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「 虹色の ヤル気 」  どこにあるの?

未咲は、
清く、正しく、食欲旺盛な子。
牡蠣には、あたらなかったのに、
蟹に、あたったってしまった。

「マコトシヤ蟹」だったから。


マコトシヤ蟹は、
小さくて見えないけれど、
寝ている間に、耳の中に入って、
噂を、マコトシヤカニ囁き、
思い込みを感染させる蟹。

体に害はないけれど、
朝起きると、
「ヒトは皆、
そもそもやる気を持っている」と
マコトシヤカニ、信じる様になる。

純粋な子が感染すると、
混乱して自分を責めやすい。







蟹にあたってから、
未咲は、なかなか寝つけない。

みんなは、
生まれつきやる気があるのに、
自分は、やる気が弱い。

何か致命的な欠陥かもしれないと、
不安で眠れない。


感染が3ヶ月続いた、ある明け方、
やっと眠ると、妙な夢を見た。






未咲は、
「虹色のヤル気」を探して、
森の中を彷徨っている。

ナラやブナの木はあるけど、
どこを探しても
「虹色のヤル気」が見つからない。

どんどん森の奥へ入ってしまい、
だんだん視界が狭くなる。
もう、
帰れなくなるかも知れない・・・。


その時、西から風が吹いた。
すると、美咲の耳から、
小さなカニが出て行き、

同時に風の言葉が、
聞きとれる様になった。


「これ以上、森の奥へ入ってはダメ。
あなたも探しに来たの?
この森には、ときどき旅人が来るのよ、
みんな、「虹色のヤル気」を探して、
この森に入ってくるの」

「でも、なかなか見つけられないの、
旅人は、上ばかり見あげて、
「虹色のヤル気」を探しているから。
そして森の中を彷徨い続けるの」


「その人たちはどうなっちゃうの?」

「そこに枯葉がたくさん落ちているでしょ?」

「枯葉になっちゃうの?」

「あまりにも長い間、探し方を間違えて、
森を彷徨い続けると枯れちゃうの」

「わたしも枯葉になりそう・・・。」


風は言った

「ヤルキ」という木は、
そもそも無いの

「 えっ! 無いんですか! 」

ヤルキはね、

元々あるわけじゃ無くて、
後から生えてくる木なの



「でも、わたしの周りでは、
やる気は、元々誰にでもあるもんだっ!て」

「誰かがそう言ったの?」

「う〜ん、ハッキリ言ってたわけじゃ無いけれど、
そう振舞っているというか・・・。」



「気の子をたくさん食べなさい、
まことしやかな、マボロシが消えるから」


「あの大きなブナの木も、
向こうの個性的なナラの木も、
初めは「小さな気の子」だったの。

それを、誰かが関わり、取り組んで、
育てていったから、
あんなステキな木に、育っただけなの。


森のどこかに、
初めから立派な「虹色のヤル気」が、
あるわけじゃないの」






未咲は目を覚ました。
窓を開け、部屋に風を入れると、
小さな蟹が、そそくさと逃げて行った。

西側の庭に出てみると、
あちらこちらにキノコが、
小さな顔を出していた。

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