからです。(3度目)

展示会業界のデザインとは、世のデザインに対する期待の二周遅れのアウトプットが現状なのです。これを由々しき事態だと捉えています。

大規模な展示会に行くとよく分かります、右を見ても左を見ても徹底的に「プロダクトアウト」「シーズプッシュ」「自分たちの言いたいこと」「私たちは〇〇です」というメッセージのオンパレード。「マーケットイン」的な、「顧客視点」での、「来場者が聞きたいこと」からアプローチできている企業は、超が付くほど少数派。

先に挙げた、ものづくりワールドという展示会で実際にリサーチを行ったことがあります。詳細な分析・判断基準はここでは割愛しますが、顧客視点のコミュニケーションを実践できていた出展者は会場全体の約7%でした。

これだけ顧客視点の重要性、課題解決型アプローチの有用性、デザイン活用の価値などが謳われている現在においても、実際の商取引の大きな機会である展示会で実践できている企業は、たったの7%だったのです。

この数値は戦慄すべき数値であると同時に、多くの出展者にとって「取り組み方」を変えるだけで圧倒的な差別化に繋がるという事実を指し示しています。

市場や業界全体にとっては、歓迎すべき状況ではないと戦慄しながらも、一つの企業という立場になって考えてみると、いかに差別化しやすい環境であるかということを指し示しているのです。

考えてもみてください。展示会の来場者は多くの場合は何かしらの課題を抱えています。正確に言語化できているかは別としても、何かしら自社のビジネスをよりよい方向に導くようなソリューションを探しに来ているのが一般的。

しかし、いざ展示会場に足を踏み入れると、ほとんどの出展者は「私たちは〇〇です」「この製品は△△です」というアプローチばかり、これでは結局自分の課題が解決するのか・しないのかは判断がつきません。

右を見ても左を見ても、そんなメッセージばかりなのに、突然目の前に現れるのです・・・「あなたが抱える〇〇の課題を△△で解決します」「あなたが〇〇できます」というメッセージを。

いかがでしょう?、このようなメッセージになっているだけで圧倒的な差別化要因であり、間違いなく来場者の立ち寄るブースになっているとは思いませんか?


このようなメッセージは、顧客視点を前提にするから導き出すことのできる表現です。そして、顧客が起点となった表現は展示会場全体のなかで僅か7%、来場者にとっては光り輝いて見えることでしょう。

現に展示会では、そのアプローチ方法を工夫するだけで引き合いの件数が何倍にも伸びたという事例は多く聞きます。一方で、成功企業の事例は多く聞くはずなのに、実際に実践できている企業のなんと少ないことか。

それは、形ばかりの課題解決型アプローチであったり、顧客視点になっているようで結局は自分視点からの脱却ができていなかったり、そんなコミュニケーションに満ち溢れているから。

真に課題解決型のコミュニケーションを実践するとは、徹底的な顧客視点での想定からすべてがはじまります。そこで必要になってくるのがデザイン経営の条件と関連する、①「経営チームに展示会責任者がいること」と、②「展示会出展戦略の最上流からデザインが関与する」なのです。

このプロセスによって生まれた「展示会という場・コミュニケーションのデザイン」は、先に挙げた展示会そのものが持つ「売上に直結する」という性質によって効果が最大化され、出展者に大きな驚きをもたらします。

これほど人間中心設計の成果を「ライブ」で感じることのできる場があるでしょうか。論より証拠、百聞は一見に如かずという故事もアタマをよぎりますね。

デザイン経営も展示会デザインも、真に実践できるデザイナーは少数派?

しかし、その推進においては、一つ問題が起こります。

私はデザイン経営宣言に触れたとき、期待と同時に懸念も覚えました。それは、「ここまでのレベルでビジネスを構築できるデザイナーって圧倒的に少数派では?」という問題です。

デザイン経営宣言をはじめて見たとき、端的に興奮しました。このような考え方が主軸となる社会に対する期待や、自分の積み上げてきたモノの活かし方が見えたような気もしたから。

一方で、デザイナーが余りにも過大評価されかねない内容だな、と危惧も覚えたのです。デザイナーに対して期待し過ぎじゃないの・・・?と。

この宣言は、社会のなかでも優秀なデザイナー・クリエイター・事業家、市場をリードする企業が集まったうえで生まれた宣言でしょう。そこに集約された知見は凄まじいものがある一方、表現は悪いのですがデザイン経営が求めるレベルに至らない有象無象のデザイナーの方が多数派ではないでしょうか。

中川政七氏は著書「経営とデザインの幸せな関係」において「デザイナーの経営リテラシー」と表現していました。なるほど理解しやすい言葉です。経営リテラシーを持ったデザイナーとは圧倒的に少数派でしょう。

例えば、デザインという単独のスキルを持っているだけではデザイン経営宣言が想定しているような顧客の潜在ニーズの発見などは難しいのではないでしょうか。

「BtoBのデザインあるある」の一つですが、デザイナーが生活者の視点でそのビジネスを捉えてしまうが為に、適切なアウトプットに繋がらないということがあります。

ビジネスのプロセス・顧客との接点を事前に丁寧に解体することができること、そのプロセスで何が起こるのかを理解できていなければ、的を外したアウトプットに繋がってしまいます。展示会場を巡るとよく分かりますよ、「一見キレイに見えるBtoBの的外れデザイン」は案外多いものです。

これも、デザイナーがビジネス分野に全般に対する知見を持っていれば防げるのでしょう。他にも、インハウスのデザイナーは言うまでもなく自社の事業領域に対する一定の知見は有しているでしょう。デザイン+αのスキルや知見を持っているデザイナーは強いということです。

そのようなH型人材とも言えるデザイナーでなければ、デザイン経営宣言が想定しているようなイノベーションに資する能力は発揮できないのではないか?と感じています。

さて、展示会の業界に目を向けてみましょう。この業界のデザイナーはニッチです。展示会のブースばかりデザインしているデザイナーも非常に多い。そして、展示会の空間デザイナーと、そのブース内でのコミュニケーションで使われるグラフィックデザイナーは異なる職能です。その両者を繋ぐ存在としてディレクターが立つ場合もありますが、ディレクターではなく単に展示会装飾会社の営業担当者が、両者を繋いでいるだけ、というパターンも多いのです。

そして、多くの展示会デザイナーはコミュニケーションのデザインが出来ません。ただ単に空間に落とし込んでいるだけで、一見すると「空間として優れた表現」に見えるようなデザインも、顧客の行動を何も誘導していないというパターンも非常に多いのです。見た目はキレイなのに成果の上がらないブースとは、そもそも顧客行動や顧客視点を下敷きにしていないデザイナーの産物です。

ということは、少なくとも展示会ブース専門のデザイナーを出展戦略の最上流に巻き込んだとしても、デザイン経営が定義する「事業戦略の最上流からデザインが関与する」という状態にはならないということです。

だから、先に挙げたような「展示会出展戦略の最上流からデザインが関与する」とは「誰に何を伝えるのか」「どう伝えるのか」という点のうち、少なくとも「誰に何を伝えるのか」は自分たちで考える必要があるということです。

そこに、展示会のデザイナーを招いても適切な議論には繋がらないでしょう。もしそれができる展示会デザイナーがいるのであれば、相当大切にした方がよいパートナーです。

逆に、経営リテラシーを持った優秀なデザイナーに展示会出展戦略を一緒に考えてもらう。これはアリです。ただし、いかに優秀なデザイナーであったとしても「展示会独特のロジック」を知らないがために、展示会本番でまったく来場者に見向きもされないデザインを作ってしまうことがあります。

年に数件は、よく名前を聞くような優秀なデザイナーによる「来場者に見向きもされない」展示ブースを見かけることがあります。これは展示会という場の特殊性をデザイナーが理解していれば防げたことなのですが、それを押さえていないがために、方向性を誤ったアウトプットになってしまったという典型です。勿体ないことだ。

ただ、よっぽど変なことをやらなければ「何を伝えるか」という点をキッチリ言語化できていれば、従来の展示会出展とはまったく異なる成果が出るでしょう。

自社の構成要素を顧客視点で見つめること、その気付きをデザインとしてのアウトプットに誘導すること、経営の根幹を担う人物がその推進の中心に立つこと、展示会をとおしてこれらの要件を実践したとき、いかにデザイン投資が成果に繋がるかという実感を強く感じることができるでしょう。


まず、デザイン活用の価値を「実感」してから

デザイン経営とは、文字通り経営の改革です。その実践は一朝一夕では進まないはず。取り組むならば覚悟と信念をもって、例え結果がすぐに出なくても「何年間なら自分は踏ん張れるか」ということをイメージしてから取り組んだ方がよいと感じます。

しかし、そこに飛び込むためには、何かの確信のようなものが必要となるはず。きっと、「顧客視点でのデザイン投資が結果に返ってくるという実感」が、デザイン経営の実践に対する確信となって、折れない幹を作ってくれるでしょう。最もその効果を実感しやすいのが展示会での実践であると私は確信しています。

顧客視点でのアウトプットなんて、当たり前のことのように感じますが、当たり前ではないのです。それが、前述の7%という数値に如実に現れているのです。

これだけ顧客視点・課題解決型・デザイン思考・デザイン経営といった未来を感じさせるワードが並ぶ現代においても、商業取引の大きな基点である展示会場で行われているコミュニケーションの大部分は顧客視点から離れたものであるのが実態。

だから、展示会において顧客視点でのアプローチを実践することは、デザインに現れ、周囲との圧倒的な差別化を図る要因になります。一度成功体験を積めば、もう元には戻れないはず。

展示会で実践してみてください。既に展示会出展に一定の予算を割いているケースも多いでしょう。まったく新たな分野に取り組むよりも、既存のものを変える方が労力は少なくても済むはずです。現状維持バイアスが働くので、逆に動かしにくいケースがあるのも事実ですが、その場合は、テスト的に新規の展示会に小さな小間で出展してみてください。パッケージ小間でも、パネルのデザインたった一つのアプローチを顧客視点に変えるだけで、劇的に成果が変わるはずですから。

さて、とても、とっても手前味噌ではあるのですが、そんな展示会を効果的に活用するためのノウハウを発信しています。展示会出展に対して今までの認識よりも可能性を感じた方がいれば、このサイトをお読みいただくだけでも参考になる要素は多いでしょう。


さらに、とっても手前味噌その2ではあるのですが、これらの企画立案につなげるためのツールをstoresで配布しています。展示会出展にトライしてみようと思う企業の方は、自社と顧客の関係性を整理して、どんなメッセージに落とし込むのかを整理するために利用してみてください。


世の中には「筋トレさえしていればナンでも解決する!」という筋トレ教とも言える人々がいるとも聞いています。私の場合は「展示会に出展すればナンでも解決する!」という展示会教なのかもしれません。

それほど展示会に対するポテンシャルを信じているということでもありますが、何も考えず出展しても多くの出展者が見誤っている方法論に沿ったアプローチになってしまい、成果に繋がらないことも知っています。

だから、正しい展示会への関わり方を多くの方に実践していただきたい。その先に、多くの企業にとって希望となるデザイン経営の実践があると確信しています。

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