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詩376 暮れる秋が聞かせた声

自分が本当にいたい
と思うところへ向かって
私は数々の「今日」を歩いてきたのでしょうか。
煩わしい言葉を耳元でささやかれたら
瞬時に私の冷静さが奪われる。
夕刻は青空を橙色に染めながら
しとやかな紫色にぼかしてもゆく。
不急の足取りのなかで
低木に成っている赤い実を発見した。
手に取ると分かる艶やかなその実は
日中に手の噴いた脂を弾くかの如く皮が照っている。
この身に起こる出来事は
悉く私と私の周囲とを惑わせ
明日あしたを見難い日に紛らわす。
人類に嘗て罪を見出した救世主は
大勢の心理に大変革をもたらすほどの大事業を
その生涯の内にし切ったのか。
魅了させるために演じよう
との意気込みは
カメラを前にしたモデルを眺めると
忽ち面倒に思えてくる。
野路のぢを歩くと声が聞こえる ────
風にそよぎ喜ぶススキと
背高セイタカ泡立草アワダチソウの声が。
人類はリンゴの実を口にしたときから
地球上で何にも増して汚れてきたのか。
小さなチーサナその声を聞くに足る力は
他でもない神が授けたもので
私固有の力ではない。
あらゆる悲しみはやがて浄められてゆく。
数々の「今日」の上につづく道のりは目には見えない。
けれども全細胞の祭りの喧騒のウラにあるのが
確かにココにある“今”だ。
沈む夕陽の前に浮かぶ黒いシルエット:
一瞬で魅了してみせようと奮った対象とは
正反対の
聖水を掻き乱す沈殿物。
生きようと勇む赤ん坊の泣き声は
夕刻を閉じた夜風のなかへ希望のくずを散りばめる。
「どうか、悲しまないで」
切望かと思われる精霊の声は
日中の感情的肉体労働に香ばしい意味を与えてくれる。
私の周囲が笑っている映像をば撮ろう………
冷え込む夜間に改心した途端
冬の肌の温もりが待ち遠しくなった

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