怪異を調査・分析・考察する…野暮でロマンな怪談本爆誕!『黄泉とき 怪談社禁忌録』著者コメント&丸ごと1話試し読み
「それ気のせいだと思います」
開かずの間の共通点。
遺体が動く意味。
存在が記憶から消える系。
怪異を分析・考察する「読み解き」の果てに絞り出される一滴の恐怖。
野暮でロマンな怪談本爆誕!
あらすじ・内容
説明のつかぬ怪異をあえて分析、調査し、考察する。
膨大な類例から傾向と真相を炙り出す手法から、
取材に取材を重ね、隠された事実を掘りおこす試みまで、
野暮を承知で怪の読み解きに挑んだのが本書=黄泉ときである。
・ひとりでに鳴るピアノの原因
・「開かずの間」の意外な共通点
・「黒いひと」が出る土地の因果
・「墓をつくる」子どもの真意
・類話から考える「出逢い」の謎
・雑貨店に現れた老人が語る「動く遺体」の原理
・交換日記に書かれた「不気味なメッセージ」の犯人
・三人が同時に視た「笑うおんな」の真相とは――。
一見無粋な試みから浮かび上がるのは拭えぬ恐怖と心、魂の本質である。
野暮なロマン「それ気のせいです」の先をご覧あれ。
著者コメント
試し読み
「橋の上にて」
私が幼稚園に通っていたころの話です。といっても私自身はまったくそのときのことを覚えていないので、のちに母から聞いた話ですが。それでもよろしいですか。
幼稚園には母が自転車で連れていってくれていました。自転車のうしろのシートに私を、前の補助席には幼い妹を座らせていました。毎朝、大変だったと思います。
幼稚園までの道中、妹のようすが変だったって母がいうんです。
ばたばた両手を動かして、やたら暴れる。
危ないからじっとして。母がそういっても、いうことをきかない。しばらくすれば治まるのですが、毎日それを繰りかえすので、そのうち母も気づいたんです。
妹が暴れるのはいつも決まって同じ場所、橋の上を通過しているときだって。
さらに暴れるとき妹は、いや、あっちいってッ、となにもない方向にむかって手をバタバタ動かす。妹にはなにか視えているかもしれない。そう母は思ったそうです。
でも、それもしばらくしたら、なくなってしまった。
思いだすと、あの時期はなんだったんだろうといまでも不思議になるそうです。
その橋、地元のひとはよく知っているんですが――戦時中、空襲で被害がでたとき、
酷いことになったので有名なんです。浮いた死体で川の水面が埋めつくされたって。
やっぱり妹には、戦時中に亡くなったひとたちが視えていたんですかね。
ー了ー
◎著者紹介
伊計翼 Tasuku Ikei
怪談蒐集団体、怪談社の記録書記。2010年デビュー。単著に「怪談社十干」シリーズ、「怪談社THE BEST」天邪鬼シリーズ、『怪談社書記録 赤ちゃんはどこからくるの』『魔刻百物語』『あやかし百物語』『恐国百物語』『怪談師の証 呪印』『怪談社書記録 蛇の目の女』など。