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小さな恋のメロディ

今年のある日、ぼへーっとラジオを聴いていると浅井健一の声が聞こえて来た。
あ、ラジオやっていたんだ。
そう思いながら何となく耳を傾けていると、想像通りの喋りやテンポと間に堪らずニヤニヤしてしまった。
聞いている内に昔のことを思い出して、ずっと思い出していなかったことに中学三年の帰り道があった。
夏前から夏休みになるまでのほんの数週間、僕を含めた五、六人でほぼ毎日下校していた。
それも女子も混じって、一番最初に別れる女の子の家の前でいつも一時間くらい立ち話をして帰るのが恒例だった。

今の僕がそんな場面に遭遇しようものなら
「中学生の男女不純異性謀議を発見セリ!」
と鼻息荒く『自家製折檻棒』を振り回して大股で近付き、蜘蛛の子を散らすように逃げる男女の様子を見てガハハ!と高笑いした翌日、また同じ光景に出くわしてヒソヒソと小馬鹿にされるのを想像しただけで顔を真っ赤にし、俯いてさっさと横を通り過ぎる所であるが、当時は男女で帰っていた。

理由は単純で、一緒に帰っていた仲のSさんという女の子と僕らのグループのDが同じクラスになり、仲良くなったからだ。
それ以上の理由として、Sさんは僕らのグループのFに恋をしていた。
Fはイケメンだったがシャイな性格で前へ前へ出るタイプではない上、恋愛ごとになると奥手も奥手で女子から迫られると「ヒィー!」っと白目をむいて天岩戸状態になることが多々あった。

そんなある日、Sさんが「ミッシェル・ガン・エレファントが良い」と興奮気味に言っていたので僕も大いに賛同した。確かチキン・ゾンビーズが発売になったばかりで、葬式帰りみたいな風貌のメンバーのメディア露出もあった時期だった。
けれど、その頃同じくらい僕はブランキー・ジェット・シティも好きだったのでSさんにブランキーの話題を振ってみた所、鼻で笑われてしまった。

「えーっ。私、あの声がキラーイ。ミッシェルの方が男らしくって好き~」

とか何とか言ってた挙句、話しの方向がズレてこの中で誰が一番男性フェロモンが多いかという話題になり、Sは自分で発した話題であったが案の定Fのことを「一番フェロモンを感じる」と言い、「たけちゃんって全然男性フェロモン感じないよね。女みたい」とまで言い放ち、全員から「あー確かに」とまで言われた後、一番のお調子者のUは

「たけちゃん将来オカマになってオトコと結婚すんじゃねーの!?ぎゃはははー!」

と今となってはコンプライアンス破壊そのもののような発言をされ、みんなに馬鹿にされたのであった。
内心Sさんに関しては

「何ぁにが「フェロモン」だこの色キチガイめが!!テメェは股座でしか物事を考えれられない「スキモン」だからな、将来ポンポコさんざガキでも作って経済的に苦労するんだな!」

と罵倒し、Uに対しては

「大体フィリピーナみてぇなツラのテメェはそもそも日本人かどうかも怪しいじゃねぇか!さっさと故郷へ帰って日本兵の骨拾いでもして少しは社会貢献しやがれスットコドッコイのクソったれめが!!」

と罵倒していたものの、顔には出さずに

「まぁねぇ、男とか女とかどっちでも良いけどねぇ」

なんて受け流しながらも、実はちゃんとショックを受けていたのであった。

なーんかムカツク。なーんかアイツらと帰りたくねぇなぁと思った僕はみんなと別れた後に一人でツタヤへ出向き、『小さな恋のメロディ』という映画をVHS(ブイ・エイチ・エス!!)で借りたのであった。
理由は至ってシンプルで、ブランキーの歌詞に出て来た映画だったからだ。
その日に限っては大好きだったミッシェルを聞きたい気持ちに何故かなれず、ブランキーにそっと救いを求めたおセンチボーイと化していたのだ。

映画はとても厳しい学校の小さな男女がみんなから祝福されながら、大人達には追い掛け回されながら結婚式を挙げるというものだった。
切ない映画ではなく、劇中に流れる音楽の柔らかさも相まって、少し笑えてとてもピュアな想いの詰まった暖かな映画だった。

小さな恋のメロディという映画を観たことがないなら早く観た方がいいぜ
僕の血はそいつでできてる
12才の細胞に流れ込んだまま まだ抜け切れちゃいない

映画を観終えた僕はベンジーが書いた「小さな恋のメロディ」の詞の意味がようやく理解出来た感じがして、なんだか泣きそうになってしまった。
そして誰かの幸せを力を合わせて叶えてあげたいと願う小さな登場人物達の想いや、ただ優しさだけが溢れている世界観だったり、「あんたは失格」と頼んでもいないのに烙印を押されたような帰り道や、ただ受け流すことしか出来なかった自分が全て綯い交ぜになって、正体不明の涙になった。

あぁ、なんで泣いているんだろう。
行く当てはないけど、ここには居たくない。
その気持ちは本当に分かる、分かるよベンジー!!

と叫びたい気持ちを押し殺しながら、ダニエルとメロディを乗せたトロッコは一体何処へ向かったのだろうとふと思ったりした。
行く当てなんてなくても二人は一緒にいるんだから、きっと大丈夫なんだろうな。
そんな風に思いながら、泣き疲れて寝たのであった。

最近になってブランキー・ジェット・シティはサブスク解禁となった。
「ロメオの心臓」を狂ったように聞き続けて、実はバイオレット・フィズが好きだったことを思い出したり、とても真っすぐで純粋な歌詞だなぁと改めて思ったり、こんな小さな昔話を思い出したりした次第です。
こうやって自分はおじいさんになって行くんだろうな、なんてことも感じたりしている冬の日でござんした。

冬は何を着ますか?
やっぱりセーターですかね。
ではでは。

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大枝 岳志
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