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怪にのまれる境目、彼岸と此岸の分岐点!恐怖の岐路となる辻を追うキワどい実話怪談!『実話奇聞 怪談骸ヶ辻』(服部義史)著者コメント、試し読み!

生と死、日常と異界、幸と不幸の境界線を見つめるキワどくも不気味な実録恐怖譚!

あらすじ・内容


「あの家の血は呪われています」

何処へ逃げても現れる血飛沫のついた表札。
夢枕に立つ四人の男は…
「名取家」より

一歩間違えば奈落。
目に見えぬ運命の岐路、生死を分ける辻の如き場所や瞬間がこの世には張り巡らされているのかもしれない。
・夜道で何者かに浚われ見知らぬ家の床下に放り込まれた少年。
何とか逃げ出し帰宅するも、後日気になって家を探してみると怖ろしいことが…「神隠しの正体」
・実の姪に邪な愛情を抱いていた叔父。
叔父の死後、彼女の周りに漂う濃密な気配と襲い掛かる不幸…「叔父と彼女」
・石炭事業で富豪となった名取家。
のちに没落し借金取りから逃げる生活となるも、名取家を怨んで自殺した男の血を吸った屋敷の表札がどこからともなく現れて…「名取家」
他、生と死、日常と異界、幸と不幸の境界線を見つめるキワどくも不気味な実録恐怖譚!

著者コメント

 ありがたいことに第四作目の単著となります。
 これまでにも沢山の体験者の方々にお話を頂いておりますが、いつも思っていたことがあります。
「この怪談は防ぐことができなかったのだろうか?」
 怪異が発動される前、そのギリギリのラインで何かに気付き、踏み止まることができたのなら、体験者の方は幸せなままでいられたのではないだろうか、と。
 勿論、怪談というものには優しい怪談もあります。
 こちらの場合には、愛や癒しを含んでおり、体験者の救いとなっているのは間違いありません。
 どちらの場合におかれましても、境界線を見極めることができたのなら、自分の意思で怪異に遭遇することも回避することも可能なのかもしれません。
 本作中のお話の内容と似たような状況の読者の方がおられましたら、是非試してみてください。
「骸ヶ辻を極めた」という方はご連絡をお待ちしております。
 宜しくお願い致します。

「入れ替わる」

 森田さんの家には、祖母が残した古い万華鏡がある。
 幼少期からそれでよく遊び、退屈な時間をやり過ごしていた。

「一人っ子だったので、遊び相手がいなかったんです。だから、ずーっと覗き込んでいました」
 キラキラと絵柄が変わることが何よりも楽しかった。
 そして、森田さんに話し掛けてくれる声に耳を傾けていたという。
『今日の晩御飯はオムライスだって』
『今度の日曜日は水族館へ行くみたいだよ』
 予言めいた未来の話に、森田さんのわくわくは止まらない。
 次は何を話してくれるのかと楽しみにし続けた。

 ある日のこと、いつものように万華鏡を覗き込んでいた森田さんへ届く声質が低い物に変わっていた。
『帰ってきたお父さんに怒られるね』
『御飯を残したことで、お母さんからも怒られる』
 未来のことを伝えているのは変わらないが、楽しいことが一切感じられない。
「ねぇ、どうしたの?」
 万華鏡に問い掛けるが、それについての回答はなかった。
 そして帰宅した父親には、靴を揃えていなかったことで叱られ、夕食時には嫌いなピーマンを残していたことで母親にも叱られる。

「もう、嫌いになっちゃうよ。嫌なことばかり言うのなら、遊んであげないから」
 万華鏡を眺めながら森田さんは呟く。
『そんなことを言わないで』
『自分が悪いのに他人の所為にするなよ』
 二つの声がハモるように聞こえてきた。
 いつも彼女に届く声は、万華鏡の中を覗き込んでいるときにだけ聞こえていた。
 しかし今は外装を眺めている状態である。
 壊れたルールは森田さんを動揺させる。
『……守ってあげ……』
『怒られたくないのなら、少しは頭を使え。馬鹿でも頭を使うことはできるんだから』
 最初の優しい声は徐々に消えていく。その反面、きつい言葉は音量を増していった。

「その日からです。がらりと性格が変わって、しっかり者と言われるようになったのは」
 おっとりとした性格だった森田さんが、大人の顔色を窺うようになり、色々と考えてから行動に移すようになっていった。
 両親は男っぽい話し方をするようになった森田さんに最初は戸惑ったが、これも成長の一つだろうと受け入れるようになる。

「万華鏡はね、もう一人の自分とお話ができるの。だから婆ちゃん、大好きなのよ」
 生前、祖母が話していた台詞。
 森田さんはその意味が何となく分かるという。
 そして彼女は今でも万華鏡を覗き込んでいる。
 ただ、その内容を教えてはくれなかった。

―了―

◎著者紹介

服部義史 Yoshifumi Hattori 

北海道出身、恵庭市在住。幼少期にオカルトに触れ、その世界観に魅了される。全道の心霊スポット探訪、怪異歴訪家を経て、道内の心霊小冊子などで覆面ライターを務める。現地取材数はこれまでに8000件を超える。著書に『実話怪奇録 北の闇から』『蝦夷忌譚 北怪導』『恐怖実話 北怪道』、その他共著に「恐怖箱」テーマアンソロジーシリーズなど。

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