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1円にもならないプライド 【エッセイ】

近頃夏バテのせいか、それとも心霊映像の見過ぎが祟ったのか、体調がすこぶる悪く何も書けずにおりました。なんとかかんとか食べられるようになりましたが、横になっていても回る頭がないと文は書けないのだと痛感しております。

はい。今回はいつもの口上は控え目に本編突入。

かつて二十代、それも半ばを過ぎた頃に友人からとあるパーティーに誘われたことがあった。それは今や国の絶滅危惧種に指定されている「mixi」のパーティーで、東京近郊の人で集まってワイワイやりましょう的な立食パーチーという名の集団合コンだったのである。
友人二人はうまいこと女の子との出会いを果たしていた訳だけれど、僕は当時mixiで変な日記を書いていてカルト的な人気(白目)があったもんだから、二軍落ちみたいな男の子達にばかり囲まれてしまい女の子との出会いは愚か、言葉一つ交わすことなく終わってしまった。

そんなもんだったから後日改めてパーチーに単身で乗り込んでみたのだ。
はじめましての男女がワイワイわんさか集まっている場所なんだもの、流石の人見知りで声を掛けられるのをただジッと待つばかりのウツボ系男子の僕にもチャンスはやって来るだろうとタカを括っていたのである。

どっこい、実際に改めてパーチーに参加してみたらとんでもないことが起きていた。
パーチーは都内の某大きめの居酒屋を貸し切って行われていたのだが、開始早々、群馬の山奥から上京して来ました風の司会者兼DJが開口一番こう叫んだのだ。

「今日はリンゴ姫の生誕二十四周年だポーーーーーーーーゥ!!」

途端に巻き起こる拍手。ワーッ!という声。周りの男連中はそのリンゴ姫だか木の実ナナだかをチヤホヤ視しているようで、どうやら「はじめまして」の集まりではないことを僕はこの瞬間になって気付いてしまったのである。
そうなると借りて来た猫、いや、充電の切れたアイボくらい僕という人間は大人しくなってしまうのだった。

リンゴ姫とか言う馬鹿抜けた女は「ありがとー」なぞ手を振りつつ、お祝いの言葉のお返しにピッチャーに入ったリンゴジュースを注いで回るというパフォーマンスをおっ始める。
リンゴ女が「いつもありがとー」などと声を掛けると、男達はそれに合わせてグヘヘー、デレレー、ウヘヘーと、何やら楽し気な声を返す。
これは参ったなー、全然馴染めそうにないし、そもそもあのリンゴ女は一体何者なのだろう……この狭いコミュニティがまるで世界の中心みたいなツラしてるけど、女目的で何も知らずに来たなんて今更言えないしなぁ……と思ったものの、プライドばかりが馬鹿高い僕は周りに「あれはいったい何者なんですか?」の一言も聞けるはずもなく、ただ俯いて黙り込むばかりなのであった。

中には僕と同じような新参者もいたようであったのだが、ちょっと離れた場所で彼、彼女らは塊を形成しワイワイやり始める。
これは参った、完全に出遅れたなぁと思っていると、僕の所へリンゴ女がリンゴジュースを注ぎにやって来たのだ。

「はじめましてですよねー?mixiネームはなんて言うんですかぁ?」
「えっと……あの、ドス恋健康病と言いますけど……」
「えっ!?何て!?」
「はい、あの、僕はドス恋健康病です」
「はぁ!? 何その名前、こわっ!!」

前回のパーチ―では男の子達に囲まれ

「えっ!健康病さんって、本物ですか!?今朝見てましたよ!わー!」

なんてちょっとした芸能人気分を味わっていたもんだから、名前さえ言えば分かるかなぁと思ったのだが、僕の名前が通用するはずも無く、おまけにふざけ倒した名前だったので僕はその段になって焦りを感じ始めた。
胸元にはmixiネームを記したプレートをそれぞれつけていたのだが、並びがおかしいのである。

「ゆっぴー」
「にゃん吉」
「名人かわにし」
「あつひこ」
「ドス恋☆健康病」

すぐ周りだけ見回してみても、僕の名前だけ異物感が際立っていた。
しかもその頃の僕は宇宙の物理がどうたらとか、マイナーなインディーバンドや映画の話ばかり人としたがる非常に面倒なタイプだったので、

「セカチューのさぁ~」「百リットルの涙がねぇ」

なんて話が脇から聞こえて来るだけでジョッキで頭をブン殴りたくなってしまったりなどしていたのだ。

こうなるともう「こら合わないわ」と早々に諦めたら良かったものの、話し掛けられない癖に誰かと仲良くなろうと歩み寄ることもしないプライドの高さが自分の首を絞めつけ始めたのである。

人と関わるのが面倒ならそもそも来るなだし、合わないならとっとと帰れば良いのだ。

だけど、この時の僕は違ったのだ。

「なんで僕だけが女の子となかよぐ出来ないんだッ!!僕も女の子とながよぐしたいのにぃ!!」

と心の中で木綿のハンカチーフをグイイイイと噛み締めながら呪いを込めてキャッキャ!ウフフ!する周りの男女達を実にジロジロドロドロと、佐野史郎ばりに眺め倒していたのである。

そうなると結末はひとつ。

ワイワイやりましょうパーチーにやって来たものの、誰とも話せない輩は僕と同じように誰とも話せないオタク気質の寂しんぼオジサンに話し掛けられる。という展開に至るのである。

僕に「なんだか馴れ合いみたいな雰囲気で困りましたなぁ^_^」などと話し掛けて来たのは五十代の独身ハゲ頭で、胸元の「マジンガーなおゆき」というmixiネームからも分かる通り、筋金入りのオタクだった。

マジンガーは何の期待も裏切らずに僕にマジンガー話を延々とし続け、僕とパイルダーオンしたつもりなのか、水を得た魚のようにベチャクチャと喋り続けた。
話し相手がこんなのしか出来ない自分を恥じながらも、居場所が他にないので僕はマジンガーと居酒屋の隅で話し込んでしまった。
その流れで場所を移動し、二次会が始まった。

二次会は「男女ペアになっての卓球対決!!」

という身の毛もよだつ恐怖のイベントとなっていたのだが、当然僕と組みたがる相手はいないどころか

「あれ?参加者の方でした?」

などと群馬DJ司会者から他のグループ客に間違えられた挙句、結局誰とも組めずに余りもののマジンガーと男同士でシングル対決することになった。

そうなると当然のように僕らの対戦カードは最後に回され、大盛り上がりの卓球大会が始まったものの僕には居場所などある訳もなく、しかも周りからは参加者ではなく隣の卓球台で遊んでいる他のグループ客として認識されていた為、自分のシングル対決がやって来るのを卓球場を出たり入ったりしながらひたすら待つしかなかった。

煙草を十本くらい消費した所でようやく自分の番が回って来たのだが、その頃になるとみんなは次の「カラオケルーム」に移動していて、祭りの後の卓球会場に残ったのはマジンガーと僕、そして司会者の三人のみとなっていた。

司会者は余りカスの僕らの試合を見届けるのかと思いきや

「試合が終わったらカラオケルームに移動となってますんで。では」

などと言って白熱の試合になるかもしれない一戦の開始すら見届けず、そそくさと会場を出て行ってしまったのである。

そうなると一応ラケットは持ってみたものの、とてもじゃないけれど卓球なんてやるテンションには至らないのである。
心の中に松岡修造を100人くらい置いたとしても、至らないのだ。

「……どうしよっか?」

マジンガーのそのひと言は今の状況なのか、それとも今後の人生を含めての言葉なのかも分からず、僕はひたすら虚しい気分を抱っこしたまま

「帰ります」

と言って一人会場(風林会館)を後にした。

こうして僕は男女100人くらいが集まるイベントで女の子と知り合うことも出来ず、唯一交わした言葉がリンゴ女からの

「はぁ!? 何その名前、こわっ!!」

という物だったこともあり、恥ずかしさの余り心にお布団を被って一人とぼとぼ帰路に着いたのであった。

こんなこともあり、僕はその後の人生で一度もこの手のイベントには参加しなくなった。

今では話を聞いてくれるありがたい伴侶もいるので、この頃の自分は一体何をしていたのだろうとも思うし、クソの役にも立たないプライドが本当にクソほど高かったんだなぁと省みたりしたのです。

合わないものは何しても合わないし、そもそも楽しくない。なので、無理はしない。
それが大事!

マジンガー生きてるのかな。
とりあえず、ご無事と健康を祈ってます。

では、また。

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