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【小説】 MOTHER 【ショートショート】

 僕たち兄弟の部屋の天井が拡張工事のおかげで高くなった。その分、照明も高くなったから手元に影が出来て、僕らはすぐに目を悪くした。
 母さんは生産性の向上のためにメンテナンスを受けて帰って来たけれど、それ以来絶好調のようだ。
  
 今日はまだ起動し始めてから二時間しか経っていないというのに、ダクトから二人も新しい弟が飛び出して来た。
 彼らも僕と同じように生まれてすぐに回収され、培養ベースにセットされてものの数日で僕らと同じようにラインに立って仕事をこなすようになる。
 ラインに立つことは、とても素晴らしいことだ。
 右から左へ流れ続ける栄養パックのコードをひたすら僕はスキャンし続けている。
 これこそが僕の生きる意味であり、命を追求し続けた人類の革命の証であり、すべての歓びだ。

「MO-D142ですが、生産性が落ちてます」
「そうか。ではMOTHERに戻す手配を頼んだ」
「はい。ただちに」

 僕は肩を掴まれ、ラインから離された。
 替わりにラインに立ったのは三日前に生まれたばかりの弟だ。
 残念だけど、今回の僕は失格のようだった。
 
 どこをどうすれば僕の効率は上がったのだろう。あ、弟達に気を取られてしまったのがロスの原因かもしれない。

「投入確認。ロスト、廃棄統合します」

 あまりにも母さんが頑張るから、少し気を取られてしまったんだ。
 でも、僕はもうすぐ母さんに会えるから落ち込むことはない。痛いのはほんの一瞬だもの。

「MOTHER、起動」

 冷たい板の上に載せられた僕の視界から、高くなった天井が消える。
 代わりに訪れた景色は赤くて狭くて暗い機械の通り道だ。ゴゥン、ゴゥン、とポンプが作動する音だけが響く通り道を冷たい板に載せられた僕は、自動で進んで行く。
 急停止して、視界が真っ暗になる。
 ポンプの作動音だけが響く機械の通り道に、甲高い信号音が耳を壊す勢いで鳴り響く。
 ガシャガシャと、アームが作動し始める。
 
 右腕が外れる。痛い。痛過ぎる。声を出す間もなく、次に左腕が外れる。両足も外されて、次に頭が外される。
 それぞれが別の通り道へ別れて、僕はほんの束の間、バラバラのめちゃくちゃになる。
 
 次の運命では、どうやったらもっと効率を上げられるのかもっと真剣に考えなければならない。
 僕の意識はもうすぐ途切れ、ほんの少しすれば培養ベースの景色の中で目を覚ますことになる。

 たまに思う。本当に少しだけ、こんなことを思うんだ。
 この世界の外側があるんじゃないかって、なんだかそんな感覚がするんだ。
 そう……そうだ、そうなんだ。この前もそう思いながら、僕はバラバラにされて、意識を失くして……。

 そうか、わかった! わかったぞ! 僕らの生きる場所、生きる世界はこの中だけじゃないんだ!
 あの高い天井を作った材料はどこから来たんだ? あの栄養パックは、どこへ行くんだ?
 みんなに教えなきゃ! なんで僕らはこんな簡単なことに気づ。
 

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