デザインは経営資源になる。という話
経済産業省の「デザイン経営」宣言(2018年)より26年前に、デザインの重要性を説いている紺野先生著書の「デザイン・マネジメント」という本があるのを教えて頂きました。教えて頂いたのはDONGURIのミナベさんで、既にこの本は絶版ということで貸して頂けました。(中古で9千円〜1万円程度します。。。その後タイミング良くもう少し安価に中古で手に入れました!)
26年前というと1992年で、バルセロナオリンピックで岩崎恭子さんが14歳で金メダル、スーパーマリオカート発売、幽遊白書のアニメがスタート、紅の豚が公開、日本でインターネットの商用化が始まる、そんな年です。
この時代のデザイン関連のできごとを調べてみると、1989年に通産省(現在の経済産業省)がデザインイヤーを提唱し、名古屋市が“世界デザイン会議ICSID’89名古屋”を開催しています。この時、既に「デザイン経営」宣言と同じようにデザインの重要性やCDOの必要性が叫ばれていたそうです。翌1990年に前年のデザインイヤーの成果を記念し「デザインの日」が制定されています。(ちなみに、デザインの日は10月1日)そしてこの本は、1991年に執筆され翌92年に初版が出版されました。
26年前のビジネス業界を知らないですし、バブル崩壊後の時代背景もあり、なかなか読み解くのが難しい本でしたが、一気読みしてしまうほど興味深い内容でした。書かれている内容が多岐に渡るのですが、できる範囲で僕なりにまとめてみました。
デザインの役割
デザインの役割を4つに定義しています。
・組織内の情報や知識のコミュニケーションの「媒介」的役割
・企業が情報を理解し、さらに進化させて新たな意味ある価値情報を創りだす「創造的プロセス」としての役割
・異分野の要素をひとつのカタチ・システムに「形態化」する機能
・企業と人間を結ぶ「インターフェイス」を創造する役割
この役割を存分に活かすことが新たな企業の条件となります。
デザインを経営資源として捕らえよ!
「デザインは、財務、物的資源、人材、情報などと同等の経営資源として、マネジメントの対象となる」とのこと。四大資源から五大資源へ増えることになります。
このデザイン資源は、基本的に4つに分類されます。
・製品・サービス系の物的なデザイン資源
・情報系の視覚的なデザイン資源
・環境系の空間的デザイン資源
・コンセプト系のシステム的デザイン資源
これらのデザイン資源は、組織やデザイナーなどのヒトを媒介として企業経営に関わってきます。
デザイン資源をマネジメントしたらどんな要素に影響があるのか。さまざまなデザイン要素の「立体マンダラ」として表現されており多岐に渡ります。
下のデザインマネジメント部分を光源としてスペクトルが広がっており4つの層が浮かび上がってきていますが、これは順序とも捉えられますし、そのまま内から外を表現しており企業活動の層が表面の部分になってくる。と僕は理解しています。
では、デザインを経営資源としてマネジメントするには、どうしたらいいのでしょうか。
まずは組織変革
デザインマネジメントを始める上で、組織にデザインがインストールされている必要があります。その為の組織変革は前提として
・デザイン機関へのトップ陣の関与
・継続的な教育啓蒙活動
の2つが社内で支持されている必要があります。
その上で、組織変革の鍵が3つあります。
・組織全体のデザインへの関与
・コミュニケーションの媒介としての物や視覚的要素の整備
・デザインの形態化によって生み出されるべき新たな意味や価値の明示
では、どう浸透させるのか。プロセスは下記です。
デザインマネジメントとは
組織変革された状態になったら、次はデザインマネジメントです。デザインマネジメントの定義は以下です。
デザインのマネジメントとは、デザイン資源を企業活動の中に有効に浸透させ、あるべき効果を引き出すために必要な、企業としてのデザインに対するポリシー、組織体制、具体的デザイナー体制、そして評価を含む、デザイン資源運用のための一連の知の体系である。
デザインマネジメントの「三種の神器」として
・デザインポリシー(方向性、ガイドラインなど)
・デザインマネジメント組織とディレクター(CDO)
・デザインマネジメントシステム(評価基準、教育育成)
があります。
※ デザインマネジメント組織はデザイナー組織とは別のチームを指していて端的には「方針、政策、評価、運営、啓蒙などを行う組織」といえます。
※ 会社の規模によってはデザイナー組織と兼ねることもあると思いますが、意識的に大きな2つの役割がある。と認識できると整理しやすいかもしれません。
では、どうやってマネジメントするのか?
まず、今の組織は、デザイン資源のマネジメント能力とデザイナーの具現化力が、どれぐらいあるのか?現状を下記の図をもとに把握し、対処していく必要があります。
横軸のデザイナーの具現化能力を測るには
・デザイナーの質と量
・業界内でのデザイン評価のレベル
・製品/サービスにデザインが占める割合
・効果的デザイン開発システム
・外部デザイナーの活用度
を材料に高低を見極めていきます。
縦軸のデザイン資源のマネジメント能力を測るには
・デザインに対する経営評価基準の有無
・トップマネジメントのデザイン理解
・デザイン責任者の権限
・デザインポリシーの有無
・デザインに関する研究開発の度合い
を材料に高低を見極めていきます。
能力が低い場合、それぞれにヒントとなる情報があります。
デザインの具現化能力の場合、デザイナー組織のパターンによって組織体制を変えたり特徴を活かすパターン表があります。
インハウスか外部組織(受託)か、デザイナーが一ヶ所に集められているか事業部ごとに分けられているかで、活きる部分が決まるので特徴を活かせるようにできると良いですね。
一方、デザインマネジメント能力の場合、デザインマネジメントを導入する基本的なプロセスがあります。
僕はこのプロセスを知りませんでしたが、ここ2年の僕の経験したことは、第一段階のステップに相当し、偶然にもこの順序だった実感があります。
デザイン資源に経営効果はあるのか?
経営資源として扱うので、デザインの経営効果を見ていく必要があります。しかし「プラスの効果がある」とある一方で「明解ではない」「疑問が残る」とも書かれています。現在でも難しさがあると思いますが、ひとつの解として定量と定性の両方で効果を見ていく指標のヒントはあると思います。
※ デザインはそれを用いる企業、組織の枠組みによって評価が異なる性格を持つ(何をデザイン投資、経費とするかによって効果判断が異なる)と書かれていますので、組織ごとに捻り出すしかないですね。
※ 2018年の「デザイン経営」宣言のドキュメント内に投資効果の説明がありますので、効果については現代の方が正確で参考になると思います。
最後に
1つにまとめてみました。
先日、偶然にも紺野先生と出会う機会があり、次の質問をしました。
「今年、1990年代初頭と似たようなデザイン経営宣言が出ました。同じようなことを繰り返しているように感じていますが、なぜ当時のデザイン啓蒙はうまくいかなかったのか、原因は何だと思われますか?」
この質問に紺野先生は、2つあると仰っていて「1つは、バブル崩壊。もう1つは、企業がデザインを見た目だけとしてしか見れてなかった。その奥にある大切なものを重視できなかった。」とのことでした。
調べてみると、バブル崩壊直後は、また景気が持ち直すだろうと楽観的に捉えていた風潮が強かった為、デザインを取り入れることが重要視されなかったりしたのかなと思いました。残念ですね。
今年2018年からの流れは同じような失敗にしたくないですね!ぜひデザイナーは経営者と経営者はデザイナーと対話してみて頂きたいです。
そして、この本が絶版なので、ぜひ業界のためにも再販もしくは改定版をお願いしたいですね〜産経さん!
この言葉で締めくくりです。
優良企業とは、自社の製品やサービス、そして顧客をよく理解し、それらを開発するうえでの明確な哲学を持ち、具現化のための有効なビジネスの仕組みと組織を作り上げ、そして同時に、成長性や利益性とのバランスをその商業的・社会的・文化的責任において全うできる企業である。
紺野 登
・・・追記・・・
日本のデザイン政策を調べてみると、実はデザイン経営宣言は3周目っぽい。(細かいのを入れると4〜5周目かも)
それと偶然にも29年ごとにデザイン政策が出ているみたいです。
今回は活かしていきたいですね!
1つの仮説として、1960年は建築業界、1989年は家電などハードウェア中心のプロダクト業界、2018年はインターネット業界に大きな影響を与えるカタチになっているのではないか。そして、政策を繰り返しているということは、業界内で閉じていて越境ないし継承ができてないないのではないか。(≒世代の越境や継承がない?)
この仮説はある研究者の方との会話であたっていることが判明しています。みなさんで積極的に越境していきましょう!
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