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国家を近代化へと突き動かした軍事革命の比較史『軍事革命と政治変動』の紹介

なぜ近代国家はヨーロッパで成立したのでしょうか。この問いに答えるために、数多くの研究者が調査研究に取り組んできました。中東、インド、中国などで成立した国家と、近世以降にヨーロッパで発達した国家は政治制度、軍事制度に顕著な違いがあり、戦争遂行能力で優越していました。

ブライアン・ダウニング(Brian Downing)の『軍事革命と政治変動(The Military Revolution and Political Change)』(1992)はヨーロッパで近代国家が発達した過程を比較史のアプローチで分析した研究であり、特に軍事革命(military revolution)に関連する政治制度の発達を分析しています。

Downing, B., 2020(1992). The Military Revolution and Political Change: Origins of Democracy and Autocracy in Early Modern Europe. Princeton University Press.

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目次
1 はじめに
2 立憲政府の中世的起源
3 軍事革命
4 ブランデンブルク、プロイセン
5 フランス
6 ポーランド
7 イングランド
8 スウェーデン
9 オランダ
10 結論

ヨーロッパ国家の近代化に関する研究で成果を出したのはダウニングが初めてではありませんでした。バリントン・ムーアの著作『独裁政治と民主政治の社会的起源』(1966)は国家の内部において繰り広げられる集団が権力を奪い合った結果によって、国家形態が変化したことを説明する重要な業績でした(政治体制の違いを権力闘争で説明する『独裁と民主政治の社会的起源』の書評)。

しかし、ムーアの後に続いてサミュエル・ファイナー、チャールズ・ティリーなどが行った調査研究により、ヨーロッパで近代的な国家形態が成立した理由を説明するためには、ヨーロッパで相次いだ戦争の影響を考慮する必要があることが明らかにされてきました(戦争の試練によってヨーロッパの近代国家は育まれた『強制・資本・欧州諸国、990-1992』など)。ダウニングは国家形態の近代化を国際政治の観点から捉え直して理論を再構成し、その成果を本書にまとめています。

ダウニングは17世紀のヨーロッパの歴史に焦点を合わせていますが、中世ヨーロッパの封建制における立憲主義(constitutionalism)が国家形態に与えた影響に注目しており、以下のような評価を与えています。

「中世末期のヨーロッパの立憲主義は、王権と貴族との間の微妙な均衡、分権的な軍事組織、領主と領民の封建的関係という3つの主要な構成要素に依拠していた。このような土壌から地方、都市、農村における自治体、議会、そして法の支配などが生まれた」(p. 28)

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