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あらゆる時代に通じる「戦闘の恒久法則」とは何か? 13個の軍事法則を解説

あらゆる戦いに通じる普遍的な原理というものが果たして存在するのでしょうか。軍事学では、この根本的な問いをめぐり、さまざまな議論が積み重ねられてきました。今日では、あらゆる場面で無条件に適用できる必勝法のような戦理は成り立ちえないと考えられていますが、イギリスの著名な軍事学者ジョン・フレデリック・チャールズ・フラー(J. F. C. Fuller)が提唱した戦いの原則のように一般化された形式であれば、ある程度は説明できるとされています。

フラーの戦いの原則に関しては別稿で解説するとして、今回はフラーとは異なる戦いの原則を唱えた軍事学者トレヴァー・デュピュイ(Trevor N. Dupuy, 1916~1995)の学説を取り上げてみたいと思います。彼は戦闘には時代を超えて通用する恒久的、普遍的な原則があると主張し、それらを13個にまとめています。

デュピュイとは何者なのか?

デュピュイは第二次世界大戦でビルマ方面の作戦に参加したアメリカ陸軍軍人です。1945年に戦争が終わるとアメリカ国防総省での勤務を経て、1950年にヨーロッパ連合軍最高司令部に配属されました。

1952年にハーバード大学で教授となり、防衛学課程の設置に携わっています。1956年にはオハイオ州立大学で軍事学課程を設置する事業を監督しており、1958年にミャンマーのラングーン大学(現ヤンゴン大学)で国際関係学客員教授に就任しました。1962年に帰国してからは、軍事学のシンクタンクとして歴史評価研究機構(Historical Evaluation and Research Organization, HERO)を設立し、国防総省の受託研究に従事するようになりました。

デュピュイの専門は大規模な戦闘における戦力の損耗過程の定量的分析であり、戦力定量化判定モデル(Quantified Judgement Model; QJM)と呼ばれる交戦理論を提唱したことで知られています。『戦争を理解する:戦闘の歴史と理論(Understanding War: History and Theory of Combat)』は、彼のQJMを体系的に展開した業績なのですが、その第1章でデュピュイはすべての軍事理論において基礎とすべき13個の戦闘の恒久的な法則があると主張しました。

戦闘の恒久法則の意義

軍事学の研究領域では、戦闘にはそれぞれに異なった特性があることを想定しますが、同時に一定の構造的、過程的なパターンがあり、それらを一般的に分析することができると考えています。デュピュイは「戦闘の恒久法則(The Timeless Verities of Combat)」と題する章でその立場をとっており、次のように述べています。

「将来の戦争が実のところどのようなものになるのかを知る者は誰もいない。しかし、戦闘の感情的側面、概念的側面、学問的側面が今も昔も同じものであることについては疑問の余地がない。武器や軍隊の特性は変化してきたが、戦術はそれを踏まえながら戦場で用いられてきた。ただし、戦闘の基礎的な特性はそのままだった。その理由を理解することが重要であることは明らかである」

デュピュイは、すでにフラーによって提唱されていた戦いの原則に取って代わるものとして戦闘の恒久法則を位置づけていたわけではありません。また、それらは必ずしも意外性がある内容ではなく、極めて常識的なものであると述べています。それでも、それらが重要であるのは、それが戦争の歴史を通じて常に適用可能であるためであり、あらゆる戦闘理論は戦闘の恒久法則と矛盾していてはならない、と論じられています。

「過去25年にわたり、私は13個の不変の作戦の特性もしくは構想の存在を確信し、これらを「戦闘の恒久法則」と呼んできた。この恒久法則は戦闘理論を構成するものではなく、また戦いの原則(principles of war)に取って代わるものでもない。ある意味において常識的なものである。それでも、私の考えるところでは、この恒久法則は戦争の最も根本的であり、また重要な側面について述べたものである。戦争を遂行する方法が絶え間なく変化してきたにもかかわらず、恒久法則は戦争に人間的要素があることによって、ほとんど変化していない。もし私が正しいのであれば、いかなる戦闘理論もこの恒久法則と矛盾するようなことがあってはならない」

戦闘の恒久法則の内容

ここからは、戦闘の恒久法則の内容について解説します。まず、デュピュイは第1法則として、攻撃の意義について論じるところから始めています。

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