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論文紹介 武装勢力の戦い方は支配領域の有無によって大きく左右される

一部の非合法的な武装勢力は個人単位で行動し、警察官、軍人、公務員、政治家、経営者などを攻撃目標として設定し、暗殺、爆弾による攻撃、あるいは要人の誘拐を行います。しかし、そのような行動を選ばず、より組織的な軍事行動で特定の領域を支配することを目指す場合もあります。

研究者らは、反体制派の武装勢力が選択する戦術行動には何らかの合理的な理由があるため、予測することが可能性であると考えています。例えばDe la CalleとSánchez-Cuencaは「武装集団の戦い方:領域支配と暴力戦術(How armed groups fight: Territorial control and violent tactics)」(2015)で122件の武装集団が実際に採用した戦術行動を分析し、領域支配の可否が戦術行動の選択に決定的な影響を及ぼすと主張しています。もし領域支配が困難である場合、武装勢力は政府に捕捉されないために地下に潜り、爆弾テロなどを多用するようになると考えられています。

De la Calle, L., & Sánchez-Cuenca, I. (2015). How armed groups fight: Territorial control and violent tactics. Studies in Conflict & Terrorism, 38(10), 795-813. https://doi.org/10.1080/1057610X.2015.1059103

反体制派の武装勢力にとって特定領域の支配を確立することは、恒久的な拠点を確保する上で重要な課題です。領域支配が確立すれば、住民に課税し、また徴兵することで武装勢力の組織を安定的に維持できるようになるため、政府と長期戦が可能となり、政治的交渉において優位に立ちやすくなります。

スリランカ内戦(1983~2009)で一時期のスリランカ北部で領域支配を確立したタミル・イーラム解放のトラの事例だと、彼らは治安部隊を運用し、裁判所を運営し、郵便制度も整備することで支配体制を確立していました。しかし、このような武装勢力とは異なる戦い方を選んだ事例もあります。ウルグアイで体制の打倒、社会主義革命を目指した武装組織のツパマロスは、当初から市街地に拠点を置いて地下活動に特化しており、政府、企業、銀行の襲撃、要人の誘拐や殺人、軍人や警察官の襲撃などを繰り返しました。

著者らの見解によれば、このような戦術の選択は武装勢力の特性を反映しています。領域支配には多種多様な武器装備と巨大な人事的基盤が必要となります。領域支配が安定的な財源をもたらすことが分かっていたとしても、それを維持することが難しい場合、低予算で実行可能な暗殺、爆弾テロ、銀行強盗、要人の誘拐などを多用し、政府が国内で治安を維持する費用を高騰させる方が、確実に体制を弱体化させることに繋がると考えられます。

著者らは、ウェブサイトGlobal Terrorism Database(GTD)は、テロリズム、政治的暴力に関する包括的なデータセットを提供しており、著者らはここから必要なデータを入手しています。GTDでは、テロリズムを広い意味で定義しています。具体的には、恐怖、強制、威嚇で政治的、経済的、宗教的、社会的な目標を達成するため、非合法的な暴力を脅迫または実際に使用することをテロリズムとして捉えています。著者らが注目しているのは、GTDで施設攻撃、爆弾テロ、暗殺、誘拐として区分されているタイプの事件であり、1970年から1997年までの時期区分でデータを集めました。

このデータベースでは、事件を引き起こした集団が必ずしも特定の組織と対応していない場合や、特定の組織と対応していても短命に終わった組織がかなり含まれていたので、著者は、少なくとも固有名称を持っていること、10回以上の攻撃で少なくとも10人以上の犠牲者を発生させていること、活動が1年以上にわたって続いていること、以上の3つの条件を満たす場合に限って分析の対象としました。これらの条件を満たしている集団は122件該当し、その活動の内訳を見ると施設攻撃が41%で最も多く、次いで爆弾攻撃(27%)、暗殺(23%)、誘拐(8%)という割合で採用されていたことが分かりました。

これらの中では施設攻撃だけが領域支配に寄与する戦術行動と見なせます。著者らは同じ組織であったとしても、その組織が領域支配を確立するにつれて、次第に施設攻撃を行う傾向を強めることを明らかにしました。ただし、領域支配を行っていたとしても、組織の規模があまりにも小さい場合はやはり爆弾テロ、暗殺などに頼る傾向を増すとも指摘されています。ただし、領域の支配と組織の規模のどちらが戦術行動により強い影響を及ぼしているかを調べると、領域支配の方がはるかに強い影響を及ぼしていることが判明しました。

これらと異質なのが誘拐であり、これは爆弾テロや暗殺と大きく異なる経路に基づいて選択されていることが指摘されています。著者らの分析によれば、誘拐だけは領域支配と組織規模のどちらとも関連が薄く、むしろ武装勢力が自警団の性質を持っているかどうか、国境を越えて行動することができるかどうかによって左右されると述べています。これは武装勢力が選択する戦術として誘拐がそもそも適切なカテゴリーではなかったのかもしれません。

いずれにせよ、この研究は反乱行動、非正規戦、革命の研究における領域支配の重要性を改めて浮き彫りにしていると思います。警察や治安部隊の監視が厳しい都市部で武装勢力が公然と活動することは困難なので、地下に潜らざるを得ないことは以前から知られていましたが、地方であれば恒久的な基地を構築することが容易となるという知見は、中国革命の文脈で毛沢東の著作の中でも指摘されてきたことですが、その実証的な妥当性をより厳密に検討する意義があったと思います。

この研究は、武装勢力が存続する上で兵站・人事の問題がいかに重要なポイントであることも明らかにしており、反乱軍の成否を予想する上で資金調達、資源管理、人材確保などが重要な調査項目であることを示唆しています。

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