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どこから読んでも極怖の怪談集第8弾!平山夢明ほか『瞬殺怪談 罰』冒頭3話試し読み

1話60秒で読める!

息つく間もなく襲いくる怒涛の実話怪談集!!

内容・あらすじ

あっという間に読めて怖い!

どこから読んでも極怖の超短怪談を詰め込んだ人気シリーズ第8弾。

平山夢明をはじめ、黒木あるじ、我妻俊樹、黒史郎、つくね乱蔵、神薫、小田イ輔、そして『八王子怪談』でも勢いを増す川奈まり子が参戦。新たな才能が煌めく鷲羽大介に、都市伝説系の鈴木呂亜も久方ぶりに登場する。

総勢10名が様々な「恐怖」をこれでもかとばかり、惜しみなく綴る。怖い話が好きなジャンキーたちに贈る怒涛の144話、罰を恐れずに読み進めよ!

3話試し読み

はじまり 黒木あるじ

「古い家を買ったところ、天井に手形があるのです。いくつも浮かんでいるのです」

 不安そうに告げる女性を「それはのりの跡ですよ」と、やさしくさとした。

 下手な大工ほど、天井板をめるおりに糊だらけのてのひらで板をべたべた触ってしまうのだそうです。はじめこそ糊が透明なので誰も気づかないのですが、経年にしたがい変色し、さながら血でも塗ったような塩梅あんばいになるのだとか。ええ、それだけの話なのです。だから、怖がらなくともよいのです。

 私の解説に安堵の表情を浮かべ、彼女は「なるほど」と言葉を続けた。

「すると、手形がだんだん移動しているのも糊の所為せいなのですね」

 思わず返事に詰まり、沈黙が流れる。怪談がはじまる。


不仲の結末 小田イ輔

 C君の母親と、同居の祖母は非常に仲が悪かった。

 彼と父親はその中で板挟みになり、日常的に居心地の悪い思いを強いられていたらしい。

 嫁姑の関係が良くないのは世の常とはいえ、それにしても度が過ぎていたとC君は言う。

 しかし、それがお互いの死の間際まで続くことになろうとは思ってもいなかったそうだ。


 C君の母親が病で入院したのは彼が中学三年の時。

 祖母は病床の嫁を「受験を控えた息子がいるのに情けない」と何度もなじった。

 そんな話を聞かされ、悔しいと泣く母を励ましながらの受験勉強は辛いものだったが、それでも何とか合格を掴み取った晩、母親の状態が急変した。夜中に病院から掛かってきた電話でそれを知らされ駆け付けると、既に意識がなかったという。

 祖母はこれ幸いとばかりに、物言えぬ嫁に向かって「Cはアンタが居なくても立派に育ててやる、これからの将来が楽しみだ」と愉快そうにささやいた。


 数日後、雪の降る春の日、母親の葬儀が行われた。

 その場において、本当は何があったのか定かではないのだとC君は言う。

 あまりのことに動転し、記憶が曖昧あいまいなのだと。

 彼が憶えているのは、読経の最中、自分の目の前に座っていた祖母が、突然ころんと転がるように横になり、それきり二度と起き上がらなかったこと。

 そしてその後、決して安らかな死に顔とは言えなかった棺の中の母親が、満面の笑みをたたえて横たわっていたこと、それだけだという。

古い電話 鷲羽大介

 カズマサさんの家の電話は、プッシュホンが出始めたころに買った古いもので、留守録やナンバーディスプレイなど、便利な機能は何もついていない、ごくシンプルなものだ。

 そんな電話が、ある夜、弱々しい音で鳴った。

 カズマサさんが出ると、隣町の実家に住んでいるお母さんからだった。

 月に一度ほど、お母さんはこうして電話をかけてくるのだという。

 とくに用事があるわけではない。身体の具合はどうか、といったことを軽く話すと、お母さんは「じゃあおやすみ」と言って電話を切った。

 お母さんが三年前に亡くなったことを思い出すのは、いつも受話器を置いた後のことだという。

 この古い電話を、便利な最新のやつに買い替えてしまったら、もうお袋からはかかってこないような気がするんだよね。

 そう話すカズマサさんの顔は、嬉しそうにも悲しそうにも見える。


朗読動画

Coming Soon!!

著者紹介

我妻俊樹(あがつま・としき)

『実話怪談覚書 忌之刻』にて単著デビュー。著書に「実話怪談覚書」「奇々耳草紙」「忌印恐怖譚」各シリーズ。共著に「FKB 饗宴」「てのひら怪談」「ふたり怪談」「怪談五色」「怪談四十九夜」「瞬殺怪談」各シリーズ、『猫怪談』など。

小田イ輔(おだ・いすけ)

「実話コレクション」「怪談奇聞」各シリーズ、共著に「怪談四十九夜」「瞬殺怪談」各シリーズ、『奥羽怪談』『未成仏百物語』など。原作コミック『厭怪談 なにかがいる』(画・柏屋コッコ)もある。

川奈まり子(かわな・まりこ)

『義母の艶香』で小説家デビュー。実話怪談では「実話奇譚」「一〇八怪談」各シリーズ、『八王子怪談』『実話怪談 穢死』など。共著に「怪談四十九夜」「瞬殺怪談」「現代怪談 地獄めぐり」各シリーズ、『実話怪談 犬鳴村』『実録怪談 最恐事故物件』など。TABLO(http://tablo.jp/) とTOCANA(http://tocana.jp/) で実話奇譚を連載中。

黒木あるじ(くろき・あるじ)

怪談作家として精力的に活躍。「怪談実話」「無惨百物語」「黒木魔奇録」「怪談売買録」各シリーズほか。共著では「FKB 饗宴」「怪談五色」「ふたり怪談」「怪談四十九夜」「瞬殺怪談」各シリーズ、『奥羽怪談』『実録怪談 最恐事故物件』『未成仏百物語』など。『掃除屋 プロレス始末伝』『葬儀屋 プロレス刺客伝』など小説も手掛ける。

黒 史郎(くろ・しろう)

小説家として活動する傍ら、実話怪談も多く手掛ける。「実話蒐録集」「異界怪談」各シリーズ、『黒塗怪談 笑う裂傷女』『黒怪談傑作選 闇の舌』『ボギー 怪異考察士の憶測』ほか。共著に「FKB 饗宴」「怪談五色」「百物語」「怪談四十九夜」「瞬殺怪談」各シリーズ、『未成仏百物語』など。

神 薫(じん・かおる)

静岡県在住の現役の眼科医。『怪談女医 閉鎖病棟奇譚』で単著デビュー。『怨念怪談 葬難』『骸拾い』など。共著に「怪談四十九夜」「瞬殺怪談」各シリーズ、『現代怪談 地獄めぐり 業火』など。女医風呂 物書き女医の日常 https://ameblo.jp/joyblog/

鈴木呂亜(すずき・ろあ)

自称「奇妙な噂の愛好者」。サラリーマンとして働く傍ら、国内外の都市伝説や奇妙な事件を蒐集している。黒木あるじの推薦により『都怪ノ奇録』で単著デビュー。単著に「実録都市伝説」シリーズ、共著に「怪談四十九夜」「瞬殺怪談」シリーズなど。

つくね乱蔵(つくね・らんぞう)

『恐怖箱 厭怪』で単著デビュー。『実話怪談傑作選 厭ノ蔵』『恐怖箱 厭福』『恐怖箱 厭熟』『恐怖箱 厭還』など。共著に「怪談四十九夜」「瞬殺怪談」「怪談五色」「恐怖箱テーマアンソロジー」各シリーズなど。ホラーライトノベルの単著に『僕の手を借りたい。』ほか、黒川進吾の名でショートショートも発表、共著『ショートショートの宝箱』もある。

平山夢明(ひらやま・ゆめあき)

『「超」怖い話』「怖い話」「顳顬草紙」「鳥肌口碑」「瞬殺怪談」各シリーズ、狂気系では「東京伝説」シリーズ、監修に「FKB饗宴」シリーズなど。ほか初期時代の『「超」怖い話』シリーズから平山執筆分をまとめた「平山夢明恐怖全集」(全六巻)や『怪談遺産』など。

鷲羽大介(わしゅう・だいすけ)

一七四センチ八八キロ。「せんだい文学塾」代表。共著に「怪談四十九夜」「瞬殺怪談」各シリーズ、『奥羽怪談』、「江戸怪談を読む」シリーズ『猫の怪』『皿屋敷 幽霊お菊と皿と井戸』など。

〈瞬殺怪談〉シリーズ好評既刊