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詩379 海の心臓

海の心臓の表皮に浮かぶ小舟
ざぁざぁざぁ
漂う
プチャプチャプチャ
揺蕩たゆた

とめどなく上下する天と地が
世界の始まりと終わりとを掻き混ぜる

いろどり豊かな夏の星々を
ミキサーに掛けて振り散らすと
カラフルな魔法が大気に溶け出す

* * * * * * * * * *

じわっと沁みてくる
拠り所は要らない
という幸せ
髪を乾かすあいだとか
起きたあとに顔を洗う間とか
家を発って外を歩く間とか
前触れのない湧き水みたいに

小波が叩いた心の勝手口………
スピリチュアルな仕草は熱さをまとう。
真っ青な帆を駆けるワクワクが
大滝を火照らせ
クリーミーな世界こそ現実のすべてだと論じないのは
自然な構えを
大いにひょうする

* * * * * * * * * *

来る日も来る日も
指と手と腕とを
がむしゃらに
無心に動かすのは
誰の体で
誰の心か。
規則的に
ときに
情愛的に動かしながら
誰の為か
とも考えがち

記憶に残る日常の場面一つひとつが
生き様を形にする肥やしになる、
そう気付けば降り注ぐ
宇宙の恵み

命は形になり得るというのに
あらゆる営みを包む海は
どの形にも収まらない

厳しさ
辛さ
前提の揺らぎつづける世界に住む者は
向こうにいるようで
実は
ココにいる

胸と背とで感じる幸せが
いつも唐突で儚く切ないのはナゼ

何にも頼らないという決意を忍ばせ
しかるに頼ることで安心のなかを泳いでいる

人々が夜の海に食物連鎖の果てを見たとすれば
星々を巡る生死しょうじに情が湧こう。
巻貝の鼓動が焼け焦げて
視野を塗り潰す土壺どつぼ
はまぐりに喰われた挙句
乳の吸い方を忘れてゆく

* * * * * * * * * *

窮屈さに忙殺されることにはもう慣れた

* * * * * * * * * *

暗くて何も見えないまま
灯台を探す為に手を伸ばす。
腕が拡がり
指先がピンとなる。
誰かの為でなく
長く伸ばすは
自分の為

砂山に手を突っ込む。
感じる心臓の温もり
じわっ
ドクッドクッ

浜辺で拾う錆びた硬貨が
ゴミに替わって海をよごす。
労を打ち破りたい衝動を与える杖は
残忍な方途で性を
日毎に海を狭めてゆく

天にとっての不都合を洗い流して更地を産み出す父・海
多種の命を育む温床として血をいだく母・海

* * * * * * * * * *

祈りが先行く望みこそ
闇の終わり

争いを終えよ。
貧しさを終えよ。
病を終えよ

星の欠片が
絵の具の幻術げんじゅつを醸して
長大な一枚の表皮が
海と大気とを隔てている

平和を欲せよ。
幸せを欲せよ。
喜びを欲せよ

小舟を漕ぎゆく営みは
自然を
血を
命を
孕んだ祈り

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