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加藤一、神沼三平太、ねこや堂、高野真の紡ぐ百怪談『恐怖箱 呪禁百物語』著者コメント・試し読み・朗読動画

4人の怪談蒐集家が独自の取材で聞き集めた実話を、
代わる代わる紡ぐ百物語。

内容・あらすじ

「今から人が死にますよ」
耳元で突然聞こえた囁き。
十秒後、悪夢が…(「予告」より)

人を呪い殺せる壷
仏間の地下儀式
駐屯地の祟る供養塔
日常の闇を覗き見る百怪談!

今から人が死にますよ…駅のホーム、ふいに囁かれた声はどこから?「予告」
おにぎり工場の釜の湯気に浮かぶ顔。笑っているうちはいいのだが…「飛顔」
月に一度予知能力が開花する女性。条件が二つあり…「勘がいい人」
二週間に一度クラブのママの家を訪れる霊。徐々に距離が縮まって…「通い婚」
駐屯地の敷地内にある木杭。それを蹴った自衛隊員は…「同情無用」
水回り限定で怪異の起こる家。毎年7月の同日に見る恐ろしい夢とは…「命日」
ほか、短夜にさらりと読めて深く残る恐怖譚、珠玉の百話!

著者コメント

「百物語を文字で読むことの意味、価値、メリットは?」というのは、百式シリーズを始めた当初からずっと思ってたことではあるんですが、1話=1~4頁の掌編怪談を読む読者にとっての最大のメリットは、「ネタの覚えやすさ」だと思います。「○○で読んだんだけどさー」という話を誰かに話すとき、長すぎると覚えられない。文章巧緻も行きすぎると語りにくい。覚えきれない長い話をしどろもどろにだらだら語ると、聞かされる友人が飽きてしまう。心霊スポットに向かう前の車中で、ほんの賑やかしの時間を埋める、ごく短く、伝聞を語りやすく、慣れない人でも怖さのツボを強調しやすい、「語り怪談のネタ帳」。それが、百物語実話怪談の本領かつ意味、価値、メリットなのではないか、と毎回思っています。今回もです。
                           加藤一

11年目の百式です。どうもご無沙汰しております。神沼です。デビューしてからも、それよりもずっと昔からも、コンパクトで面白くて不思議な話というものを追いかけているのですが、この恐怖箱百式シリーズは、それにうってつけの舞台として、毎年楽しく書かせていただいております。今年もたくさん書かせていただきました。どれも気に入っている話ばかりです。
 Web試読に上げられた作品は「飛顔」ですが、「ヒガン」と読んでいただいても良いですし、「トブカオ」と読んでいただいても結構です。僕は後者で呼んでいます。怪談に解説を入れるのは野暮なのですが、見えないと見えるの端境、理由がわかる、わからないの境界線を探りたくなるような怪異譚として楽しんでいただければと思います。なお、場所は神奈川県内、湘南地方にもほど近い工場での話です。
                           神沼三平太

試し読み1話 

「飛顔」神沼三平太

 戸村さんの働く工場では、コンビニのお弁当の調理製造などを中心に扱っていた。
 工場では配置で揉めることもある。担当によって、仕事のキツさに差があるのだ。
 だがリーダーを任された戸村さんは立場上嫌がることもできず、いつも一番きついとされているおにぎりの部屋を担当していた。
 ビニール製の手袋一枚で、炊きたてのお米を機械へと詰めていくのだ。その熱さに手を火傷する者が絶えない。
 その日は米が炊きあがった後で機械へ運び込もうとすると、立ち込める湯気の中をふわふわと移動しているものが見えた。その直後、自分の顔の倍はあろうかという大きさの老婆の顔だけが、歯抜けの口を大きく開き、満面の笑みを浮かべて湯気の中をこちらに向かってきた。
 驚いて身をすくませた。しかし何も起こらない。
「気にしちゃ駄目よ。笑ってるうちは平気だから」
相方になったパートさんが淡々と言う。彼女は決して視線を上げなかった。
 もっと話を聞きたかったが、食品を扱っていることもあって私語厳禁だ。
 戸村さんは気にはなったが、仕方なく黙って仕事を続けた。
 三杯目の釜で作業は終わりだったが、釜ごとに異なった顔が湯気の中を彷徨っていた。
 表情はどれも笑顔だった。
 その日の仕事が終わり、先ほどの顔について話を聞きたかったが、生憎相方だったパートさんが誰だか分からない。何しろ更衣室で揃いのマスクと割烹着と帽子を脱げば、人相も分からないのだ。
 結局戸村さんは暫くの間、ずっとおにぎり担当を続けた。
 その間に、彼女は何回も顔を目撃した。大体が初老から老人だったが、驚かされるだけで特に何かがある訳ではない。飛んでくる顔に驚くのよりも、熱さと暑さのほうが問題で、とうとう二週間後に熱中症で休むことになってしまった。
 二日ほど休んで仕事に戻ると、おにぎり担当へとまた回されてしまった。
 辟易しながら作業に従事する戸村さんだったが、気が付くと相方が変わっている。一緒にいたのは四十代ほどの女性だったはずだが、若い社員へと代わっていた。
 御飯の釜をひっくり返す。湯気が吹きでる。今度は顔が出てこなかった。
 機械に流し込んで、おにぎりがビニールに包まれて出てくると、社員さんは冷たい口調で言った。
「あとは一人でできるでしょ」
 一刻も早くここから出たい、彼女はそう願っているように聞こえた。
「あの。前にここにいた人はどうされましたか……?」
「前田さんね。怪我して休んでるわ」
 そう言った後で、社員さんは確認するように訊ねてきた。
「貴方も顔が見えたの? それで怪我して休んでたの?」
「いえ、私の場合は暑さで参ってしまって――」
「でも見えたのね。ごめんなさい、配置変えるわ」
 どういうことですかと問うと、社員は短く答えた。
「怒った顔に噛まれたのよ、前田さん。腕とか……色々」
 彼女は心底嫌そうに答えた。

ー了ー

朗読動画

収録話より「そんなつもりでは」高野真/著の朗読を公開中!

著者紹介

○編著者

加藤一

1967年静岡県生まれ。O型。獅子座。人気実話怪談シリーズ『「超」怖い話』四代目編著者として、冬版を担当。また新人発掘を目的とした実話怪談コンテスト「超-1」を企画主宰、そこから生まれた新レーベル「恐怖箱」シリーズの箱詰め職人(編者)としても活躍中。主な著作に『「弔」怖い話』、『「忌」怖い話』『「超」怖い話』『「極」怖い話』各シリーズ、『「弩」怖い話ベストセレクション 薄葬』(竹書房)、『怪異伝説ダレカラキイタ』シリーズ(あかね書房)など。

〇共著者

神沼三平太 Sanpeita Kaminuma

神奈川県茅ヶ崎市出身。O型。髭坊主眼鏡の巨漢。大学や専門学校で非常勤講師として教鞭を取る一方で、怪異体験を幅広く蒐集する怪談おじさん。猫好き甘党タケノコ派。主な著書に『千粒怪談 雑穢』『実話怪談 凄惨蒐』、地元湘南の怪異を蒐集した『湘南怪談』、『実話怪談 吐気草』ほか草シリーズ。共著では『恐怖箱 煉獄百物語』ほか「恐怖箱百式」シリーズのメイン執筆、若本衣織との共著『実話怪談 玄室』などがある。

ねこや堂 Nekoya-do

九州在住。実話怪談著者発掘企画「超-1」を経て恐怖箱シリーズ参戦。現在、お猫様の下僕をしつつ細々と怪談蒐集中。B型。主な共著に「恐怖箱 百物語」シリーズ、『追悼奇譚 禊萩』『鬼怪談 現代実話異録』『村怪談 現代実話異録』(竹書房)など。

高野真 Makoto Koya

みちのく暮らし丸11年の関西人。A型。趣味は国内旅行。乗り物全般好き。美味しいものを食べるのも好き。飲み屋も好きだけどド下戸。青森ねぶた祭の囃子方も務めている。主な共著に『東北巡霊 怪の細道』『青森怪談 弘前乃怪』など。
Twitterアカウント@KOYA_Makoto

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