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ビッグブラザーを僕たちが見ている話

出版界における広告費

出版社におけるPR手段と言えば、一に新聞、二にテレビ、三四がなくて五に交通広告、という時代が長らく続いてきました。

ごめんなさい適当に言いました。

ただそれくらい出版業界での広告出稿はアナログな媒体が多い印象があります。

とはいえ世の中の広告費の流れとしてはインターネット広告費の成長が圧倒的。

弊社でも広告出稿のデジタルシフト志向が徐々に大きくなってきていて、理由は様々あるんですが一つには新聞広告だけでは若年層にリーチできないという問題があります。

上記事中の下の方にある新聞行為者率(世代別の経年動向)をみても2015年の段階で10代20代の新聞行為者率は10%を下回っており、この層にリーチをするには……という風に考えていくとインターネット広告が重要であるというには何も今に始まった話ではないわけです。

SNS広告の挑戦

賢ぶった前置きはこのあたりにして、弊社では今年度は某家政婦さんのレシピ本が大変好調で、我々マーケティングの部署でも更に売り伸ばしをするべく様々な施策を実施しています。

そのうちの一つが、冒頭からずっと言っているインターネット広告、とりわけSNS広告です。

今回のレシピムックは著者がテレビに出演するとリアル書店でもネット書店でも跳ねるという傾向があるので、出演のタイミングに合わせて施策を打つようにしています。

取っている戦略は主に二つ。

一つ目は予算をかけずにできるものです。

具体的にはテレビに出演した際に取り上げられたレシピの情報(何ページに載っているどのレシピが放送されたのか)と一緒に、ネット書店へのリンクを貼ったツイートを発信する。

同時にネット書店の書誌情報を「何月何日放送の○○に出た、◇◇のレシピが掲載!」などのようにテレビ放送に合わせた形に変える。

もう一つは有料の広告出稿。

具体的にはFacebookやTwitter、InstagramなどのSNSタイムラインに画像や動画の広告を表示させています。

掲載されたその日一日しか効果のない新聞広告と違い、SNS広告の場合は一週間から二週間といったようにある程度の期間ずっと配信されます。(そのため新聞広告は爆発力が、SNS広告は持続力がそれぞれの強みだと思っています)

一定期間ずっと配信をするので、最初に動画と画像で5パターンほどの広告を作っておいて、配信期間中に効果検証をしながらより反応のいい広告パターンを見つけて運用することができます。

効果検証で見えたクリックさせる条件

その効果検証の過程で分かってきたこと、SNSに出向する広告により反応させるための条件が二つ見えてきました。

その条件とは、「静止画で」「著者の顔が映っていること」です。

動画と静止画の広告を比べた際、静止画の方がクリック数が高いことが分かりました。これについては企業からのPRがタイムライン上に流れた際、動画を最後まで見る人はなかなかいないのではないか、という仮説を立てています。

また、画像や動画の1シーン目に著者の顔が映っているものと、料理の画像のみのものを比べるとクリック率は圧倒的に顔が入っているものの方が高くなりました。

料理のレシピ本のため訴求のメインに据えるのは料理の画像にするべきなのかと思いきや、流れていくタイムラインの中では人の顔の方が目を惹きやすいというのが理由だと考えられます。

このところ、YouTubeでラムダ研究所というチャンネルが面白くてずっと観ているのですが、少し前にこの方が興味深いことを仰っていました。


Youtubeの分析ツールを眺めていると、顔があるサムネイルのクリック率が圧倒的に高いことがわかりました。
あまりに綺麗に数値がでていたので喋りたくなりました!

やはり顔があるものの方が反応が良い傾向にあるということが分かります。

ラスベガスの広告の発展から考える人の顔の可能性

広告では顔が大事、という話に関連して最近読んだゲンロン発行の大山顕『新写真論 スマホと顔』の中にも面白い話がありました。

https://www.amazon.co.jp/dp/4907188358/ref=cm_sw_r_tw_dp_x_lo7TFbDCDREQ1

この書籍はスマホとの発展と普及によって写真というメディアがどのように変わっていくかを論じた大変にエキサイティングな本なのですが、広告と顔の関係を考えるときに思い出したのは「21 2017年10月1日、ラスベガスにて」という章です。

この章ではラスベガスで起こった銃撃事件の話から、砂漠の真ん中にあるカジノシティ・ラスベガスという奇妙な街の成り立ちについて言及されています。

`70年代ごろのラスベガスについては

ラスベガスのホテルやカジノの構造は、敷地の最も道路側に過剰に装飾されたサインが立ち、その後ろには広大な駐車場、そして道路からは見えない奥に特徴のない平凡な建物がぽつんとある、というものだ。(略)速度が上がると視覚だけが頼りになる。だからサイズが大きくなる。看板が連なるラスベガスの風景は自動車の速度に最適化されている。(略)この街の看板はアピールのすべてが集約された巨大な存在だ。(269p)

とある。そこから時代を経ると今度は

中世の城をイメージした「エクスカリバー」、ピラミッドとスフィンクスが鎮座する「ルクソール」、張りぼてのマンハッタンがひしめく「ニューヨークニューヨーク」、エッフェル塔がそびえる「パリス」。(略)建築の高さも高くなった。「引きはがされた立面」は、グロテスク一歩寸前、あるいは踏み越えたレベルまで濃縮されて、看板からふたたび建築物本体に戻ったのだ。(略)この変化は、ラスベガスがギャンブルの街から総合エンターテインメントの街へと様変わりし、ストリップを人が歩くようになったために起こったと思われる。(273p)

というように、ストリップと呼ばれるラスベガスの大通りを移動する手段が自動車から徒歩に変わったことにより、過剰に装飾された巨大な看板から、過剰に装飾された巨大な建物自体が広告の役割を果たすようになっていったと記述されています。

そして話は最近のラスベガスの建物へと移っていきます。

興味深いのは、二〇〇〇年代に開業したホテルやカジノの建築が今どきのふつうのビルである点だ。(略)九〇年代以降の造作における象徴性は失われたが、その代わりにこれらのビルはファサードと看板をディスプレイで埋め尽くしている。象徴性は建築デザインから映像コンテンツになったと言えるかもしれない。(276p)

なんと総合エンタメの中心・ラスベガスでも、アピールの方法は映像コンテンツに変わっていっているということが指摘されています。

最も興味深いのは以下の記述。この章は以下の文章で締められています。

造詣物による象徴性とディスプレイがせめぎ合う現在のラスベガスで、最も目を引くのは肖像写真である。多くの建築ファザードや看板に、巨大な顔が映し出されている。(略)今やラスベガスの象徴性は肖像写真に託されている。

なんとビルの正面に取り付けられている巨大なディスプレイに映し出されていたのは、人の顔だったのです。

初期ラスベガスのような看板や店舗の正面部分のことを、特に建築や小売りの業界では「ファサード」と呼んでいます。

「ファサード」とはフランス語で、英語では「face」にあたり、すなわち「顔」を意味しています。

店舗の「顔」である看板や象徴的な建築から、文字通り人の「顔」を掲げるようになったのは大変に意味深いですし、こうした傾向はSNS広告出稿での気付きとリンクしているような気がしました。

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