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ワクワクする方へ進め

医療デザイン Key Person Interview
秋葉原スキンクリニック 院長 堀内 祐紀

医師というよりもファッションモデルのようなポートレート写真、そして絶やすことない満開の笑顔が堀内祐紀のチャームポイント。医学生時代に出産を経験し、子育てのために皮膚科を選んだ。そして自身や女性スタッフの子どもたちが伸び伸び育つ環境を作りたいと、31歳の若さでクリニック開業の道を選ぶ。

常に自分がワクワクする道を選んできた。それでいて自分本位ではない優しさで患者さんやスタッフに接し、医療や社会の未来を見据えている。堀内には何が見えているのか、独自の世界観を聞く。


子育てのために皮膚科を選び、早くに開業

東京女子医科大学の在学中に子どもを授かり、出産を経験。子育てをしやすい環境づくりのために皮膚科を選んだという。以来、堀内の医師としてのキャリアは子育て、家族とともにあったと言っても過言ではない。

20年前は、女性にとって働くことと育児を両立するのが今以上に難しかったであろう。

ーー皮膚科医を選んだ理由は何でしたか。

「最初は外科を考えていましたが、出勤が早くて保育園の預かり時間が合わないので諦めました。一方で皮膚科には緊急手術が基本なくて計画が立てやすいです。仕事を続けている女性の先輩たちが多かったので、働きやすいだろうと。

また、患者さんの年齢層が幅広く、手術だけでなく内科的なアプローチも必要なところが面白いと思ったんですね。皮膚は外から見えるので、治り具合が分かりやすいのも私の性格に合っていたと思います。」

ーー幼い子どもを育てながら医師として勤務するのは大変だったのでは。

「私は卒業後2年で離婚を経験したんです。しかも近くに親がいなかったので頼れません。ベビーシッターや大学の後輩にアルバイトを頼んだり、勤務先の病院に子どもを連れて行ったりしていましたね。息子にとっては控え室で本を読んだりテレビを観たり、医師や看護師のお姉さんたちと遊んだりして、病院を遊び場として育った感じでした。だから『子育ては存分に他人の力を借りるべし!』というのが私の結論です。」

秋葉原スキンクリニックのロゴマーク

ーー結果的に若くして開業したのは、自身や他のスタッフに向けた子育て支援の意味もあったとか。

「そうですね。自分自身もたくさんの方々に助けてもらったので、私と同じように子育てと仕事を両立したいママさんスタッフが、子どもと一緒に出勤できる仕事場を作りたいと思いました。開業時は、スタッフ全員の子どもが一緒に出勤して、それぞれが面倒を見ていたこともあります。今はフロアもスタッフも増えて、バックアップの体制も作りました。無理しない、働き方を模索してきましたからね。」

「秋葉原スキンクリニック」は、子どもたちに負けじと成長していく。

秋葉原スキンクリニックの受付


病院嫌いだったから笑顔あふれる職場を作った

秋葉原スキンクリニックでは、美容皮膚科の自由診療と、保険診療をフロア別に行っている。保険診療だけに依存したくないというのは開業時からの堀内の狙いでもあった。

ーー皮膚科というと保険診療と自由診療の両方あると思うのですが、開業当初から2本立てだったのですか?

「そうですね。皮膚科の専門医を持っているドクターばかりなので、保険診療を中心にしつつも、収益を保険医療システムだけに依存したくなかったので、徐々に美容診療の内容を増やしてきました。保険診療をきっかけに美容にリピートで来てくれる患者さんも増えてきましたね。」

「私自身が子どものころから病院が嫌いだったのに、大人になったら仕事場に選んでしまった(笑)。記憶にある病院は、汚くて狭くてなんかみすぼらしかったんですね。なので、とにかく私たちにも、患者さんにも楽しい場所にする。内装やパンフレットひとつとっても、単にキレイとかおしゃれなだけではなくて、笑顔があふれるものにしたいのです。それに、美容皮膚科の観点からも笑顔になって口角をあげることが、たるみの予防にもつながるんです(笑)。」

秋葉原スキンクリニックでの施術

ーー少しずつ診療の幅を広げてきたんですね。

「診療だけじゃないですよ。笑顔があふれるためならなんでもあり(笑)。医療者の知識や経験を生かしていろんな仕事に挑戦していきたいと思っています。

私は服飾が好きなので、スクラブ(医師や看護師が着るユニフォームのこと)をデザインしてこの春から販売も始めました。かわいいでしょう?

肌によいホコリが立ちにくいタオルを作ったり、肌におすすめのオリジナルのサプリメントも企画して、販売しているんです。」

堀内 祐紀先生がプロデュースしたオリジナルの白衣

ーーとても自由な発想です。医療の枠におさまらないですね。

「そうです。おさまらなくていいじゃないですか。

このスクラブも肌触りなど全然違うんですよ。いいものは、いい。で、もっと価値のあるものを世に提供して、社会全体の給料も上げたい。使い捨てのファッションではなく、いいものを着て、いいものを食べることは、働き手も患者さんもベストなコンディションづくりにつながります。社会全体にいいインパクトを与えられたらカッコいいですよね。」

堀内の話は、気づかぬうちに生活や社会の話にまで突き抜けていた。

ちょっと不思議な皮膚科医 堀内祐紀によるアパレルブランドCoHAC.CLOTHES
動きやすい、ストレスレスなパターンにこだわった白衣やスクラブを販売。
あなたの毎日に心地よさをお届けするメディカルアパレルブランド。


出ない杭は打たれない!壁は登らなくていい!

常識にまったくとらわれず、堀内は独自の道を歩む。「道がない?じゃあ作ればいいよ」という言葉を力まずに発する。そのルーツはどこにあるのだろうか。

ーー先生の話を聴いていると「出る杭は打たれる」という話を思い出します。結構、叩かれた経験もあったのではありませんか。

「うーん……。思い出せないんですよね。挫折、失敗、なかったことはないけれど、全部忘れてしまう。嫌なことを覚えていても仕方ないし。

『出過ぎた杭は打たれない』とも言いますよね。私なんか逆のタイプで、下に下に埋もれていって『もう見えないし、叩けない』みたいな独自の方向を考えます(笑)。出るつもりもないし、出なくたって構わない。自分が行きたい方向があったらそっちへ行けばいいですね。

『壁』も登らなくていいですよ。登ろうとするから、つらいのです。壁なんて無視するか、破壊すればいいです。そう考えると、無視も破壊もできなかった子どもの頃のマラソン大会が一番つらかったですね…。」

ーー一番つらかったのは子どもの頃のマラソン大会(笑)。急にそんなところに話を展開する堀内先生の思考は柔軟ですね!

幼稚園年長のときの堀内祐紀先生。当時の身長は138cm。

「でも、今の若い人の方が柔軟でうらやましくも思います。私ももっと面白くありたいですね。ただし、こう見えて、人としてのモラル、礼儀作法にはうるさいです。例えば約束を守るとか、相手のことをちゃんと思いやっているかとか、そういう気持ち。結局、人はひとりでは生きていけませんよね。相手を傷つけないとか、自分本位で行動しないことは大事ですね。」

常に口調は穏やか。でも笑顔が弾けたり、少し真顔になったり。堀内の言葉によれば「人生は山も谷もない毎日の積み重ね」。だから面白さも、真剣さの「オンオフ」も堀内にとっては、わざわざ使い分けるものではなく、すべて連続しているのかもしれない。

秋葉原スキンクリニック 15周年のオリジナルマグカップ。
< 15周年 → 15 → いちご → 苺 >


医療をもっと面白くしたい

「いつも笑っていたい」と何度も語る堀内。現在の医療にももっと面白くする努力が必要だと言う。

「たとえば海外の学会はもっとラフで、スーツも着ていないし、みんなよく笑うんですよ。講師の話も上手で、真面目な内容なのにとにかく面白いんです。日本だとみんな黒いスーツで下を向いていて、いかにも『お勉強』ですよね。もっと笑いにあふれた空間にしたら、学びも深まると思うし、前向きな内容になると思います。」

日本医療デザインセンターでは月1回、堀内たちデザイン経営会員を参加対象とした地域医療デザインフォーラム(ウェビナー)をオンラインで開催している。その内容に衝撃を受けたという。

ーー代表理事の桑畑さんに誘われて参加したウェビナーはどうでしたか?

「面白かったですね…。とくにビックリしたのは、日本テレビの土屋さん(「電波少年」など人気番組を多数手がけた人気プロデューサー)が来たことですね、だって、お笑いの神様みたいな人でしょう。しかも限られた会員だけが参加して自由に質問もできる。こんなキャスティングはありえないですよ。そこがとてもいいなと思います。」

第3回 地域医療デザインフォーラム:TVプロデューサー土屋敏男さん登場!! 病院やクリニックでも応用できる!魅力的なコンテンツのつくり方

ーー日本医療デザインセンターにはどんなイメージを持っていますか?

「桑畑さんがいい意味でクレイジーなので、団体のイメージも同じです。同じ場所に留まっていたくない、自分の進みたい方向に進む、とにかく目の前の人とのつながりを大切にしているところも素敵だと思いますよ。」

ーーなんだか最後のくだりは、どなたかにそっくりですね。

「そうそう、私と同じですよね(笑)。みんなでもっと医療を、社会を面白くしていきましょうよ! そんな気持ちです。」

すべてを前向きに明るく変えていく。「北風と太陽」の太陽のような力強さだ。「とにかく明るい」がベースにあって、力強く動じないマインド、柔軟性やユニークさに加えて、人として医師としての真面目さをあわせ持つ堀内。彼女の歩いた後ろには、どんどん道ができていく。


取材後記

圧倒的な笑顔、そしてユニークな人柄に魅了され続けました。言葉の端々にそんな考え方もあったのかと驚くことも。自由気ままに生きていると公言しつつ、すべて自分本位ではなく、患者やスタッフ、医療の未来を考えている姿、そしてとにかく圧倒的な行動量がすごい方です。いろいろな意味で圧倒されました。
(聞き手:医療デザインライター・藤原友亮)

日本医療デザインセンター桑畑より

堀内先生との出会いは日本医療デザインセンター設立よりも前まで遡ります。「この先生は只者ではない」というのはひと目で分かりましたが、関われば関わるほど、“堀内祐紀” という人の底知れぬ魅力に魅了されます、魅了されっぱなしです。
皮膚科医としての素晴らしい実績と、院長としてクリニックを拡大し続けている手腕はもちろんのこと、その根底にあるのは物事をユニークに捉えることができる発想力と、それを真剣かつ楽しく実践できるバイタリティなんじゃないかと思っています。
お会いするたびに、なんとも表現し難いすごい刺激をいただいています。堀内先生の周りには、いつも素敵な人たちが集まってきます。自分もそのうちの一人に加えていただいていることに感謝です。
既に、開業医として十分な成功を収めたと言っても過言ではない堀内先生ですが、これから何を(良い意味で)しでかすのか楽しみでなりません。僕も必死についていきます!

堀内 祐紀さん プロフィール

秋葉原スキンクリニック 院長
日本皮膚科学会認定皮膚科専門医 日本脱毛医学会 理事

2001年、東京女子医科大学医学部医学科を卒業して東京女子医科大学病院や都内の皮膚科・美容クリニックでの勤務を経て、2007年に「秋葉原スキンクリニック」を開設した。
現在は専門医10名が所属する皮膚科に特化したクリニックとして保険診療から美容治療まで幅広く対応。「医療機関はこうあるべき」という固定観念を取り除くため、日々、面白い物や人を探している。


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