片割れの桃で かんぱい。
桃は種に当たるまで切れ目を入れて びんのフタを開けるようにまわすと種に沿って二つに分かれるよ。
この桃のむきかたを教えてくれたのは父だった。きれいに半分に分かれた桃をまた一つにくっつけて 「かんぱい」なんてことをやった。
どちらかというと「合体」だろうと思うけれど 子どもは一度くらいは「かんぱい」にハマるのだ。
◇
先日 父から桃をもらった。豊洲ドットコムで良い桃を買ったからとおすそ分けをしてくれた。
さっそく 娘と立派な箱に入っている桃をワクワクしながら取り出して、良い香りのする 黄色がかった白に ほんのりと紅をさした丸くて可愛らしい果物に包丁を刺し入れた。「びんのフタを開けるようにまわすと きれいに桃が分かれるんだよ」と私も娘に教えた。
しかし豊洲ドットコムで買った この桃は上等すぎたのか、種がとても小さくて上手く切れ目を入れられず 回すようにひねることが出来なかった。
少し実がつぶれて 果汁がしたたる。桃の香りがあたりに立ち込めて 私は一気に子どものころに戻ってしまい 泣きそうになった。
◇
父には もうすぐ子どもが生まれる。私にとっては異母弟妹にあたる。
私は もう大人で、父とは たくさんの乾杯をしてきたと思う。成人して会うときは いつも飲み屋で、先ずはビールで乾杯した。
娘が生まれてから飲み屋で飲むことはなくなったけれど アイスコーヒーなんかで お疲れ〜と言いながら軽く乾杯、自然な流れで 数えることもないほどの。
もうおとなだから、娘に桃のむきかたを教えられるし、異母弟妹のことを喜んでいるし、面白がっているし、楽しみでもあるし、父の将来をちょっぴり心配だってしている。(子どもが成人するころには80過ぎだ)
でも。
桃の香りは私をあっという間に子どもに引き戻し 子どもの私は泣きそうになっている。父に教えてもらった むきかたで上手に出来なくて。父と私は もう桃で「かんぱい」をすることはないのだろうと寂しがっている。
娘と桃で「かんぱい」する。娘は笑い私も笑う。「続いていく」とは こういうことをいうのだろうか、なんて思う。
私は 子どもの私を置きざりにしているのだろうか?
子どもの私は片割れの桃を持って泣いているのか。私は見えないふりをして 子どもの私を閉じ込めているのだろうか。
◇
父は きっと異母弟妹とも「かんぱい」をするだろう。私も彼(彼女)とするかもしれない。家族になれるといいけれど 離れて暮らしているから どんな関係になれるかは分からない。それでも きっと「かんぱい」くらいは出来る。
私は片割れの桃を持ったままかもしれないけれど。いつになるかどこになるか分からないけれど。
また「かんぱい」しようよ。
つけヒゲに憧れているのでつけヒゲ資金に充てたいです。購入の暁には最高のつけヒゲ写真を撮る所存です。