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論文紹介 なぜイランはタリバンを支援するようになったのか?

イランはアフガニスタンにとって西の隣国です。2001年に米国主導の多国籍軍が侵攻し、タリバン政権が打倒された際に、イランはその様子を間近に見ていた国でした。

アフガニスタンでタリバン政権が崩壊したことは、イランにとって有利な出来事でした。なぜなら、イランはアフガニスタンの新政権との関係強化に乗り出し、政治的、経済的、文化的な影響力の拡大に成功したためです。

ところが、イランは間もなくタリバンに対する軍事的、財政的な援助も始めました。なぜイランはタリバンを支援するようになったのでしょうか?

この記事では、2019年に学術誌『サード・ワールド・クォータリー(Third World Quarterly)』で発表された「タリバン:アフガニスタンにおける新たな代理勢力か?(The Taliban: a new proxy for Iran in Afghanistan?)」の内容をまとめて紹介してみたいと思います。文献の情報は次のリンクから確認できます。

Shahram Akbarzadeh & Niamatullah Ibrahimi (2020) The Taliban: a new proxy for Iran in Afghanistan?, Third World Quarterly, 41:5, 764-782, DOI: 10.1080/01436597.2019.1702460

当初、イランのタリバンに対する支援は限定的だった

2001年以降のアフガニスタン紛争の歴史を調べると、イランとタリバンとの間に最初から協力関係があったわけではなかったことが分かります。タリバンと最初に安定的な協力関係を築いたのはイランではなく、パキスタンでした。

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パキスタンがタリバンを支援することを決めた理由はいくつかありますが、特に重要だったのはパキスタンと対立するインドが、アフガニスタンに対する影響力を強めることを恐れたことです。アフガニスタンに親インド政権が樹立されることを未然に防ぐ手立てとして、タリバンに利用価値があるとパキスタンは判断しました。

その頃、イランは米国主導の多国籍軍の支援を受けて成立したアフガニスタン新政権との関係を強化し、着実に通商関係を拡大してきました。2018年のデータを確認すると、アフガニスタンに対するイランの輸出実績はパキスタンを上回っており、米ドル換算でおよそ20億米ドルの規模に達しています。しかし、イランの国防にとって、米軍の部隊がアフガニスタンに長期駐留していることは必ずしも望ましいことではなく、米軍部隊をイランの国境地帯に近づけさせないように牽制することが戦略的に必要だと考えられていました。

著者らはこのような戦略的な考慮によって、イランはタリバンに対する一時的な援助を開始したと述べています。先ほど述べたように、タリバンの主な支援者はパキスタンであり、その根拠地はアフガニスタンとパキスタンの国境地帯に位置していました。そこでタリバンの部隊が活動を活発になれば、米軍の兵力もアフガニスタンの東部、南部へ配置され、イランに近い西部から引き離されます。

ただし、この時期のイランのタリバンに対する援助はパキスタンのそれに比べて安定的なものでも、大規模なものでもなかったと著者らは指摘しています。2009年にアフガニスタン駐留米軍司令官スタンリー・マクリスタル(Stanley Allen McChrystal)はイランが「紛らわしい役割(ambiguous role)」を果たしていると非難しましたが、それはイランのタリバンに対する立場が一貫していなかったことを米軍も認識していたことを示しています。

イランは一方でアフガニスタンと手を結びつつ、他方ではタリバンの援助を通じてアフガニスタンに脅威を及ぼしていました。

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