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足を捻挫したよ、というおはなし

いくらか前になるけれど、ガッツリ足を捻挫してしまった。
澄み渡る青空が気持ちの良い、雨上がりの朝だった。
ルンルン♪気分で外へ出てものの数秒後、事故が起きた。

「お空が晴れてて楽しいな♪ ルンルッほげえええええええ!」

と見事に階段で足を滑らせた拍子に足首を挫いてしまい、そのまま尻餅をつきながら階段を転げ落ちてしまったのだ。
ルンルン気分はたちまち不安の暗澹たる想いがもたらす漆黒のモヤモヤに覆われてしまい、たちまち破綻した「おはようお散歩計画」を携え、よろよろと階段を昇って部屋へ戻った。

過去、何度か足のトラブルに見舞われていた。
捻挫、骨折、蜂窩織炎、眠っている間に靭帯が伸び切って損傷……等。

痛風と切断以外の足のトラブルは大概経験しているので、足の痛み方から骨折まではいかないまでもコリャ徐々に痛くなるパターンだと判断し、すぐに冷凍パックと冷凍鯵でアイシングを始めた。

それから二時間ほどして腫れは全く出てはいなかったものの、少しでも動かせば「ヒィーーーー!」とのたうち回りたくなる程の痛みが走る。

おかげさまでオシッコへ行くことさえままならず、便所までの数メートルの距離がまるで「ガンバの大冒険」ほど苦難なものに思えて来る。
膝をつきながらハイハイの恰好で何とか便所の前まで行くのだが、そこにはやはりガンバの大ボスである「オロチ」が待ち受けていた。

我が家の大ボス「オロチ」とは崩壊寸前の安アパートであるが故のバリアフリーガン無視設計の、便所扉下のニ十センチに迫ろうかという段差のことだ。
普段であれば何の意識もせずに扉を開けて入れるものの、足が片方使い物にならず、わずかでも地面に触れたら「ヒィーーーー!」な状態では、これくらいの段差ですらまるでハクソー・リッジ。
気分はそり立つ壁を前にした山田氏と同様、こりゃイカンかもしれない……と汗を滲ませる。

なんとか踏ん張って白目を剥きながら段差に手を掛け、はあああああい!と気合を入れて段差をよじ登り、便器にしがみつき、オシッコではない別の物を出しそうになりながら便座に跨って女子スタイルで放尿を開始した。

すると、独身男性なので痛みに耐えながら必死にお便所にやって来て、便座に座っている自分をメタ認知してしまい、死にたくなる気分がやって来るのではあるが、「私にはプライドというものは存在しない!」と毅然と(矛盾である)死にたい気分を手で追い払いつつ、オシッコを何とか済ませたのであった。

オシッコを済まし、世界情勢を杞憂し、瞑想を終えると、なかなか引かない足の痛みが流石に心配になり、病院へ行くことにした。
家から三百メートルほど離れた場所に「ヤブ医者」と街の人々が呼び、ネットレビューが燃えすぎて最早消し炭と化している病院があるのだが、まずは足がつけない状態で、しかも松葉杖もある訳でもないし、どのようにして当の病院へ行こうか考えた。

タクシーを呼ぶにしても金が掛かる上、たったの三百メートル移動するだけで呼びつけるのも気が引けた。ドライバーにツーメーター分くらいの怒りのパンチを食らったら……と不安になり、仕方ないので靭帯損傷時に使用していた足首用のサポーターをつけ、「根性」で移動することにした。

根性で「痛くない痛くない」と五百回くらい呟きながら(根性という名の自己洗脳だ)病院まで移動し、ひと気の少ない待合室へ入るや否や、受付の年配女性がすっ飛んで来た。

「あら!どうしました!?」
「でへへ、オラ、足を挫いてしまっただ!」
「あららら!じゃあ、サポーターを取ってもらっていいですか?」
「わかっただ。今こんな感じになってるだ!」

サポーターをポロン、して露わになった足首であったが、根性移動後も見た目にはやはり腫れも熱もなかった。
ただし、足首を右に左にわずかでも動かせば「ヒィーーーー!」になるので、その状況も伝えると、受付は確信に満ちた表情で、こう言い放った。

「これは、骨折ね!」
「え!骨折ですか!?」
「SO!骨折!」
「あのぅ、腫れも熱もないんですけど、骨折ですか?」
「SOよ!そういうタイプの骨折よ!」

そういうタイプとは一体どんなタイプなのか、「やさしい人がタイプです」くらい意味不明であったものの、自信満々にそう言い切った受付は、さらに衝撃の事実を僕に伝えて来た。

「骨折だから、ウチでは診れません!」
「ほえ~?」

ポカン面となった僕は、しばし院内を見回してみた。すると真っ先に怪我などが専門であろう「整形外科」の文字がドン!と目に入る。次に、骨粗しょう症治療薬や予防検査の宣伝ポスター……どうやら間違えて内科に来てしまった訳でもなさそうである。

「ほえ~?なんで診れないんですかほえ??」
「間違いなく、骨折だからです!」
「骨折だと何で診れないんでほえ~?」
「ウチには、検査機械がありません!」
「ズコーーーーー!!!!」

じゃあ一体全体どうやったらテメェらは骨粗しょう症だの骨年齢だのの検査をやってるってんだい!まさか患者の骨をコツコツ叩いて、その音を聞いて、「うむふむ。これは骨年齢四十歳の音ですねぇ。バッチグーです。でも来年は死にます」なんてお医者さんごっこみたいな方法で検査してるってのかい!
正直言ったらどうなんだい!!きえええええええ!!

と思っていると、受付は続けた。

「なので〇〇病院なら機械があって骨折でも診てくれるから、そちらへ行ってください」
「そうですか。じゃあ、僕はこの病院からの紹介という形になって、いくらかは優先的に診てもらえるという寸法な訳ですね。こりゃ納得だ!」
「ううん、そういうのやってないの。だから勝手に行ってください」
「ズコーーーーー!!!!」

だったらおまえらは何が診れて何が出来るというのだ、ウゥオオオオオオオ!!
と心の中で絶叫しながら、〇〇病院の電話番号と営業時間が書かれたメモだけを受け取り、僕は医者に会う事すら出来ずに病院を出た。(ハナから医者がいなかったんじゃないかと、疑ってはいる)
なるほど、こりゃあんな消し炭レビューになる訳だと納得。

その後近くに接骨院があったことを思い出して行ってみると、アイシング処置を褒められ、図に乗って「ワハハ!〇〇の受付に「骨折」と言われたんですわぁ!」と報告すると、先生はあまりの患者へのお粗末な扱いに真顔でドン引きしていた。

筋肉が一時的に引っ張られているのですぐに痛みは治まると思いますよ~と電気を浴びつつ、ここでネチネチ「なんでエレキは、骨に効くのかなぁ?ねちゃあ~」と質問を繰り出し、良く分からなかったが納得の行く答えを得られたので満足して接骨院を後にした。

結果、その翌日の夜には痛みはありつつも足を着いて歩けるようになったし、さらに翌日になると痛みもスゥッと消え去ったので、エレキは凄いことがこの身をもって証明されたのである。
万が一でも次に足をやってしまった際は、真っ先に電柱に昇ろうと思っている。

捻挫とは言え家族や身寄りのない独居老人等にとっては買い物どころかトイレすらままならないし、命取りになるかもしれないと思うと真面目にちょっと怖いなぁと思った大枝なのでした。

まぁ最も、「あんたは骨折!」と医師免許もねぇであろう癖に完全に言い切って患者をおっ返す受付も怖えけどな!
まったく、トンだ骨折り損だったぜ。トホホ。

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