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米国の保護主義的政策は中国勢力を一時停滞させるだけ

12月12日付『ファイナンシャル・タイムズ』の社説「世界はテクノロジー冷戦に警戒せよ」にあるインターネット空間分裂のくだりは、あるドイツ人の忠告を私に想起させるものであった。それは、ドイツのジャーナリスト、ウォルフ・シェンケが1938年に『地政学雑誌』(“Zeitschrift für Geopolitik”)に発表した論文「武器としての空間」(‘Der Raum als Waffe’)の中で、当時中国との戦争で泥沼に嵌まっていた日本に対して、中国は広大な空間によって生き延びるであろうから、和平を考えるのが賢明である、と述べたものである。事実彼の忠告通り、中国は追い込まれながらも自らの空間によって持ちこたえ、日本は大敗北を喫した。

武器としての空間は、何も戦場に限ったものではない。確かに今日のテクノロジーは世界を覆う複雑なサプライチェーンの上に成り立っている。だが、その崩壊によって影響を被るのは、国土や資源に限りがある我が日本やヨーロッパ、その他の国であって、中国ではない。中国も自由貿易の恩恵に与っているうちは無傷でいられないのかもしれないが、広大な空間と厖大な人口という利点を活かして独自の供給網を築くことが可能だ。したがって、ドナルド・トランプの保護主義的な政策は、中国の勢力を一時停滞させる以外に効果はないだろう。

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