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日常が捻れて歪んで怪異が顔を出す実話恐怖譚『怪談奇聞 憑キ纏イ』(小田イ輔)著者コメント&自選1話試し読み

奇妙なテイストの中にじわりと怖気がにじり寄る怪異譚の数々!

怪談奇聞 憑キ纏イ(おびつき)

あらすじ・内容

ひとつの怪談を二人の怪談作家が綴る、初の試み!
同時発売『黒木魔奇録 魔女島』(黒木あるじ 著)にも収録

怪異を引き寄せる特異な作家・小田イ輔が綴る実話怪談集!
・母が入院した病室の天井から走り回る音が聞こえる…「足音
・彼女と部屋にいると、突然現れた黒い煙がウロウロして…「かわいそうな煙
・皿の上に髪の長い女の生首が乗っていて、お祖父ちゃんが何かを話している「そういう皿」など、奇妙なテイストの中にじわりと怖気がにじり寄る怪異譚の数々。

さらに、朋友である作家・黒木あるじを誘い、奇妙な体験をした男性を同時取材し執筆した「体は反応した」「人魂の子供」に加え、取材後に著者自身を見舞った恐怖体験談「悔しい初体験」を収録。

著者コメント

 つい先日、しこたま酒を飲み泥酔でいすいした挙句、気が付いたら町外れのバス停で横になっておりました。自宅で機嫌よく杯を重ね、途中でツマミでも買いにとコンビニへ向かったことまでは覚えているものの、そこから先の記憶が全くありません。
 家からバス停までの距離は七キロメートル程、千鳥足だったであろう自分が、どうしてそんな距離を歩いてしまったのか本当にわからず、怖いなと思いました。
 あの晩、なぜ自分は用も無いバス停になど辿り着いてしまったんでしょうか。そこに足を向ける何らかの理由があったのか、なかったのか、それすらも今の私には辿たどれないんです、自分のことなのに。
 酔っ払いによる馬鹿な行動そのものであるとは自覚した上で、ただこの体験、私の持っている「恐怖」や「怪談」みたいなものと割と近いところにあるような気がしております。
 そんな作者がまとめたものが本著です、スミマセン、何卒よろしくお願い致します。

著者自選・試し読み1話

たぶん金縛り

 その日、K君は通りに面したカフェで、人の流れを見ながらコーヒーを飲んでいた。
「特になんの予定もなく、ふらっと街に出たんです」
 行く当てもないので、なんとなくカフェに入った彼だったが、ぼんやりと外を眺めているうち、自分の体が全く動かなくなっていることに気付いた。
「あれ? つって、あせりましたよ」
 状況的に、完全に脳の病気だと思い慌てたと彼は言う。
「急に体が動かせなくなるなんて、脳以外ありえないじゃないですか? 俺は煙草も吸うし、酒も飲むし、油っこい食事も好きだしで、動脈硬化は進んでるだろうから」
 しかし、冷や汗は出るものの、特に具合が悪いわけでもない。
 脳の疾患であれば、吐き気や頭痛、意識の消失などが起こりそうなものだが、ない。
「体は動かせないですけど、それ以外の症状がないので」
 やや落ち着きを取り戻し、自分の状況を改めて分析しようと考え始めた時だったという。
「通りの奥まったところで、俺の方を見て突っ立っている人がいるんですよ」
 どうも、こちらの様子をうかがっている気配がある、というか間違いなく自分を見ている。
「で、一度気にし始めたら、視線を外せないんです、顔が動かせないので、どうしても視界に入ってきてしまう」
 向こうの人物は、ひょろっとした丸刈りの中年男性。
 何故か、ものすごい形相ぎょうそうでK君をにらみつけてくる。
「うわ、めっちゃ怖いと思って、ナニあの人って、また焦るわけですよ」
 体は依然硬直したまま、その上、思い切り睨みつけてくる人物の出現で、K君の許容量はいっぱいになってしまった。
「自然と涙が出てきました、だーっと」
 身じろぎもせず滂沱《ぼうだ》の涙を流す青年の姿は流石さすがに周囲の目を引いたのか、気付いた他の客が「大丈夫ですか?」と彼に声をかけてくれた。
「声かけながら肩を揺すってくれて、その直後に体が動くようになりました」
 涙はまだ止まらない、さっきは恐怖感から、今度は安心感から。
 あまりのことに腰砕けになり、うんうんうなずきながら「大丈夫です、ありがとうございます」と繰り返すのが精一杯。
「わけわかんないですよね、いや、話している俺もわけわかんないですよ」
 わけのわからない状況は、まだ続いた。
「店に居辛くなったので、体も動くようになったし、様子見て外に出たんです」
 すると、待ち構えていたように、さっきまで自分を睨み付けていた男が目の前に出た。
 動揺し、体を硬直させるK君へ、丸刈りの中年男は、
「やめて下さいよ! 街の中で、やめて下さいよ!」
甲高かんだかい声で叫ぶように言葉を吐き、そそくさとその場を立ち去った。
「もう何がなんだか、むしろ何だと思います? 今の話」

 もちろん私もサッパリわからないが、例えば金縛りが入眠時にだけ起こるものではなく、活動中の昼日中に起きた場合どうなるのだろうと考えていた時期があり、今回のK君の話を聞いて「あぁ、こういう感じかも」という感想は持った。

 丸刈りの中年男に関しては、金縛りに付随ふずいする悪夢のようなもの、と位置付けてみたい。

―了―

🎬人気怪談師が収録話を朗読!

https://youtu.be/Cqs8J2UzJo8

11/24 18時公開!

著者紹介

小田イ輔 (おだ・いすけ)

『FKB饗宴5』にてデビュー。『小田イ輔実話怪談自選集 魔穴』『FKB怪幽録 奇の穴』『FKB怪幽録 呪の穴』、「実話コレクション」シリーズ『厭怪談』『呪怪談』『忌怪談』『邪怪談』『憑怪談』、「怪談奇聞」シリーズ『祟リ食イ』『啜リ泣キ』『立チ腐レ』『嚙ミ狂イ』など。共著に「怪談四十九夜」「瞬殺怪談」各シリーズ、『奥羽怪談』『未成仏百物語』『黄泉つなぎ百物語』『FKB殲・百物語』『獄・百物語』『怪談五色 死相』など。近著に原作コミック『厭怪談 なにかがいる』(画・柏屋コッコ)。

シリーズ好評既刊

怪談奇聞 祟リ喰イ_81aHWgLLYkL

怪談奇聞 啜リ泣キ_61AU5ZCQWXL

怪談奇聞 立チ腐レ_71ivIu-0OvL

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小田イ輔実話怪談自選集魔穴

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