マガジンのカバー画像

編輯長殿

15
『日本経済新聞』『ファイナンシャル・タイムズ』など、日経メディア記事関連の投書。日本経済新聞社のオピニオンマガジン『日経COMEMO』https://comemo.nikkei.… もっと読む
運営しているクリエイター

記事一覧

マルクス主義への免疫薄れる日本社会

私は35歳であり、レオ・ルイスのコラムによれば「世界の先進国における初めての成長未経験世代」に属するらしい。だが、「脱成長」の哲学が日本で本当に理解されているかどうか、かなり疑わしい(11月7日付「『脱成長』──マルクス主義が現代に蘇る」)。 日本は、資本主義国かつ先進国でありながら、共産主義政党が活潑に活動している稀有な国である。今年は、その日本共産党が成立してからちょうど100年になる。 だが、党が開いた100周年の記念講演において、1950年代に自ら惹き起こした殺人

コンテストなんかやる前に……

レオ・ルイス及び稲垣佳奈両特派員による、18日付『ファイナンシャル・タイムズ』の記事「Japan’s latest alcohol advice: please drink more」にあった、国税庁の酒類の需要喚起に向けた提案を募るコンテスト「サケビバ!」は、見当違いである。というのも、現行の日本の税制は公正な競争を阻害しているからだ。 日本の酒税体系は歪な構造となっている。ビールの酒税がアルコール度数の割に高く設定されているのである。一方、高級品であるはずのワインの税額

『ファイナンシャル・タイムズ』に投書が掲載されました

本日付の『ファイナンシャル・タイムズ(FT)』に投書が掲載されました。 吉野家元役員の発言問題について、「カワイイ」文化が企業イメージの隠れ蓑になっているとする同紙記事に関連して、「可愛らしさ」は想定される読者像によって創出される点から、男女間の非対称性と企業活動の欺瞞性とを指摘した内容です。 投書は『FT』電子版でもご覧いただけます(会員限定)。 この問題の背景と詳細を解説した記事を「note」に掲載しています。

吉野家騒動が暴いた「粉飾の文化」

早稲田大学での講座で、若年層の女性を対象にしたマーケティング手法を指して「生娘をシャブ漬けにする戦略」などと発言したとして、吉野家常務の伊東正明が解任された。 この発言は何が問題だろうか。女性蔑視か。薬物の譬え話か。企業の社会的責任の欠如か。それとも、人権の軽視か。 たしかに間違いではないのだろうが、これらだけなら一般によくある失言の一つであろう。だが、発言者の属性を改めて見てみると、筆者にはより深刻な事態が見過ごされているように思えてならない。 マーケティング業界の本

現状の野党で政権交代は危険

一橋大学教授の中北浩爾による政権交代の実現性に関する検討が、11月11日付『日本経済新聞』のコラムに掲載されていたが、日本での自民対非自民と諸外国の与野党との構図の違いが混同されているように見受けられる。 そもそも日本の政治モデルは、政権交代が一般的な他国とは事情が異なり、同列に語ることはできない。 自民党は二大政党の結合体自民党は、今の岸田派(宏池会)などが属する旧自由党系と、本日安倍派となった清和政策研究会などが属する旧日本民主党系との勢力に二分される。前者は吉田茂に

「Twitter」のラベルは論文の註と同じ

『ウィキペディア』の記事の中で、もし自分が書いた箇所に「要出典」のタグが付けられたら、あなたはどうするだろうか。たいていの執筆者は、自分の書いた内容が確かであるという自信があるなら、定評のある書籍や論文などを選んで出典を追記しようとするであろう。ふてくされて「言論の自由を抑圧している」「黙殺しようとしている」と反撥する者も中にはいるだろうが、そんな言いがかりに読者が付き合うはずはない。ところが、目下それを地でいっているのが、ほかでもない北米合衆国の現職大統領なのである。 今

春入学か秋入学かではなく、両方やればいい

感染症による一斉休校が長期化するにつれ、大学の入学時期を秋にずらそうという気運が高まってきた。 秋入学が一般的な欧米に合わせれば、留学の促進につながるという利点がある一方、関係法令の改正や会計年度の見直しをどうするのかといった点が指摘されている。 大学の国際化に寄与する秋入学移行には確かにメリットがある。しかし、議論の発端に立ち返るなら、それは根本的な解決策といえるだろうか。将来もし再び一斉休校を余儀なくされるような事態が起きたとき、また入学時期をずらすというのでは、単な

全人代に何を期待できるのか

今朝の『日本経済新聞』朝刊の社説を見て驚いた。 『日経』論説委員は本気でこう考えているのだろうか。本当のことを知らないか、惰性で適当に書いたかのどちらかだろう。 日本では立法機関と紹介されることの多い中国の全国人民代表大会(全人代)だが、実態はラバースタンプである。ラバースタンプとはゴム印、つまり議案の中身を精査せず、形式的に次々と承認していく様子を揶揄する言葉である。 その証拠に、全人代の代表者は共産党の下部組織により間接的に選出されている。当然国民の意思が介入する余

米国の保護主義的政策は中国勢力を一時停滞させるだけ

12月12日付『ファイナンシャル・タイムズ』の社説「世界はテクノロジー冷戦に警戒せよ」にあるインターネット空間分裂のくだりは、あるドイツ人の忠告を私に想起させるものであった。それは、ドイツのジャーナリスト、ウォルフ・シェンケが1938年に『地政学雑誌』(“Zeitschrift für Geopolitik”)に発表した論文「武器としての空間」(‘Der Raum als Waffe’)の中で、当時中国との戦争で泥沼に嵌まっていた日本に対して、中国は広大な空間によって生き延び

日銀の敗北宣言になりかねない物価目標の変更

日銀の金融政策は限界に近づいているのではないか──そう思わせるニュースが飛び込んできた。 国際通貨基金(IMF)の専務理事クリスタリナ・ゲオルギエバが、『日本経済新聞』などとのインタビューで、日銀の物価目標を現在の2パーセントから、幅を持たせたものに変更するよう提言した。 日銀は現在毎年2パーセントずつの物価上昇を目標に掲げている。年2パーセントの上昇率というのは人類の経験則から導き出された値で、これによって企業の業績と個人の賃金が上がり、持続的な経済成長が見込めるという

言葉の「誤用」は大罪である。ずれを正す謙虚さを持とう

これは黙って見過ごすわけにはいかない。 言葉に関するネットの情報に、たまたま聞きかじった辞書の定義を絶対視しているきらいがあるのは確かである。辞書によって定義が異なることもあるし、辞書の用例自体が誤っていることもある。要するに、辞書にはそれぞれ編者の価値観が反映されるものであるから、それを「唯一無二の正解」と決めつけるのは、確かに狭量な態度であるといえるだろう。 だが、以下の記述は明らかに一線を越えている。 そしてこの後に、誤用が多数派の例を挙げながら、リアルな使い方だ

もしUberのサブスクリプションが日本に上陸したら

Uberがサブスクリプションのサービスを始めるとのこと。何でも、月およそ3,000円ほどの料金で配車が利用できるのだとか。 もしこれが日本でも利用できるようになれば、電車やバスから多くの利用者がなだれ込んでくるかもしれない。何度も交通機関を乗り継ぐ必要はないから、移動中の疲れも軽減される。特に月数千円という料金は魅力的だ。交通費が自己負担である派遣社員にとっては朗報だろう。が、いいことずくめではない。 問題は何と言っても渋滞である。以下の記事によれば、米国では既にUber

安全対策は青天井

福島原発事故に関する刑事裁判で、今日東京電力旧経営陣3人に無罪が言い渡された。当然の判決である。 争点となっていた、津波対策の必要性を指摘したという元幹部の供述調書については、「会議で報告したのではなく、資料を配付しただけ」だというし、また国が出した「長期評価」ついても、当時は参考程度の情報と見なされ、「原発の安全対策を考えるのにあたって取り入れるべき知見だという評価を受けていたわけではない」のだから、これで原発を止めろという方が無理だろう。 筆者は現在製造業に勤めている

テレワークを実施できる環境はもう整っている

断言するが、事務職がわざわざ職場に出頭する必要性は何一つない。 災害時の通勤難民が話題になる度に、つくづくそう思う。 事務仕事というものは、基本的にPCが一台あればできるものである。通信網も今や全国津々浦々に張り巡らされているのだから、一箇所に留まって作業しなければならない理由はどこにもないのである。 ウィルスなどのマルウェアが心配であれば、システム部門がセキュリティー対策を施したPCを貸与すればいい。文書をPDFにまとめておき、印刷や複製に制限をかければ、自宅で印刷し