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ヤンキーとサーファーと恋人たちの聖地、海の町のご当地怪談「湘南怪談」(神沼三平太)が登場!!!

サーファー、暴走族、恋人達の聖地「湘南」のご当地実話怪談集。
海の聖地の闇スポットと実際に起きた怪事件を
茅ヶ崎出身の著者が徹底取材!

暴走族が恐れる霊障・江の島病
茅ヶ崎海岸に漂着する呪いの瓶
異界と繋がる鉄砲通り
湘南モノレールに憑くモノ
オチョバンバの石碑の祟り
平塚新港の霊道マンション

……本当は怖い湘南怪岸!

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あらすじ・内容

※目次より一部抜粋

第1章 稲村ヶ崎から江の島
「稲村ケ崎公園」…公園でプロポーズをすると地面から黒い手が…
「江の島病」…湘南を走る暴走族の間で実しやかに語られる謎の霊障

第2章 鵠沼海岸から辻堂海岸
「先輩達の部屋」…鵠沼海岸のサーファー専用アパートに棲みつく女の霊
「駐車場」…辻堂海水浴場近くのスーパーの駐車場に出る溺死者の霊

第3章 茅ヶ崎海岸
「漂着物」…海岸に漂着した呪いの瓶。中にはある女性タレントの名前が
「潮の井戸」…茅ヶ崎海岸の屋敷の古井戸の周りに出現する河童の足跡

第4章 茅ヶ崎市内陸部
「茅ヶ崎駅」…線路にいた子供が忽然と消えた事件と人身事故を招く白い手
「オチョバンバの石碑」…触れる者は祟りに遭うと書かれた供養塔の恐怖

第5章 平塚
「堤防通り」 ランニングをしていると、腕のない子供の霊が背後から…
「平塚のアパート」殺人事件があったというアパートで撮られた恐怖の心霊写真

他、海岸沿いに辿る45の怪奇スポット&体験談を収録。

著者コメント

湘南は僕の故郷だ。今でこそ相模原に居を移してはいるが、季節観光地茅ヶ崎に生を受けて以来、ずっと湘南の地を愛してきたし、そこで奇妙な話はないかと聞き集めてきた。

思えば子供の頃から奇妙な話が好きだった。たとえば通っていた小学校の近くの踏切は「伍仁原(ごにはら)踏切」というが、ここでは五人が腹を切ったとか、国道134号線をくぐるトンネル(現存せず)には幽霊が出るとか、小出川の河口には子供の幽霊が出るとか、海は水死体が流れ着いて、その人魂が見えるとか、江ノ島の稚児ヶ淵で海坊主を見ただとか。とにかくそんな噂話を耳にするたびに目を輝かせるというおかしな子供だった。小学生の頃には雨月物語や遠野物語も手に取っていたし、とにかくお化け大好きだった。齢五十になった今だって奇妙な話を求めて東奔西走しているのだから、雀百まで踊り忘れずとはこのことなのだろう。

本書はそんな著者が江ノ島、藤沢、茅ヶ崎、平塚のあたりで聞き集めた奇妙な話の中から、できるだけ地元色の強い話を選んだものになる。海沿いのごく狭い地域の話なので、類話ばかりになるかと危惧していたが、意外とバリエーションの多い面白い本になったのではないかと自負している。付近の伝承に関しても織り込んでおいたので、その辺りも含めて楽しんでいただけると幸いだ。

蛇足になるが、本書に鎌倉・逗子・葉山のあたりの話は入れていない。誇張なしで言うが、鎌倉で聴いた怪異譚だけで一冊になってしまうからだ。こちらはまた別の機会があればまとめてみたい。

著者自薦・試し読み1話


「キスしてあげよっか」

 知り合いのサーファーに中本さんという人がいる。彼は一年を通じて海に出ており、五十代の半ばにも拘わらず精悍な印象を与えてくれる。
 気さくで気遣いもできるナイスガイだ。
「もう大分昔になりますけど、海での変な経験なら一つありますよ」
 彼がまだ三十代で、独身だった頃の話だ。
 場所は茅ヶ崎の菱沼海岸。現在の茅ヶ崎パーク付近である。

 自転車にサーフボードを乗せて、防砂林を越えると馴染みのポイントだ。右手には富士山、左手には江の島。真正面には茅ヶ崎海岸のシンボルともいえる烏帽子岩こと姥島が見える。この浜に立つと、自分が湘南に住んでいると実感する。
 季節は秋で、海水浴には適さない時期だが、ウェットスーツを着込んだサーファーには関係ない。オフショアの良いコンディションの波があれば、真冬でも海に赴く。

 その日も暫く波を楽しんだ後、海面でボードにぶら下がってひと息入れた。
 そのとき、耳元で声が聞こえた。
「キスしてあげよっか」
 女性――恐らくは若い女性の声だ。
 誰の声かと周囲を見回しても誰もいない。そもそも早朝で、自分以外には海に入っていない。
 シチュエーションが違っていれば喜ばしい気持ちにもなったのかもしれないが、現状ではただ気持ちが悪いだけだ。
 すぐに海から上がった。普段ならただの気のせいとでも考えて、もう暫く波と戯れたい時間だったが、何故かそれができなかった。

 自転車のサーフボードキャリアにボードを載せ、国道134号線を渡っている途中で酷い寒気に襲われた。
 ――熱でも上がってきたか?
 元々、身体が冷え切るほどの時間は海に入っていない。厚めのウェットスーツを着ているため、スーツと素肌の間には体温で温まった海水が溜まり、早朝の冷たい海水温もあまり苦にはならない。
 つらい。まっすぐに歩くことができない。
 歩行者信号が青に変わったことを確認すると、視線を足元に向けて、とぼとぼと横断歩道を渡っていく。
「キスしてあげよっか」
 波間で聞いたあの声だ。
 はっと視線を上げると、黒いビキニ姿の女が横に立っていた。
 その女のほうに顔を向けた瞬間、意識が途切れた。

「早朝でしょ。だから車の通りがなくてラッキーだったんですよ。でなければ最悪轢かれてましたから」
 意識を失っていた時間は五分未満だったが、その間は自転車ごと国道に倒れていたという。
 通りがかった海釣り帰りの老人が、駆け寄って助けてくれた。
 ただ、その老人の言葉によると、自転車ごと倒れている中本さんのすぐ傍に、黒いビキニにパレオ姿の女が立っていたらしい。
 何故男が倒れているのに、何もしないで横で立っているのだろう。
 そう思っているうちに、女は跡形もなく消えてしまった。
「信号待ちの最中だけど、放っておくと轢かれてしまう。これはいけないと、慌てて助けてくれたらしいんです」

 もう十月近い早朝に、水着の女なんているはずがない。
 正体は不明だ。
 結局、顔を確認する前に意識が途切れたので、どんな顔かも分からない。
 ただ、声を聞いたのも女を見たのも、不思議な体験をしたのはその一度きりだという。

🎬人気怪談師が収録話を朗読!

著者紹介

神沼三平太 Sanpeita Kaminuma
神奈川県茅ヶ崎市出身。O型。髭坊主眼鏡の巨漢。大学や専門学校で非常勤講師として教鞭を取る一方で、怪異体験を幅広く蒐集する怪談おじさん。猫好き甘党タケノコ派。最近は対面で取材したり、怪談会を開催したりが憚られるのが悩みの種。成長期よ永遠なれ。主な著書に『実話怪談 吐気草』ほか草シリーズ。『恐怖箱 煉獄百物語』ほか「恐怖箱百式」シリーズのメイン執筆者としても活躍中。


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