賞金100万円!日本一の怪談コンテストが文庫に!『怪談最恐戦2021』四代目怪談最恐位・田中俊行の怪談を1話無料公開!
怪談最恐位 田中俊行ほかベスト4の書き下ろし収録
プロ怪談師、お笑い芸人、YouTuber、Vtuber、俳優、声優なども参戦!
選び抜かれた最恐最新怪談!
あらすじ・内容
日本一の怪談コンテスト〈怪談最恐戦2021〉。
怪談師はもとより、作家、芸人、俳優、声優、YouTuber、Vtuberほかネット配信者などフィールドや年齢性別を超えて集った精鋭が、日本で一番怖い怪談を語る者〈怪談最恐位〉の座と賞金100万円をかけて熾烈な戦いを繰り広げた。
今回はファイナルでの様々な意匠を凝らした怪談を収録。怪談最恐戦投稿部門〈怪談マンスリーコンテスト〉からは優秀作と怪談最恐戦朗読部門の受賞作品も収録。
さらには怪談最恐位に輝いた田中俊行をはじめ、準優勝の吉田猛々とベスト4まで進んだ夜馬裕、匠平4名の書き下ろしも特別に掲載。
まえがき
総勢約三八〇名余りが参加した日本最大の怪談コンテスト〈怪談最恐戦2021〉
「日本で一番怖い怪談を語るのは誰だ!?」をテーマに賞金百万円と「怪談最恐位」の称号を目指して、四回目となる怪談最恐戦2021の熱い戦いが今年も繰り広げられた。
朗読部門も昨年に続き開催。本戦と合わせると約三八〇人が参加した日本最大の怪談イベントとなり、地獄の釜から溢れ出した様々な恐怖が現前した!
見事、最恐位に輝いたのは二年連続ファイナルの決勝ステージに進出して、昨年の雪辱を果たした田中俊行。その相手は惜しくも初出場初優勝はならなかった吉田猛々。そのほか、史上初の連覇はならなかった夜馬裕、毎回安定した好成績を収める匠平がベスト4入り。本書には彼ら四人の書き下ろし怪談を収録した。
また複数の応募可能な朗読部門、全応募作四三七の中からグランプリ、準グランプリ、特別賞に輝いた三作品はYouTube「竹書房ホラーちゃんねる」で聴くことができる(そのほかの応募作品も近々、同チャンネルにて再公開予定)。朗読部門で公募した怪談原作の中から受賞した五話と、怪談最恐戦投稿部門〈マンスリーコンテスト〉優秀作六話も掲載➡(怪談最恐戦公式HP)
今年の大会を通して感じたのは怪談のすそ野の広がりだ。怪談を読むだけでなく、怪談を書く、怪談を語る、怪談を朗読する。イベントに参加する、さらには怪談会を開催する、YouTube、ツイキャス、ClubhouseなどWEBのメディアで怖い話や動画を公開する、などなど多様なシーンで活躍、楽しんでいる怪談ファンを目撃した。
広がりという点では、従来からの怪談ファン、マニアだけでなく今大会には怪談を始めたばかりのビギナー、一般の方にも応募いただき、参加者の層の広がりも目立った。
また朗読部門では声優、ナレーター、俳優などの方々からの挑戦が目立った。
そんな怪談ムーブメントの色々な場所で、これまでには経験できなかった恐怖体験が生まれている。あなたも体験するかもしれない最新の怪談をこの文庫で味わっていただければ幸いである。
試し読み1話
幽霊屋敷 田中俊行
唯一、僕が幽霊を見た話というのがあって、これが少し前のことなんですよ。
怪談ライブでよく四国に行くんですけど、高知でですね、Mさんという若い二十代の男性がですね、
「知り合いの家が滅茶苦茶やばいから、ちょっと田中さん行きましょうよ。もう話つけてるんで」
と言って、連れてってくれたことがあったんですよ、ライブ終わりに。
高知から少し離れたところに、土佐大津という場所があるんですけども、そこの近くにある一軒家なんですよ。
それがね、Tさんっていう三十歳ぐらいの男性の家なんですね。
田んぼの中にポツンとあるんですけど、ちょっと異様だったのが大きい家なんですよ。
そこに一人で暮らしてるんですよ。
二世帯は住める二階建ての豪邸ですよね。
着いたのが夜中の一時ぐらいだったんですよ。
そのTさんもぼくのこと知ってくれていたんで、話が早いというか、家に招き入れてくれたんです。
その家に入って、ちょっと異様な感じがするのが、なんだか四人家族ぐらい――いや、もっと大勢の家族が住んでいたような食器とかがあるんです。
でもTさんは一人で暮らしている。
居間に通されると立派なテーブルがあって、そこでTさん、僕、Mさんの三人で話をしていると、「もうすぐですよ」とTさんが言うんです。
すると、スッスッスッスッスッ……たぶん竹箒だと思うんですけど、家の前を誰かが掃除をしている音がする。夜中の一時に。
そして、ジャーっと蛇口から急に水が流れはじめる。
それを普通に、家主のTさんが止めに行くんです。
「これ、なんすか?」と訊いたら、Tさんが言う。
「いや、この家は七年前に買ったんですよ。中古物件でものすごく安かった。買って初日からいろいろあって……僕、ずっと今は一階で寝てるんだけど、当時は二階で寝てたんですよ。二階で寝てたら、夜中の一時から四時の間なんですけど、一時になったらギ・ギ・ギ……と階段を何かが上ってくるんですけど、その上り方がつま先だけというか見つからないように歩いてるような感じがする。ギ・ギ・ギ……とそれで上まで行ったら、ガタガタガタっていうんですよ。その音でいつもびっくりして――。それが朝まで続くんです。それで気持ち悪くなって、一階で寝ることにしたんです」
一階で寝ていても、箒で掃いたりする音がして、誰かがいるという感覚がずっとあったそうです。でも、安かったにしても、それなりのお金を払って買った場所なので、我慢して住んでたんですよ。
家を買って二年後。当時、Tさんコンビニで働いてたんですが、家を買った時に屋根のメンテナンスをしてもらった工務店の社長さんが、久しぶりにコンビニにやってきて声をかけてきた。
「T君、ちょっと変わったことないか?」
「どういうことですか?」
「いや、二年経ったからあんたの家をちょっと診てやろうと思って、さっき行ったんや。そしたらな、二階の大きなベランダあるやろ。そこからな、女の人が見てんのよ、こっちを」
あれ? あの子一人暮らしだったのにな、親戚か家族の人が来てるのかなと思いながら、そのまま家をぐるっと回った。すると、その女の人がいつの間にか移動していて、一階の出窓からギイッとこっちを見ていた。
「それが、真っ白な顔で、あれ、たぶん生きている人じゃないと思ったんだよ」
社長がそういう話をしたので、Tさんが、「いや、実は――」と、夜中に起こる音の話をしたら、
「T君それはな、変わってるって言うんやで。俺、先生を知ってるからな、ちょっと行こう」
そう言って、無理やりTさんを連れてどこか行った。
Tさんは半信半疑だったようですが、拝み屋さんみたいな六十歳ぐらいの女性がいたらしいです。
「はいはいはい」と、Tさんの家の間取りを当ててくるんですよね。
「ここな、誰か亡くなってるな。ああ、頭が痛い痛い言うよるわ。ああこれ奥さんやな」
Tさんは知っていて言わなかったんですけど、前に住んでいた人の奥さんがその家で亡くなっているらしいんですね。
「あんたなあ、二階の部屋あるやろ? で、真ん中の部屋にクローゼットの中に姿鏡があるわ。それ、捨てなあかん」
そう言われた。
Tさん、住み始めてから二階ですぐ奇妙なことがあったから、怖くて二階はほぼ上がったことがなかった。
だから二階にある、そのクローゼットを開けたことがないんですよね。
家に帰ると、Tさんはすぐ二階の真ん中の部屋のクローゼットを開けようとしたのですが、建て付けが悪くてなかなか開かない。
必死になって開けようとしていたら、ガタガタガタという音がする。それは、あのいつも聞いていた階段を上りきった後の音だったんですよ。
(あの音や)と思って、中を見たら、案の定、姿鏡があった。
あのお婆さんが言ってたのはこれや、と思い、それを捨てたそうです。
それからはピタッと音はしなくなったそうなのですが。
「最近また出よるんですわあ」
Tさんが言ったその瞬間、
「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い」
と声だけが通っていったんです。
その通っていった先、というのが居間の入り口なんですけど、少しだけドアが開いてるんです、その隙間から、スッと女の人が横切ったのが見えた。
確かに僕には、白いスカートの端がハッと見切れたんですよ。
わっと思って、隣に座るMさんを見たら、Mさんも見たらしくびっくりした顔をしている。
それで一気に怖くなって、Tさんの家をお暇して、僕たちは帰りました。
いまだにTさん、その家で暮らしてるらしいんですよね――。
🎬人気怪談師が収録話を朗読!
11/26 18時公開予定
収録出演者プロフィール
いつでも丑三つ時(いつでもうしみつどき)
静岡在住。怪談師。3年連続で怪談最恐戦に出場。キャッチフレーズは「あなたにいつでも丑三つ時をお届けします。」
伊藤えん魔(いとう・えんま)
地獄の魔王の名を背負い、舞台一筋三十年。巨体と低音ボイスを駆使して王道怪談を突き進む演劇人。シュールなギャグや妖しい人物を演じれば、他に比類なき怪優。
インディ(いんでぃ)
怪談師ユニット「ゴールデン街ホラーズ」のメンバーとして、怪談イベントを運営。自らもバーの客から聞いた話や、海外放浪時の体験・収集した話を披露している。
クダマツヒロシ(くだまつ・ひろし)
「普通の男が一番怖い。」
ごまだんご(ごまだんご)
YouTube登録者数一〇万人を超える怪談界のニューウェーブ。共著に『Horror Holic School 怪奇な図書室』。過去二回怪談最恐戦に出場している。
匠平(しょうへい)
北海道江別市出身。怪談師としてデビューしてから、これまで七二〇〇ステージ以上、怪談を語っている。三年連続で怪談最恐戦に出場。著書に『北縁怪談』『北縁怪談 札幌編』など。YouTubeチャンネル『匠平のやりたいことやるチャンネル』が好評。
スズサク(すずさく)
北海道釧路市出身。お笑い芸人にして本格派怪談師。二〇二〇年五月自身初の怪談DVD「怪奇蒐集者 スズサク」発売。Instagramで『5秒怪談』を発信している。
田中俊行(たなか・としゆき)
オカルトコレクター。幼少の頃より奇怪な物や怪談話が好きで集めはじめる。独特の口調と表情から醸し出される怪談の数々は要必聴。四年連続で怪談最恐戦に出場。
チカモリ鳳至(ちかもり・ふげし)
怪異民話収集家。北陸を中心に怖い民話や土地にまつわる怪談をフィールドワークで収集している。
長州小力(ちょうしゅう・こりき)
人気プロレスラー・長州力のものまねでおなじみのお笑いタレント。お笑い界きっての怪談好き。著書に『キレてないですよ。』など。
ハニートラップ梅木(はにーとらっぷ・うめき)
心霊スポットソムリエ。お墓。怪談番組などちょっぴり出演。心霊怪談YouTube『水曜日の怪談』ラジオトーク『夜の公民館』を配信中。
村上ロック(むらかみ・ろっく)
俳優として白石晃士監督作品に多数出演。現在は、怪談師として新宿歌舞伎町にある怪談ライブバー・スリラーナイト歌舞伎町に出演。モヒカン頭に学生服という一風変わった出で立ちの語り手。共著に『実話怪談 犬鳴村』『現代怪談 地獄めぐり 羅刹』など。
夜馬裕(やまゆう)
三代目怪談最恐位。全国各地を巡りながら、四半世紀集め続けた怪談は一〇〇〇以上。怪談、猫、映画、酒場巡りがライフワーク。著書に『厭談 祟ノ怪』、共著に『高崎怪談会 東国百鬼譚』『現代怪談 地獄めぐり 業火』『瞬殺怪談 死地』など。
吉田猛々(よしだ・もうもう)
普段はナナフシギというコンビで活動し、舞台では漫才、YouTubeでは怪談やオカルトに関するトピックを発信している。
怪談マンスリーコンテスト
執筆者プロフィール
雨森れに(あまもり・れに)
信濃出身、東京在住。楽しく飲み歩いていたが、コロナ禍でステイホームに。暇に耐えきれず、なんとはなしに筆を持ったところ、怪談と物語が集まってきた。それらが紙魚に食べられる前に捕まえるつもり。
卯ちり(うちり)
秋田県出身。二〇一九年より実話怪談蒐集を開始し、怪談最恐戦二〇一九東京予選会出場をきっかけに怪談語りも平行して活動。『怪談のシーハナ聞かせてよ。第弐章』出演ほか、共著に『呪術怪談』。
緒音 百(おおと・もも)
佐賀県出身。怪談や奇談に慣れ親しんで育った。大学時代に民俗学を専攻し語り継ぐことの楽しさに目覚める。参加共著に『実話怪談 犬鳴村』『実話怪談 樹海村』『鬼怪談 現代実話異録』『呪術怪談』がある。
菊池菊千代(きくち・きくちよ)
岩手県在住。参加共著に『実話怪談 犬鳴村』『怪談最恐戦2020』。趣味は映画鑑賞で、今年のベストは『花束みたいな恋をした』か『DUNE砂の惑星』で悩み中。ホラーの年間ベストは『プラットフォーム』。
月の砂漠(つきのさばく)
都内在住の放送作家・劇作家。趣味は落語鑑賞と寺社仏閣巡り。血圧と尿酸値が少々高めの恐妻家。第四回「上方落語台本大賞」で大賞を受賞。参加共著に『実話怪談 犬鳴村』『実話怪談 樹海村』等。
梨(なし)
ライター。共同怪奇創作サイト「SCP財団」、Webメディア「オモコロ」等で活動中。墓場少年(はかばしょうねん)愛媛県在住。少年とは名ばかりで、完全体の中年です。実話怪談収集執筆を趣味としていますが、怖がりなので毎回「聞くんじゃなかった」と後悔してます。いつかは長編ホラー小説を書きたいと思っています。猫が好き。
ふうらい牡丹(ふうらいぼたん)
大阪在住。普段は落語家をしておりますが、実話怪談については話すよりも書く方が好きです。共著に『怪談四十九夜 荼毘』『実話怪談 樹海村』。
丸太町小川(まるたまち・おがわ)
京都と九州某所を拠点にフィールド・レコーディングや音響構成に取り組む傍ら、ヴァナキュラーな怪異を求めて身近の奇談・怪談を収集中。参加共著に『実録怪談 最恐事故物件』、『呪術怪談』。
三上りょう(みかみ・りょう)
福岡拠点の短歌作家。好きなものは猫と紅茶と格闘技。怖い話や不思議な話をモチーフに短歌を詠むほどのオカルト好きでもある。怪談ユニット・宵闇からの猫としても活動中。
夕暮怪雨(ゆうぐれかいう)
怪談好きの書店員。執筆業の父と漫画家・伊藤潤二から大きく影響を受ける。YouTubeにて夕暮兄弟名義、弟の血雨と怪談朗読動画を配信。サウナと猫を愛す男。最恐賞以外に、別名義で佳作も受賞。