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北の怪談師がおくる怖い話シリーズ第3弾『北縁怪談 札幌魔界編』(匠平)著者コメント・試し読み・朗読動画

シリーズ第3弾!
札幌では怪異が蠢いている。心霊名所案内!

内容・あらすじ

西区:洋楽POPスターのポスターから悲鳴が
中央区:スタジオに隠されていた呪物!
南区:山で発見した死体の怪異
市郊外:墓を蹴り倒した報いが!
西区:事故物件を解体したら…
豊平区:マンション7階、窓外にいるもの

札幌在住。YouTubeやイベントで躍進中のプロ怪談師・匠平が地元を中心に縁深い人たちの怪異譚を聞き集めた実話怪談集。
・札幌市中央区にあるスタジオにはなんだか気味の悪い部屋があり、ある日…「知り合いのスタジオにて」
・白石区の家で鏡の中に肩越しに見えた見知らぬ女の姿の正体「それ怖くないやつ」
・西区にある現場で見た異様な光景「事故物件の解体」
・霊障に悩んでいた後輩を連れて霊媒師に会いにいった著者。そこで見たものは…「過保護」
・仏壇や神棚を他所へ移して実家を取り壊したら、みるみる長男が体調を崩し…「体調不良の原因」
――など怒涛の31編!

著者コメント

「今回の北縁怪談のサブタイトルは『札幌呪界編』か『札幌魔界編』どちらが良いですか?」
 執筆の最中に1番頭を悩ませた質問だ。
 これは困った…。まず最初に札幌呪界編は絶対にない。話題作品の呪◯廻戦に寄せてる気がしてならないし、怪談・オカルト業界に「呪物ブーム」がきていると個人的に思っているのだが、俺は呪物を持っていないし詳しくもない。更には呪界編ってサブタイトルが似合うほど呪いの話を収集出来ていない。
「札幌魔界編でお願いします。」
「わかりました。それではサブタイトルは札幌魔界編で話を進めます。」
 どうしよう…。冷静に考えたら札幌魔界編ってサブタイトルもハードル高くないか?
 そんな不安を抱えながら執筆を進めていくと不思議なもので「札幌魔界編」というサブタイトルが似合う一冊が完成していた。
 心地の良い魔界への第一歩を踏み出してみませんか?

試し読み

ススキノラフィラの前で

 北海道最大の歓楽街、札幌・すすきの。
 この場所を象徴するものが、すすきの交差点に二つある。
 一つは「ニッカウヰスキー」のひげのおじさんの看板。
 もう一つは「ススキノラフィラ」というデパートだ。
 一九七四年(昭和四十九年)に「札幌松坂屋」として開店し、その後「ヨークマツザカヤ」と改称。一九九四年(平成六年)には「ロビンソン百貨店」に改称し、二〇〇九年(平成二十一年)に「ススキノラフィラ」に改称。
 そして二〇二〇年(令和二年)、ついに閉店し、建物も解体されてしまったが、新た
 なラウンドマークとして大型商業施設の建設が進められている。
 そしてラフィラは、すすきのの象徴であったとともに、札幌では有名な心霊スポットでもあった。当時の状況を書いてみよう。

 ラフィラにはメインとなるエレベーターが四基ある。
 そのすべてが外からガラス張りで内部が見える状態になっているのだが、向かって一番左のエレベーターは、乗ることができないようになっている。
 どういうことかと言うと、建物内の一番左のエレベーターの扉があるべき場所がふさがれて、壁になっているのである。すべての階において同じ状態である。
つまり、メインエレベーターが四基あるのが外から確認できるのに、そのうちの一基は使用できない(存在しない)ことになっているのだ。
 なぜこんなことになってしまったのか、くだんのエレベーターについて諸説ある。

・ヨークマツザカヤ時代から施設内でずっと心霊現象が続いていて、その中でも一番左のエレベーター内で最も現象が起こると噂されていたので、その使用を中止した。
・ボタンを押していないのに六階と七階で頻繁ひんぱんにエレベーターが停まり、点検をしても故障している箇所を見つけることができず、事故が起きては困るということで使用を中止した。
・件のエレベーター内で髪の長い女の霊を見たという話が頻発し、噂になったため使用を中止した。

 他にもまだまだ噂はあるようだが、真相は謎のままである。
 そんなすすきのの象徴だったススキノラフィラの話を、金谷さんという男性から聞かせていただいた。

 現在二十八歳の金谷さんは北海道八雲町やくもちょう出身。高校卒業後に専門学校への入学をきっかけに札幌に出てきた。
 地元を離れ、東京とまでは言わないが都会である札幌に出てきて、これからはしばらくは右も左もわからないような生活に苦労することになるのだろうなと、金谷さんは覚悟をしていた。
 しかし、その予想は外れ、学校もアルバイトもすべてが楽しくて、あっという間に金谷さんは札幌での生活に馴染むことができた。
 そして二十歳になる頃、金谷さんに札幌初の彼女ができる。
 彼女は金谷さんと同い年で、高校を卒業後すぐに就職したのだが、その勤務先がススキノラフィラの中に入っていたのだ。
 彼女の仕事は大体夜の十時頃に終わる。
 その日はデートの約束をしていたので、その時間に合わせて金谷さんは「いつもの場所」で待っていた。
「いつもの場所」とはススキノラフィラ前のことである。
 ススキノラフィラの前は国道三十六号線で、歩道にはバス停がある。
 このバス停の近くにラフィラ内で働く人が使用する専用の玄関口があり、金谷さんその扉の近く、国道の方に体を向けて、彼女を待つのである。
 歓楽街の大きな交差点近くは、常にたくさんの人たちが行き交っている。
 仕事が終わった人、これから飲みに行く人、ナンパしている人、客引きの黒服、そんな黒服に捕まりに行く人、警察官などなど。
 札幌に来てすぐの頃は、街を歩いている人を見ているだけで楽しかったが、今はもう慣れてしまった。
 耳にイヤホンを突っ込み音楽を聴きながら、スマホでゲームをして時間を潰す。
 十時になると、金谷さんは彼女にメールを送った。
「仕事お疲れ様! いつもの場所にいるよ! のんびり待ってるから、ゆっくり支度しなよ!」
 メールが送信できたことを確認してから、金谷さんは再びゲームを始めた。
 数分後、壁に背をもたれかけている金谷さんの左側に、ふいに誰かが近づいてくる気配がした。
 彼女かな? と思って目を上げかけたが、視界の端に映る人影は大柄で、どうやら男性のようだ。
(この人も待ち合わせかな?)
 人通りも待ち合わせも多い場所だ。深く考えず、意識を再びスマホに向ける。
 だが、すぐに左側にいる男性が気になった。立っている場所が自分と距離が近すぎる。
 人はそれぞれにパーソナルスペースというものを持っていると思う。金谷さんの場合は大体半径一メートルくらいだという。あまり人見知りもしない性格のため、付き合いが浅い人がグッと踏み込んできても、そんなに不快に感じることはない。
 しかし今、自分の隣に立っている男性はやはり距離が近すぎるのだ。
 気付けば、多分三十センチも離れていない場所にいる。でも、距離が近いだけで特に何かをしてくるような気配もない。
(必要以上に気にすることもないか……)
 顔を上げて相手を見るのもはばかられ、待ち合わせをしている人も多い場所なのだからと自分に言い聞かせて金谷さんはゲームを続けるが、どうにも気になる。
(隣の人、だいぶ背が高いな。この距離だから横目で見られないけど、気配的に俺より頭ひとつはでかいかもしれない)
 身長が一七八センチある金谷さんは、自分よりだいぶ背が高いというような人に会う機会はあまりない。
 隣の男性を気にしないようにしようと考えていたが距離も近いし、自分より背が高い気配にも慣れず、ついつい男性のことを意識してしまう。
 すると、隣の男性がさらに自分に近づいてくる気配を感じた。
 感覚で言うなら、大人が子供の目線に合わせるために姿勢を屈めるような――。
 自分の顔の左上すぐに、男性の顔があるのがわかる。
(なんだ一体――)
 若干強張った体で、男性の側に背を向けようとしたその時。

「お前……気持ち悪いなぁ……」

 しゃがれた声質だった。決して大きくはなく、どちらかといえばささやくような声量だったがハッキリと聞こえた。
 ゆっくりと声がした方に顔を向けてみると、隣にいたと思われる男性はすでに金谷さんに背中を向け、すすきの駅の方に歩いて行った。
 黒っぽい背広を着た、身長二メートルはあるんじゃないかという、やけに背の高いせ型のシルエット。
(あの人なんなの? やっぱりすすきのは怖い人もいるな)
 男性がいなくなったことで少しずつ冷静になってきた金谷さんは、今の出来事を面白おかしく彼女に伝えようと頭の中で振り返っていた。
 そしてあることに気が付いた。
(俺、イヤホンつけてて、しかも爆音で音楽を流していたのに――なんであんなにハッキリと男の声が聞こえたんだ?)
 すぐに男性の歩いて行った方に再び目線をやるが、すでに大きな黒いシルエットはどこにもなかったそうだ。

 過去に僕はラフィラ付近の話で、金谷さんの体験談に限りなく近い話を聞いたことがある。
 あの周辺には背広姿のナニかがいるようなのだが、それはまた別の話だ。

―了―

朗読動画

4/26 18:00公開

著者プロフィール

匠平 (しょうへい)

北海道江別市生まれ。プロ怪談師。
地元の高校を卒業後、当初は専門学校を経て整体師として勤務するが、その後、札幌・すすきのにオープンした日本唯一の怪談ライブバー〈スリラーナイト〉に語り手として転職。現在はフリーの人気怪談師として、怪談最恐戦など各地のイベントにも多数参加。
著書に『北縁怪談』『北縁怪談 札幌編』『実話ホラー 闇夜の訪問者』『実話ホラー 幻夜の侵入者』。
YouTubeチャンネル「匠平のやりたいことやるチャンネル」配信中。札幌在住。

シリーズ好評既刊

北縁怪談
北縁怪談 札幌編


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