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ジョウ君のはなし

どうも。肌がじっとり汗ばむわん、嗚呼んッ……!!という季節になりましたね。

という事は……??

そうです!いよいよ皆さんお待ちかね

梅雨の季節の到来です!

乾かない洗濯物、鬱々とした空、蒸れる足、べたつく肌、セットの崩れる髪……etc
数えたらキリがないくらいの楽しみが待ってま……

なんだこのクソ記事はバカヤローー!!!!!!!
書いてられっかバカヤローーーーーーー!!!!

はい、どうも僕です。
梅雨は嫌よね、とても嫌。傘差すのがもう面倒くさくて嫌。早く全身雨除けスプレー出ないもんかしら。
窒息死しそうだけど。

湿気が苦手な物といえば紙。紙といえば印刷工場。印刷工場といえば派遣労働。派遣労働といえば奴隷天国。
という無理やりなルートで話を進めていきます。

その昔、派遣元の会社の大半がヤクザのシノギだったりしていた頃。
その頃は「日雇い派遣(今も形を変えて存在してるけど)」が合法だった。

明日暇だから小遣い稼ぎに行きたいなぁ、なんて時は前日に電話すればその日だけ働けたりと何かと便利だった。
僕も金に困った時とか(今でもしっかりと困ってるので募金お待ちしてます)ちょいちょい使わせてもらっていて、ある日の僕は県南にある印刷工場に派遣される事になった。

現場に派遣される人間は僕一人だけだったので、ガラケーアプリの地図を頼りに駅から三十分掛けてテクテクと工場へ向かった。

辿り着いた先はボロボロの二階建の印刷工場だった。
受け入れ担当は社長と名乗る人の良さげなおじいちゃんで、他にはパートらしきおばちゃんが数名いるだけだった。
社長は笑顔で僕を構内に招き入れた。

「あー!どうもどうも、来てもらっちゃって悪いねぇ」
「いえいえ。あの、今日は何をしたらいいですか?」
「実は働いてもらいたいのはこの工場じゃなくて、隣の工場なんだわ!あれ、あそこ、分かる?」

そう言っておじいちゃんが指差したのは、敷地内に建つ錆色トタン屋根の二階造りの掘っ立て小屋だった。
その辺のアパートよりもよっぽど小さい建物だったので、あんな建物の中に印刷機が入るのか?と思ってぼんやり眺めているとおじいちゃんが僕に言った。

「あのねぇ!あの二階に「ジョウ君」って若いコがいるから、彼にやる事聞いて教えてもらって!よろしくね!」
「ジョウさんですね、分かりました」

ジョウ、城って書くのかな?それとも中国系かな?
城って書いて「城君」だったらちょっとカッコイイ名前だなぁ、なんて思いながら掘っ立て小屋の階段をカンカン鳴らしながら駆け上がり、今にも外れそうなボロボロの小さな扉を開いた。

「どうもー!派遣で参りましたー!」

そんな事を言いながら中に入った瞬間、僕は絶句した。
埃の舞う小さな作業部屋。部屋の右側は服のボロ切れ、ペットボトル、雑誌のゴミが山積みになっていて、左側に小さな印刷機が置かれている。
そして部屋のど真ん中には机に腰掛け、バームクーヘンを食いながら2ℓのコーラを飲んでいるガタイの良い黒人が居た。

筋骨隆々の腕で封を開けてないバームクーヘンを僕に差し出した彼が一言。

「食ウ?」
「いや、いらないです……あの、ジョウさんは……?」

僕の問い掛けに彼は一切の表情を崩さず、自身の胸元に親指をグッと突き立てた。

「おいボウズ!よく見ろ、オレこそが本物のジョウだ!」

と言わんばかりだった。

つまり、おじいちゃんの言ってたジョウとは「城」ではなく……

J O E だ っ た  


僕はまさかの角度からやって来たローマ字に狭くて汚い作業場で卒倒しそうになりながらも何とか持ちこたえ、海兵隊のようなガタイのジョー君に作業の手ほどきを受けた。
作業は……

①箱から煙草キャンペーン用の冊子を取り出す。
②機械に置くと自動的に帯が巻かれ、吐き出される。
③箱に戻す。おしまい

ズコーーーーーーーーーー!!!!!!!!

というくらい簡単な作業だった。
ジョー君は身振り手振りで僕に教えてくれ、僕も身振り手振りで返していたので会話はもちろん発生しなかった。
まぁこれも世の中にある仕事の一つなんだね、と思いながら作業に取り掛かる。

ジョー君はきっとここでは「偉い人」というか、何か他の役割がある人なのだろうと思っていたのだが、僕が作業する隣で雑誌を読みながら延々とバームクーヘンを食っている。
一時間が経過しても尚、コーラを飲んで雑誌を読んでいるのだ。

ジョー君はコーラを飲み干すと、雑誌を読みながらノールックで空のペットボトルを背後に放り投げた。
ペットボトルは背後のゴミ山に無事着陸し、何故部屋の半分がゴミ山と化しているのかを理解したのであった。

とりあえず作業を続けたのだが、ジョー君は一切仕事をする素振りも見せずに雑誌を読み耽っていた。
お昼を過ぎると新しいバームクーヘンを食べ始め、読んでいる雑誌もファッション誌からバイク雑誌へと変わり始める。
 
ジョー君は一体、何をする人なんだろう……

そう思っているうちにだいぶ早く作業が終わった。

「次は何をすれば?」

僕がそう訊ねると、ジョー君はバイク雑誌に目を落としたまま

「アァー、オワリオワリ。シャチョー、キイテ」

と言ったので僕は掘っ立て小屋にジョー君を残して工場へ戻った。
工場へ戻るといつの間にか人が増えていて、ゼクシィサイズの印刷物が流れるレーンではガリガリの黒人三人組がヘロヘロになりながら働いていた。
ゼクシィサイズの雑誌はバケモノクラスに重たく、数冊重なるだけでも持ち上げるのに一苦労する。
彼ら一人あたりの身体サイズはジョーの三分の一くらいしか無かったし、ヘロるのも無理はなかった。

社長は僕をみるなりスッ飛んで来てこう叫んだ。

「ごめんねー!あと三十分だけ、あの三人組の手伝いしてもらっていいかな!?」

僕は心の中で叫んだ。

ジョーを呼ばんかい!!


と。

結局最後までジョーは姿を現すことは無く、その日の派遣労働が終わった。
いやいや、ジョー働けよ!って思ったし、ジジイはもっとジョーを使えよ!って思ったし、そう考えれば考えるほど何で呼ばれたのか分からない現場ではあった。 

今でも黙々と表情を崩す事なくバームクーヘンを食っているジョー君を思い出したりするけれど、実はバームクーヘンを食べながら死んだ黒人の呪縛霊だったんかなぁと思う時もある。

いやー、本当不思議な現場って沢山あるもんです。

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