【映画コラム】U2の音楽とヴィム・ヴェンダース『ミリオンダラー・ホテル』(2000) 【動画未配信の映画】
『All That You Can't Leave』U2 (2000)
昨年の10月30日に、U2の『All That You Can't Leave Behind』のリリース20年を記念して20周年アニバーサリーエディション盤が発売されました。
『All That You Can't Leave Behind』は、アルバム自体はもちろん、収録曲4曲が、グラミー賞を獲得しています。
この内『Elevation』は、『トゥーム・レイダー』の主題歌でした。
しかも、2年連続で、最優秀レコード賞(『Beautiful Day』『Walk On』)を獲得した唯一のアルバムとなっています。
特に『Beautiful Day』のPVは、シャルル・ド・ゴール空港と、飛行機がバンドの上を駆け抜けるシーンが印象的です。
また、『Walk On』は、元々、当時の軍事政権により自宅軟禁状態にあったミャンマーのアウンサンスーチー国家顧問兼外相の解放を訴えたものでしたが、残念なことに、今年に入り、ミャンマー軍のクーデターにより再び拘束され、軍事政権下に逆戻りしています。
そして、このアルバムのボーナストラックとして12曲目に収録されていた『The Ground Beneath Her Heet』が、主題歌になっているのが、映画『ミリオンダラー・ホテル』です。
『The Ground Beneath Her Heet』は、こちらも、反権威の象徴的な人物であるイギリスの現代小説作家サルマン・ラシュディの同名小説をもとにした曲です(PVに本人も出演)。
映画の中では、 衝撃的なラストを迎え、クレジット冒頭に流れる、美しい映画を締め括るのにふさわしい曲になっています。
U2とヴィム・ヴェンダース
この映画『ミリオンダラー・ホテル』は、 U2のボノ原案のストーリーを、ヴィム・ヴェンダース監督(『パリ、テキサス』『ベルリン 天使の詩』)が、映像化したものです。
この『ミリオンダラー・ホテル』には、その他にも、U2のアルバム『Zooropa』から『The First Time』が使われています。
そもそも、ミリオンダラー・ホテルは、ロサンゼルスのダウンタウンに実在するホテルで、『Where The Streets Have No Name』のミュージックビデオのゲリラライブの中に、このミリオンダラー・ホテルの看板がしっかり映っています。実は、高さからも分かるように、本物のホテルの看板ではなく、ボノがわざわざ作らせたレプリカとのことですが、それだけボノの看板に対する思い入れが強かったことが分かります。
ヴィム・ヴェンダース監督とU2のコラボは、『ミリオンダラー・ホテル』以外にも、見られます。
映画『夢の果てまでも』と同名曲で『アクトン・ベイビー』に収録されている『夢の果てまでも』は、もちろん映画の主題歌になっています。
そして、もうひとつ『The First Time』と同じ『Zooropa』に収録されている『Stay (faraway ,so close)』は、『ベルリン 天使の詩』の続編『時の翼にのって(faraway ,so close!)』に使われています。
『ミリオンダラー・ホテル』(2000)
やっと映画の話になりますが、本作『ミリオンダラー・ホテル』は、敬愛するヴィム・ヴェンダース監督の作品の中でも、『パリ、テキサス』『ベルリン 天使の詩』に次ぐほど、個人的に大好きな作品です。
また、本作は、ベルリン国際映画祭の銀熊賞(審査員賞)を獲得しています。
また、俳優陣が、良い味を出していて、アクションやSFではない、ミラ・ジョヴォヴィッチの本来の繊細な演技や、少ししか出てきませんが、タランティーノ作品やドラマ『ライ・トゥ・ミー』とは全く違い(『海の上のピアニスト』ともまた違う)、ティム・ロスの演技が印象的です。
そして、なんと言ってもジェレミー・デイヴィス演じるトムトムに心を洗われます。
【映画のあらすじ】
ロサンゼルスのダウンタウンにある「ミリオンダラー・ホテル」。そこには、社会を追われたいろいろな背景を抱えた人たちが、住人として住み着いており、この中に、トムトム(ジェレミー・デイヴィス)という心優しい知的障がいの青年がいました。
ある日、トムトムの親友であるイギー(ティム・ロス)が、ホテルの屋上から転落する事故が起こります。親友を失った悲しみのなか、以前から心を寄せていたエロイーズ(ミラ・ジョヴォヴィッチ)に愛を求めるようになります。
最初は、頑なに心を閉ざしていたエロイーズでしたが、トムトムの純粋な思いに、徐々に心を開き、絆を深めていきます。
しかし、イギーの事件の調査のために現れた捜査官のスキナー(メル・ギブソン)によって、ホテルの一斉捜査が行われ、トムトムが容疑者にされてしまいます。
エロイーズは、一緒に逃げることを望みますが、トムトムは、エロイーズの愛を噛みしめながら、屋上を走り抜け、空に向かって飛び降ります。
【映画の感想】
トムトムは、エロイーズらとの幸せ時間や愛が、「永遠」となることを信じて飛び降りますが、改めて映画が、美を「永遠」にするための装置であることを実感させてくれます。
現実の世界では、トムトムのそのような行為は、悲しみしか産みませんが、世界中にトムトムのような心を持った人が、多くいることを信じながら生きていきたいと思わせてくれるそんな映画です。
最後になりますが、ボノ原案ということで、トムトムの心がボノの心のどこかにあるのかもしれません。『You're The Best Thing About Me』のPVの中に、そんなボノが垣間見れる気がしたので、添付します。
※本文は、過去に書いた記事を再編集し、再掲載したものです。
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