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帰る途中

久しぶりに電車に揺られている。現在進行形で。
毎日電車には乗るけれど、仕事場は電車で一駅なので乗っている感覚なんてほぼないに等しい。
仕事場までは少し頑張れば歩いても行ける距離なのだが、面倒なので電車を使っているだけなのだ。

数十分という単位で電車に乗るのは元旦以来だ。
それも甥っ子のお年玉と親に土産を渡す為だけに帰った。玄関で渡して、家の中には上がらず仕舞い。
親父が肺を患っているのでコロナに罹らせる訳にはいかず、極限まで接触を控えていた。

先日もお話しした通り、親父が入院してしまったので家には母親しかいない。
上の妹が「私が泊まりに行くよ!」と言ったものの、泊まりに来る名目で子供を預け、飯を食ってゴロ寝を決め込むのが目に見えているので母親はそれを何とか避けたい。

そこで僕が呼ばれたのだ。

妹ガード的な役割を果たしに、二泊の予定で実家へ帰っている途中。
実家付近はお店すらまばらで、吐気がするほどの田舎だ。
有名なものといえば駅の名前が超難読というくらいだ。
分かる人はすぐ分かるかもしれないけど、調べた所で何の価値もない田舎であることに困惑するだけだろう。

「そこそこ田舎で育ってるし田舎好きなんだよね」なんて田舎をナメた地方都市連中がやって来ると必ず頭を抱えて顔を曇らせる。

駅前にコンビニなんてないのは当たり前。
バスもなけりゃ二つある出入り口の片方には自動販売機すらない。
無駄にお金を突っ込んでデカくした新しい駅だけが闇夜に煌々と輝き、若者はほぼ皆無なので夜に集まるのは酒に酔った不良外人達と、種類様々の虫だけである。

一般的に想像するような田舎。つまり、山も近いし田んぼもあるのだが、田舎好きが僕の実家付近へ来ると辟易としてしまう理由が実は他にある。

野山に囲まれた美しい場所ではなく、所狭しと住宅街が乱立しているのだ。それも七十年代に建てられた古びた住宅ばかり。
地元の不動産会社が

「池袋からたったの90分!!」

というイカれたキャッチコピーを掲げて土地開発をしたお陰で異常な景観になってしまったのだ。
ひどいもので、山を無理に削って住宅を建てたもんだから、激急斜面に耐えられなかった家屋達が台風の日に山から転がり落ちてしまったのだ。
僕が高校の頃の話だからもうしばらく昔の話になるけれど、親が離婚してから住み着いた街の景観に僕はちょっとゾッとしたのを覚えている。

店も無いし全く栄えていないのに家ばかり建ち並んでいて、それが闇夜にボンヤリ浮かんでいるのだ。
今思えば伊藤潤二の漫画の世界みたいだ。

元々生まれ育った土地ではないが、地元の友達は僕は好きだ。
まぁ今じゃ地元に住んでる奴は見事に一人もいないんだけれど。

本当に土地が可哀想になるほど、地元に愛着が湧かない。
帰る、となると何処か心がうんざりしてしまう自分がいる。

薄気味悪い街にもうそろそろ着くのだけれど、土地柄か風がいつも強く吹いている。
黒い風に揺れる古びたトタン、外国人が缶詰にされているアパート、駐車場がいつも小便の匂いを放っている平家の住宅、そんなものをまた感じるのだろう。

ガタンゴトン、と電車が揺れる。
ガタンゴトン、と山を抜けて。
ガタンゴトン、ガタンゴトン。

バケモノの悲鳴みたいなブレーキ音が聞こえて来て、もうすぐ僕は駅へ着こうとしている。

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