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【小説】 爆弾目覚まし 【ショートショート】

 酒井商店とかいう、最近近所に出来た怪しげなリサイクル店で目覚まし時計を買った。
 買った、というか買わないとお店を出られそうもない雰囲気だったから買わざるを得なかった。だって、ガラクタばかりの狭い店内でキツネ面の店主がずーっと僕のことをニコニコ眺め続けていたものだから、何か買わないといけないかなぁって空気だったから……。

 買ったのは三百円の目覚まし時計だった。赤色で金のベルがついた、いわゆる普通の目覚まし時計。
 手書きのポップに「爆弾目覚まし」と書いてあったことが少し気になって、買ってみた。
 店主は冗談のつもりなのか

「目覚ましが鳴って十秒以内に起きないとね、爆発するんだよ」

 なんて言っていたけど、きっと大きな音が鳴るから「爆弾」なんだろう。

 僕は早起きするのがとにかく苦手で、しょっちゅう遅刻して上司に怒られてばかりいる。
 眠り病なんじゃないかってくらい寝るのがとにかく好きで、朝なんか特に布団から出たくない。どうして早起きしてまで仕事なんかしなくちゃいけないんだろう……と思うけど、食べて行くためには仕方ない。

 スマホのスヌーズでも起きない僕は爆弾目覚ましを頼りに早起きチャレンジを頑張ってみることにした。

 怪しげなリサイクル店だったけれど、買って良かったと翌日の朝には実感していた。
 使ってみると意外なほど僕はすんなり起きることが出来たのだ。
 アナログの音に耳が慣れていないのか、耳元で鳴る生のベル音に僕はすぐに叩き起こされたのだ。

 音量も想像していたよりは大きくなかったけれど、叩き起こされる感覚で起こされるのは寝坊助の僕にとってはとても有難かった。
 遅刻もしなくなったし、三百円で良い買い物をしたなぁと思っていたある日、上司から出張をしてくれとお願いされた。

「矢島ぁ、頼むよ。オレ、今週の土曜は娘の結婚式なんだわ」
「えええ………でも、僕なんかで良いんですか?」
「おう、問題ねぇって。だって、相手はうちとツーカーのお得意さんだからよ」
「だから良いんですか? って聞いたんですけど……」
「うちの社員だったら問題ねぇよ。何事も経験だ、経験! な!」

 ごり押しされた結果、僕は新幹線に乗っている。相手の企業はうちとは昔から取引を続けている会社で、大のお得意様だった。このたび担当が変わるので挨拶をしたいとのことだったけれど、相手から出向くと言っていたのをわざわざ断って、こちらから挨拶に行きますと上司が勝手に言い出したらしい。

 待ち合わせの時間は朝の十時。場所は相手企業の本社ロビー。 
 たかが数分の顔合わせのために出張だなんて、あぁ面倒だ……。
 と思ったけれど、挨拶するだけでいつものルーティンから解放されるのは良い気分だった。

 金曜の夕方前に仕事を切り上げ、新幹線に乗り込んだ。ホテルは会社が取ってくれていたから、僕は爆弾目覚ましと一緒に上野から北上した。
 居酒屋で牛タンと酒をしこたま堪能してからホテルに帰り、シャワーを浴びて泥のようにベッドに横たわる。
 朝の八時に目覚ましをセットし、テレビを点けたらそのまま眠り込んでしまった。

 知らない場所で眠りに就くと身体が落ち着かないのか、朝の七時にパッチリ目が覚めてしまった。
 二度寝をするほど眠気もやって来てなかったので、僕は早々に着替えを済ませて挨拶の前にこの街を散策してみることにした。
 外は朝からとても良い天気で早起きして良かったなぁと気分良く歩いていると、あることに気が付いた。
 目覚ましのセットを解除しないまま、ホテルを出てしまっていたのだった。

 スマホで時計を見ると時刻はちょうど八時手前だった。もうすぐ目覚ましが鳴り始める。隣室からクレームが入らないか不安になったけれど、ぶらぶら歩いていたらホテルから二十分も離れた場所まで来てしまっていたようだった。
 今さら戻ったところで間に合わないし、そろそろ戻ってフロントから何か言われたら素直に謝ることにしよう。

 あー、僕ってこんな所がやっぱり抜けてるんだよなぁと思いながらホテルへ歩いて戻っていると、顔全体に熱を感じた。
 それは太陽の熱よりも鋭角的で、肌に刺さるような感覚さえあった。

 一瞬のことだったので何事かと思うと、今度は歩いていた繁華街の景色ごと真っ白な閃光に包まれた。
 光はホテルの方向からだ、そう頭に過った次の瞬間。僕の身体は空を裂くような轟音と一緒に、街ごと吹き飛ばされた。

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