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バレンタインデーの(苦い)思ひ出

毎年この時期になるとバレンタインがやって来る。
やって来るとは言っても年齢を重ねる毎に独身者の僕にとっては疎遠になっていたイベントだった。

昨年は誰からもチョコレイトを貰えず、スーパーでトイレットペーパーを買って帰った記憶があり、noteにもありのまま投稿したと思う。

今年はというと、うへへ、うへへへへ、うはははは!

今の所は何の予定もないがティッシュペーパーが切れそうなので今年はティッシュを買って帰るイベントになりそうだ。

こんな僕でも一応昔はチョコレートを貰った記憶はある。
中学一年の頃は頭をマッシュルームカットにしていて、「マロン」というあだ名で呼ばれてチヤホヤされていたので文化部(しかも元無線クラブ)所属者としては異例の19個という記録を打ち立て、チョコレート欲しさに汗水垂らす運動部の連中を絶望の淵へ追いやった事もあった。
中学二年になると馬鹿なことばかりしていたので数は半減し、中学三年に至っては義理チョコを投げられるという顛末にまで堕ちに堕ちた。
ダークエンジェルになった僕は世間を逆恨みし、高校に入ると世の中への恨みを晴らすようにスィーツ工場でバイトするようになった。

「がはははは!こんな可愛い食い物を心汚き吾輩が作っているとは誰も思いやしまい!おいしくな〜れ〜!不幸にな〜れ〜!!」

と意気揚々とクリームを混ぜたり練ったり混ぜたりしていたもんだ。
なんと晴れやかな青春時代なんだろうと我ながら思う所ではある。

高校に入ると恋愛沙汰でなんちゃらナランチャという話があちこちから聞こえて来て、当然のように巻き添えを喰らった。

高校二年のバレンタイン。
僕が放課後一人でドラムを練習しているとYさんという大人しめの女の子が突然部室にやって来た。
しかもその手には明らかにバレンタインチョコレートの紙袋がぶら下がっていたのである。
これは告白タイムなのだろうか?と思いながら石原裕次郎のような顔でドラムを叩き始めるとYさんは叫んだ。

「うるさい! やめて!!」
「ちっ……止めるだなんて、あんた野暮だぜ。オイラに何の用だい?」
「このチョコレートを……F君に渡して欲しいの!!」
「ズコーーーーーッ!!」

とドラムスローンからずっこけてYOSHIKIのようにドラムセットへ突っ込んだ所で全てが判明した。
チョコレートは僕宛ではなく、当時僕のバンドメンバーだったベースのF君に渡して欲しいというものだった。
完全に予想が外れて意気消沈していた僕は

「真剣に渡したいなら自分で渡せばぁ?」

とクレヨンしんちゃんのようなやる気のない返事をすると、Yさんはキレた。

「女の子のセイシュンをなんだと思ってるの!?私はこわくて渡せないからこうやってお願いしてるのに少しは手伝ってくれたっていいじゃない!!それに大枝君は一緒にバンドやってるくらいなんだから仲良いでしょ!?」
「いや、プレイヤーだから一緒にやってるだけで仲良くないよ。家にも遊び行ったことないよ」
「だったら誰に頼めばいいのよ!?頭おかしいんじゃないの!?どうしてくれんのよ!!」
「し、知らないよぉ……」
「いいから渡してちょーだいね!!返事聞かせてね!!好きって言っといて!!」
「ええ……ええー?」
「校門で待ってるから!!じゃあね!!」

と無理やり手渡され、橋渡しをするハメになってしまった。
そんな事があったとは知らずに部室へやって来たF君に僕は頭をポリポリ掻きながらチョコレートを渡した。

「あ、あのう……」
「ゲッ!俺そっちの気はないよ……」
「違うんだよ、そのぉ、YさんがどうにもこうにもF君の事が好きらしく、これを渡してくれと頼まれたんだよね」
「へぇー、手作りかな?とりあえず食べるわ」

あ、中々悪くない感触だなぁと思いながらチョコを渡すと、その場でF君はいかにも手作り風なチョコを食べ始めた。
しかし、その数秒後に事件は起きた。

チョコをもぐもぐコンボしていたF君は突然

作画・つのだじろう

という様な悶絶した顔になり、「う"ぇえええええ」と呻きながら部室を飛び出し、水飲み場まで一気に走って行った。
そして口に入れた物を全て吐き出すとチョコの入っていた紙袋を思い切り蹴り飛ばし

「チョコに生爪入れるような女なんかと付き合えるかぁ!」

と盛大にブチ切れた。
僕は盛大に戦慄した。

あんな普段は大人しそうな女の子がチョコに生爪入れて告白するだなんて、普段どんな食生活を送っているのか気になった。それとも秩父ではチョコに生爪入れて食うのが当たり前なのだろうか?と訝しんだりもした。

とにかく悪寒を覚えながら校門へ行き、ポツンと立っていたYさんに僕はありのまま

「あのね、無理だって」

と告げると

「はぁ!?ふざけんなカスがよぉ💢伝えるにしても言い方ってもんがあんだろうがよ💢バカかテメェ💢死ね💢」

とこれまた盛大にガチギレされ、渡した橋は見事に崩落したのであった。

これ以降僕は人の橋渡しをするような事はしないように心に誓ったのである。

もうじき訪れる年に一度のバレンタインデー。
想いを伝えるのは是非、自分の口と言葉で直接伝える事を【強く】おススメします。

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