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dancyu日本酒特集の変遷に見る「日本酒の今」 日本酒マーケティング論考vol.3

こんにちは、日本酒ベンチャーHINEMOSの渡辺です。日本酒の勉強をしながら(日本酒を飲んだりしながら)noteを書くことが多いです。夜は大体こんな感じです。飲むことも勉強になると、20代の頃は思ってもみなかったなあ・・。

さて、先日こんなつぶやきをしました。

この日本酒の特集をしたdancyu15冊から学べることが多すぎて焦る日々ですが(気がつくとたくさん読み進めて明け方になってしまいそうなほど読み耽ってしまう)、ここは「特集」に注目して、dancyu読者、つまり食の関心が高い人たちの間で日本酒がどう伝えられていたのか、ということを追いかけてみたいと思います。

はじめに:dancyuは「今の日本酒」を伝えてくれる

前提ですが、2020年のdancyuも表紙は「いまの酒を知る 日本酒2020」と記載があります。ちなみに2019年も表紙に「この一冊で、今の日本酒がわかります」とありますし、2013年表紙は「新しい日本酒の教科書」とありますし、2007年表紙にも「2007年、いま一番”飲みたい酒”」とあります。

当たり前ですが、月刊紙は流行を伝える最前線。今トレンドの日本酒を伝える役目があるでしょうし、読者にそれが求められているのは理解できます。

ただ、時によっては今の日本酒にとどまらない、独自の目線で開拓した日本酒の提案をしているんですよね。それを時代の変遷と共に辿っていければと思います!

※都合上、2010年から2020年までを追いかけてみたいと思います。

2010年:日本酒絶好調宣言

「今こそ飲みたい銘柄、全部集めました」ということで、蔵元紀行として秋田、栃木、広島、佐賀の蔵元を巡ってこれを「酒の新・日本地図」と銘打っています。ここでは「米処=酒処」と言う日本酒業界のイメージを変えるべく、別の地域にフォーカスを当てて新しい日本酒シーンを提案しています。例えば、秋田であれば白瀑(しらたき)、新政、雪の茅舎。栃木であれば澤姫、仙禽。広島であれば宝剣、雨後の月。佐賀であれば鍋島、七田などなど。今でも大人気の日本酒ブランドが並んでいます。

その他の特集は「スター杜氏の家つまみ」として竹鶴や而今の杜氏が、家で何をつまみに飲んでいるかや、目利きと呼ばれる人が選ぶ「本音で飲んでる、家飲み酒」という特集があります。

絶好調、という言葉からも想像できるように、日本酒が盛り上がっているぞ!という気持ちを存分に発揮している特集ですね。

2011年:「日本酒よ、世界に誇れ」

「軽快な「酸」が決め手」「「酸」に、旨い食中酒の決め手あり」というように、「酸」を意識した蔵元が増えていること、それを理由に日本酒が食中酒として世界に認められるようになった・・というようなことが巻頭に記載されています。食中酒として日本酒が世界に認められるためには、酸をうまく生かした日本酒が必要で、それを目指している蔵元がいる・・という紹介です。その巻頭の言葉を枕に、醸し人九平次と貴の特集があり、今こそ飲みたい食中酒35選、と特集が続きます。

また、あのフレンチの巨匠アラン・デュカスが日本酒を作っていた(※中村酒造さんと)ことに触れ、その彼曰く「私の日本酒は、酸味こそすべてです」と言い切ったそうです。酸の味わいがある日本酒が注目を集めていること、それにより世界でも受け入れられていること。パリにあるレストランで日本酒が楽しまれている様子などを取材しています。

2012年:「無人島に、持って行きたい一本はどれですか?」

表紙のコピーは強烈ですが、内容は正統派。著名人たちにインタビューをして、なぜその日本酒を無人島に持っていく一本として選んだのかなどを理由を尋ねています。その著名人の中に、横綱の白鵬がいたりしてすごい。ちなみに白鵬が選んだのは「一ノ蔵 特別純米酒 大和伝」と「大七 極上生酛 特別本醸造」の2本と言うことです。
※横綱はたくさん飲むから2本選んだらしいですw

副題には「ちゃんと知りたい!日本酒Q&A」というのがあり、例えば「なぜ日本酒好きな人は一升瓶を買うのか」とか「酒と料理の相性を知りたい。どうやって合わせればいい」というような質問に答えています。前年までと比較すると、非常に日本酒初心者でも楽しく読めるようなそんな一冊に仕上がっています。

ただ、特集の作り方はベーシックなものですが「杜氏さんって、どんな仕事をしているの」なんていうように作り手に思いを馳せるような見え方があるのはとてもdancyuらしいなと思います。

2013年:「新しい日本酒の教科書」

教科書、と題を打つだけあって、網羅的に日本酒の魅力について語っています。前年は初心者がターゲットとわかりますが、これはある程度知識がある人が読んでも読み応えがある、まさに教科書。特集のはじめに「銘酒の系譜」ということで過去の歴史がわかる日本酒年表なるものがあり、教科書作りへの本気具合が伝わってきます。
※ちなみにこの内容も含む「日本酒」と言うMOOKが翌年に発刊されています。

日本酒蔵の探訪として「剣菱」と「獺祭」を訪れています。他にも「大吟醸ってなんだろう」とか「注目の若手蔵」など特集が続きます。ちなみに「注目の若手蔵」10があり、掲載されているのは下記の10蔵です。

写楽(寫樂)、白隠政宗、山和、紀土 KID、花巴、日輪田、亜麻猫、田中六五、ロ万、昇龍蓬莱

ちなみに・・・2013年からブックインブックで、切り離せるような方法で特集を組んでいるケースが散見されます。2013年の特集は、NHKのためしてガッテンのディレクターとコラボした企画で「脱「辛口の酒、ください!」のススメ」です。辛口酒をなんとなく頼んでしまう・・それでは好みの酒にたどり着けないから、別の言い方を考えよう!という趣旨で、いつの時代でも通用しそうな素敵な企画ですね・・!

2014年:「日本酒。」

2014年版の「いま飲みたい35蔵を考える」という新しい「日本酒の道標」という企画が巻頭です。ちなみに全国の酒販店さんと考えたとして、15名の酒販店の方の名前が一緒に掲載されています。企画の熱が伝わってきます。その中で、分類されたのは下記の5カテゴリ。

・モダン(十四代、醸し人九平次、而今、獺祭、飛露喜、鍋島など)
・トラディショナル(竹鶴、玉川、奥播磨、睡龍など)
・ローカル(いづみ橋、七本槍、秋鹿、喜久酔など)
・フォー・ザ・フード(貴、日高見、蒼空、伯楽星など)
・ネオクラシック(新政、昇龍蓬莱、三井の寿、仙禽など)

今でも有名な銘柄ばかり・・。ど真ん中から日本酒をとりあげ、その個性や特徴を追いかけています。

また、「なぜいま「新政」なのか」という新政の特集が6Pにも渡っています。ちなみに、新政の特集の中で「低精米歩合(90%)で個性があった酒を作る」と言うような内容があり、その話の後に「注目の精米歩合80%」という特集があったりするので、低精米の酒に非常に関心が湧いてくるような特集の仕掛けになっています。

ブックインブックでは、またまたためしてガッテンとのコラボで「脱「日本酒と刺身」のススメ」と言う特集。精米歩合23%の獺祭に合わせて、鯛、マグロの赤身、平目を食べてもらったら・・マグロだと酒が不味くなったみたいな実験結果を紹介して、料理とのペアリングをかなり深掘りしています。日本酒にある先入観を壊し、もっと日本酒美味しく味わおう、と言う意思を強く感じます。

2015年:日本酒クラシックス&日本酒ロックス

なんと、2号連続で日本酒の特集をしたdancyuです。2号目の「日本酒ロックス」の方の特集巻頭に

「2号連続の日本酒特集は、快挙か暴挙か酔狂か。その理由は、溢れる日本酒愛ゆえ。そう、溢れたのだ。日本酒愛が。だからの2号連続」

とその理由が書いてあります。溢れる気持ちは誌面からひしひしと伝わってきます・・!2015年2月号では「生酛を語る」がメイン特集ということで、生酛製法にまつわる企画だけで誌面が30P以上割かれています。雑誌の1/6が生酛。その中で仙禽や京の春、遊穂などの酒蔵を訊ねています。

2015年3月号では情熱を感じる巻頭特集、出雲の「王祿」から始まります。白黒で写真が切り取られ、男臭い熱気が香るそんなページの後に「軽くてポップで本格派 12.13.14度の日本酒」のように、低アルコールの日本酒を軽快旨口として紹介。紹介されているのは新政、風の森、雨後の月、澤屋まつもと、残草蓬莱・・・。

それ以外にも、企画として「日本酒の味は、米の味なのか」ということで酒米をおむすびにして食べたり、アルコールを添加した日本酒の是非を問う「本醸造「パンクな主張」」というコーナーがあったり、東京農業大学醸造科学科を取材したり・・。かなり多面的に日本酒を切り取っています。

2016年:「今回は、お燗」

2016年はお燗の特集です。燗酒と私、という著名人のインタビューやお燗番がいる名店の紹介、燗酒の歴史、燗酒にして美味しい日本酒を探せ、なぜ温めると旨くなるのか?など・・。燗酒の知識が一気に深まる一冊です。

その中でも、酒蔵からは「燗酒の話をしよう」ということで白隠正宗、日輪田、タクシードライバーを作る酒蔵へのインタビューは作りの時点から燗酒へのこだわりを語るようなもので、ほかではなかなか読めないインタビューで面白いです。他にも「なぜ温めると旨くなる?」と言う特集で15Pが割かれていたり、徳利を作る陶芸家に取材をしたりと、お燗を特集するとなったらとことん深ぼると言うdancyuらしさがかなり滲み出ている特集です。

2017年:「愛のある日本酒がほしい。」

日本酒特集は愛がテーマ。この号の特徴は、登場する103本の日本酒に全て掲載番号がのっていること。そしてその番号に対応するような形でインデックスがのっているのです。これは確かに、飲みたい!と思った酒や、いつか購入しよう!と言う酒を覚えるのには優しい作りの雑誌で・・愛がありますね。笑特集された酒蔵は「仁井田本家」。「にいだしぜんしゅ」が有名な、自然酒を作っている酒蔵です。愛が特集、と言う時にふさわしい・・。

それ以外にも「料理人が飲み比べて魚とあう日本酒を19本選ぶ」だったり「肉にあう日本酒」を紹介したりと、食事のお供としての日本酒の顔が目立つ企画が多いです。そういった企画とは対比的に「日本酒を、香りで選んじゃだめですか?」という特集も組まれています。
※補足すると、派手な香りの吟醸酒がブームになった際に、日本酒の香りが料理の邪魔をする・・・ということで、吟醸酒を批判するようなきらいがあったようで、それと向き合いどう組み合わせると良いのか、を考える特集です。ペアリングをする人にはとても意義のある特集ですね・・!

ちなみに、愛のある食堂がある、ということで秋田県の永楽食堂が取材されていました。壁のメニュー見るだけで、日本酒好きな人はもう脳液が出そうですね。すごい

2018年:いまさらですが、何を飲めばいいんですか?日本酒

今ほど多彩な日本酒が揃い、自在に選べる時代はありません。
(略)
ビギナーさんは「何を飲んだらいいかわからない」
ベテランさんも「種類が多くなりすぎて、もう追えない」
そんな声をよく聞くようになりました。
そこで今回の日本酒特集では、さまざまな方向からお酒選びのヒントを探ってみました。

と巻頭に書いてあります。ベテランも初心者もみんなを巻き込んだ企画ですね。ちなみに巻頭で特集されているのは加茂錦酒造の荷札酒。

スタンダードとムーブメントで日本酒がわかる!と言う基礎知識の特集の他に「歴史をつくってきた15本」と言う日本酒クロニクル、と言う特集が秀逸です。その15本は下記です。どれも日本酒好きなら知っている15本・・・!

菊正宗(灘の生一本 灘が酒がナショナルブランドになった時代)
越乃寒梅(第一次地酒ブームを牽引)
田酒(第二次地酒ブームを牽引)
出羽桜(吟醸酒ブーム 日本酒が「フルーティー」になった)
久保田(バブルの人気 淡麗辛口の象徴)
ーーーーー
STANDARD
黒龍、神亀、醸し人九平次、王祿、伯楽星
MOVEMENT(※日本酒の可能性を大きく広げるもの)
十四代(蔵元杜氏が作る豊潤旨口)、飛露喜(無濾過生原酒)、獺祭(スパークリング日本酒)、亜麻猫(新政・白麹でキュートな酸を作り出す)、風の森(独特のピチピチ感がある進化した日本酒)

その後「本気のスパークリング」というまさにムーブメントとなっている人気の日本酒スパークリングの特集があったり、家飲みの悦びとしてレンチンも含めて肯定する「ゆる燗」でいこう、という特集もあります。

外で酒を飲んでもいいし、家で酒を飲んでもいい。時代を作ってきた日本酒紹介する。幅広く酒飲みに対応してくれて、まさに「今、何を飲んだらいい」に答えてくれる一冊です。

2019年:日本酒2019

dancyuが毎年冬に日本酒特集を組むようになって20年を記念した一冊。あらためて現在の酒蔵の姿を知りたいということで、日本の全ての酒蔵にアンケートを送り、729蔵からお返事をもらった内容をベースに特集が作られています。こんなアンケートできるのは国税庁レベルでは・・。

「感動の蔵」として挙げられているのは下記の5蔵。

玉櫻、土田、春心、磯自慢、江戸開城

それ以外にも注目の酒として「酵母無添加の生酛12本」「白麹の酒12本」「スパークリング日本酒19本」「リアル地酒 普通酒25本」というように、とにかく具体的な銘柄をたくさん紹介してくれる酒飲みに嬉しい一冊です。

ちなみにこの2019年、酒蔵アンケートの内容が729蔵分全て公開されているのにdancyuの本気を感じます・・・めちゃくちゃ勉強というかためになります。例えば、新政を作っている佐藤酒蔵のアンケート回答内容をみて、杜氏の方はまだ29歳(雑誌掲載時)とか恐ろしいな・・・とか思ったり。業界関係者の方が読むとよりリアリティ持ってわかるアンケート内容です。

2020年:いまの酒を知る日本酒2020

まさに今書店に並んでいるものですので、ぜひ手にとって見ていただきたいですが・・「いまの酒」として古い製法と新しい製法が入り混じる「奈良の酒」を巻頭で特集。蔵元が集まって皆で菩提酛を仕込む絵面が斬新です。また、効率を無視して酒造りに徹する「みむろ杉」と四季醸造でフレッシュな生原酒を通年で出荷する「風の森」も特集されています。

思わず家で冷やしておいた、風の森を開けてしまいましたよ・・笑

風の森のフレッシュでピチピチ感の秘訣はここにも・・!

その他、磨かない酒、低アル原酒、食べて飲める酒、という特集が続きます。この2020年に限って言えば「いまの酒を知る特集」ですが、ある程度日本酒の知識がある方に向けた特集になっています。最初の特集から「菩提酛」という言葉が出てくるあたり初心者はちょっとはてなになってしまいますよね・・。ただ、日本酒ファンにはたまらない一冊です。

まとめられないまとめ

さて、10年分を一気に見てきました・・相当に(日本酒の知識で)お腹一杯になったかと思います。

dancyuの歴史を私が語るのもおこがましいのですが、これだけ特集をみると、dancyuが時代の空気を読み取り時には初心者に向けて、時には日本酒ファンに向けて「今の日本酒」を伝え続けてくれていることがわかります。日本酒業界に足を踏み入れた人間としてもはや感謝しかない・・・。dancyuが日本酒特集をしてはや20年以上とは今回調べてみて初めて知りました。

日本酒業界に携わる自分としては、日本酒は「初心者にはわかりにくいもの」であるが、「日本酒を詳しく知りたい!」と思う人はいつの時代にもいるので、それをわかりやすく伝えていくのは関係者の務めでもあると強く感じました。

全国の書店のいい位置を確保し続けているdancyuの影響力は大きいですが、それぞれの酒蔵が上記の消費者のニーズに答え続けていたら、きっと日本酒の消費シーンが広がっていき、未来の日本酒シーンが照らされるのではないかと信じて、業務に携わっていきたいと思います。頑張る。

この記事は以上です!少しでも皆様のお役に立てれば幸いです。

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