ページ大増量!全ての怪を解放し、全ての頂を超える圧巻のシリーズ最終巻『闇塗怪談 終ワラナイ恐怖』(営業のK)著者コメント、試し読み★12/27〜フェア特別冊子情報あり!
全ての怪を解放し、全ての頂を超えるシリーズ最終巻!
あらすじ・内容
母は怖い顔で俺の口を塞いだ。
アレは確かに禁忌だったのだ…
最後に明かされる、著者自らの体験談。
営業部員が会社のブログで実話怪談を綴り始めたことから生まれた人気シリーズ「闇塗怪談」が本作をもってついに完結。
著者自らの体験を中心に、これまで封印してきたすこぶる曰くつきの話を全て解禁する。
・昏睡状態に陥った著者が見た奇妙な夢…「五日間、眠り続けた」
・火事で被災した人々に食事を振る舞う家に現れた不気味な親子…「そこにいたモノ」
・幼い頃からいつも一緒に遊んでいた二人組の男女。両親はアレとは遊ぶなと言うのだが…「マサル」
・著者の母が幼い頃能登の蔵で見た異形…「鬼女」
・夢に現れる女性の絵を描き続ける男。やがて絵に変化が…「書けなかった話」
ほか、大ボリュームでお届け。
本を閉じても恐怖は終わらない。闇よ、永遠なれ。
著者コメント
試し読み
「そこにいたモノ」
小学生の頃、向かいの家が火事になった。
ただ向かいとは言っても特に近所付き合いはなかった。
住人の顔くらいは知っていたが、実際すれ違ってもお互いに会釈を交わす程度。お世辞にも親しいと言える関係ではなかった。
ただ、火事ともなれば話は違ってくる。
俺がその頃住んでいた町は、昔ながらの長屋のような家が密集して建っており、両隣や前後の家との距離があまりにも近すぎた。
つまりその家の火事が我が家に延焼するのではないかという恐れがあった。
しかも消防車が入って来られるのは大通りまでで、そんな離れた場所から消防ホースが届くのかという不安さえあった。
しかし、そんな心配をよそに消防隊員の方達は迅速かつ的確な動きで消火活動に入り、幼い俺の不安などすぐに払拭してくれた。
生まれて初めて、しかも目の前で見ることになった火事に俺は妙に興奮し、怖いという気持ちはすぐにどこかへ消えてしまっていた。
一気に燃え広がった炎は、さながら夏祭りのイベントで使われる火柱のように見えてしまい、全く現実味がなかったからかもしれない。
もっとも火事で燃えている家とは細いとはいえ道を一本隔てており、よもやその火事が自分の家にまで延焼しはしまい、と高をくくっていたのも大きな理由だった。
しかしその時、俺は初めて知った。
消火活動というものは火事になっている家だけに水をかけ続けるのではなく、延焼を防ぐために隣や周りの家々にも大量の水をかけ続けるのだ。
その様子を見て「自分の家がキレイになる」と喜んでいたのも最初のうちだけだった。
そもそも消火ホースの水圧というのは俺が思っていたよりも遥かに強力なものだった。
我が家にかけ続けられた消火ホースの水はいとも簡単に窓という窓を破壊し家の中へ注がれ続けていたがそれでも放水が止むことはなかった。
結局、火事はその家が全焼することで鎮火した。
その家の住人も火傷や怪我をした者はいたが幸いなことに死人が出ることはなかった。
その後残されたのは黒焦げの火元と、家の中が完全に水浸しになってしまった近所の家々だった。
翌日は学校も休んで母と俺と兄の三人で水浸しになった家の中を拭き取る作業に追われた。家の中は嵐が吹き荒れたように無残な状態で、何とか眠れるスペースを確保するだけで精一杯という状況だった。
その日の夜、俺は生まれて初めて見ず知らずの家に招かれて夕飯をご馳走になることになった。
その頃はまだ地域の繋がりというものが強く残っていたのだろう。
近所に住んでいる一人暮らしのおばさんが、家事で被災された家の方達を招待して夕飯を振る舞ってくれたのだ。
その場には火事で家が燃えてしまった住人の方や、顔や手を包帯でぐるぐる巻きにされた人も来ており、とても気まずい雰囲気だった
それでも誰もがお互いを労り、励まし合って夕食を食べた。
決して広いとは言えないおばさんの家は、様々な立場の大人達でいっぱいだった。
俺も子供心に、こういう付き合いも良いものだなぁと思ってしまったほど、最初のぎこちなさが解けると、その場は和やかな雰囲気に満たされていた。
しかし、しばらくするとそんな和やかな雰囲気は一変してしまう。
あれだけ和やかに喋り合っていた大人達が誰も喋らなくなったのだ。
何かを探っているように。
何かを恐れているように。
それは皆が食事をしている最中、静かにその家に入ってきた。
呼び鈴を鳴らすでもなく、誰かの許可を得るでもなく、スーッと家の中に入ってきたかと思うと、そのまま無言で部屋の隅っこに正座した。
四十代くらいの父親と母親、そして中学生くらいの女の子の三人家族に見えた。
俺はその親子らしき三人が部屋の中に入ってきた時から妙な違和感を覚えていた。
普通は家の玄関や廊下、そして畳の上を移動しているのならば、どんなに注意しても足音や摺り音くらいは聞こえるのが当たり前だ。
しかし、その親子は何の音もたてずに玄関から短い廊下を通り、部屋の中へ入ってくると端のほうへと移動し正座した。
しかも、その動きは歩いているというよりも、前方や横方向に平行移動するように滑っているという表現がピッタリとくる、不思議な動きだった。
さらに言えばその親子が着ている服装も異様だった。父親と母親は喪服を着ており、女の子は見たこともない古いデザインの学生服を着ていた。
そんな親子が無表情のまま何も喋らずただ正座している。
俺は子供心にも「気持ち悪い奴らが来たな」と感じていた。
そしてどうやらその親子の姿は俺だけではなく、その場にいた全ての大人達にもしっかりと見えていたのは間違いなかった。
無言のまま勝手に部屋の中に入ってきてそのまま座り込んだその親子の動きをその場にいた大人達もはっきりと目で追っていたのだから。
しかし、部屋の端にその親子が座ったのを見ると、誰もがその親子から目を背けるように視線を外した。視線を外して黙々と食べることに集中した。
まるで早く食べ終わって一刻も早くその場から逃げ出したいと思っているかのようだった。
そんな大人達の様子を見てしまった俺も、
(この三人は視てはいけないものなのかもしれない……)
そんな気がして怖くなってしまい、黙々と食べることだけに集中した。
先ほどまでの和やかな夕食の時間はその親子の出現で完全に沈黙の時間に変わってしまった。
一人、また一人と食事を終わらせてその場から逃げるように立ち去っていく。
そんな様子を見て、次第に不安と焦燥感に圧し潰されそうになっていた俺も、母親に急かされるように食事を終えると、挨拶もそこそこにその場から立ち去ってしまった。
我が家への道すがら、母親に先ほどの親子のことを尋ねてみた。
大人なら何か知っているかもしれないと思ったし、何より母もあの親子を見てから急に態度が急変した大人の一人だった。
しかし俺の問いかけに対し母は怖い顔で俺の口を塞いだ。
まるで禁句でも口にしてしまったかのように。
あの親子はいったい何だったのか?
今となってはその正体は分からないが、少なくとも人間ではなかったことだけは間違いないと確信している。
俺が母にその質問をした時、母は間違いなく怯えた顔をしていた。
いつも強い母のそんな顔を見て、俺の恐怖はどんどん大きくなってしまい、二度とあの親子には触れないでおこうと心に誓った。
ただ可哀想だったのは、その家に好意で食事に招いてくれたおばさんだった。
俺達招かれた家の者は、食事が終わればその場から立ち去ることができた。
しかし招いてもいない親子に居座られたおばさんには、逃げ場はなかったはずなのだ。
俺達が帰る際にもその親子に帰る素振りは見えなかった。
食事もせず、誰とも口をきかず、その親子は部屋の隅っこにずっと座り続けていた。
一人また一人と立ち去っていく近所の人達を、おばさんはどんな気持ちで見送っていた
のだろうか?
最後の一人が食事を終え立ち去った後には、その親子とおばさんだけになったはずだ。
その空間でいったい何が起きたのだろうか?
そもそもその親子はその場所にいったい何をしに来たというのか?
それから一カ月も経たない頃、その家のおばさんが急死したという話を母親から聞かされた。
母親の顔には憐みの表情はあったが、驚いている感じはなかった。
まるでおばさんが急死するのを知っていたかのように。
そんな俺の違和感を裏付けるように、おばさんの葬式には近所に住む者は誰一人として参列しなかった。
同じ町内で誰かが亡くなれば、通夜や葬儀に参加するのが当たり前の時代であったのに。
火事の時には皆がお世話になったはずのおばさんだったというのに、だ。
それが当時の俺には不可思議であり恐ろしかった。
成人してから、その時のことを母に尋ねたことがあった。
あの時あの家にやってきた親子は何だったか本当は知ってたんじゃないの?
それにあのおばさんの葬式になぜ参列しなかったの? と。
すると、母は少し考えてからこう答えた。
あの時代はまだそういうモノが普通に存在していた時代だからねぇ。
こっちから危ない場所に近づかなくても向こうから勝手にやってきてしまう。
そうなってしまうともう、運を天に任せて逃げるしかなかったの。
親は子供を護らなくちゃいけないのよ……と。
現在でもそのおばさんが住んでいた家はそのままの姿で残っている。
かなり朽ちてはいるが、当時と変わらぬ状態でその場に残されている。
取り壊そうとすると色々と不可思議なことが起こるのだそうだ。
つまりあの親子はそういうモノなのかもしれない。
あの時見た親子は今でもあの部屋の端っこで正座している。
無表情のままで。
俺にはそう思えて仕方がないのだ。
―了―
★シリーズ完結記念!フェア参加書店で特別冊子を配布!
「闇塗怪談」シリーズ完結を記念して、全国のフェア参加書店にて12/27〜特別冊子を配布いたします。
文庫未収録の書き下ろし怪談、シリーズ全10巻からそれぞれとくに思い入れの強い作品について語った自薦コメント、怪談作家仲間からのお祝いメッセージなど豪華32ページの特別冊子です。
無くなり次第終了、配布方法は書店により異なりますのでご了承ください。
表紙は営業のK先生とも交流のある、ののくえさんです。
※各店舗、無くなり次第終了となりますのでお早めにお求めください。
※配布方法や在庫状況は各書店にお問合せください。
※お近くにフェア参加書店がない場合は、ヨドバシドットコム様の通販にて新刊をお買い求めいただきますと、特別冊子がつきます。送料無料。
★フェア参加書店リスト
◎著者紹介
営業のK(えいぎょのうのけー)
石川県金沢市出身。
高校までを金沢市で過ごし、大学4年間は関西にて過ごす。
職業は会社員(営業職)。
趣味は、バンド活動とバイクでの一人旅。
幼少期から数多の怪奇現象に遭遇し、そこから現在に至るまでに体験した恐怖事件、及び、周囲で発生した怪奇現象をメモにとり、それを文に綴ることをライフワークとしている。
勤務先のブログに実話怪談を執筆したことがYahoo!ニュースで話題となり、2017年『闇塗怪談』(竹書房)でデビュー。主な著書に「闇塗怪談」シリーズ、共著に『呪術怪談』『黄泉つなぎ百物語』『実録怪談 最恐事故物件』など。
好きな言葉は、「他力本願」「果報は寝て待て」。