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片割れの桃で かんぱい。

桃は種に当たるまで切れ目を入れて びんのフタを開けるようにまわすと種に沿って二つに分かれるよ。

この桃のむきかたを教えてくれたのは父だった。きれいに半分に分かれた桃をまた一つにくっつけて 「かんぱい」なんてことをやった。

どちらかというと「合体」だろうと思うけれど 子どもは一度くらいは「かんぱい」にハマるのだ。

先日 父から桃をもらった。豊洲ドットコムで良い桃を買ったからとおすそ分けをしてくれた。

さっそく 娘と立派な箱に入っている桃をワクワクしながら取り出して、良い香りのする 黄色がかった白に ほんのりと紅をさした丸くて可愛らしい果物に包丁を刺し入れた。「びんのフタを開けるようにまわすと きれいに桃が分かれるんだよ」と私も娘に教えた。

しかし豊洲ドットコムで買った この桃は上等すぎたのか、種がとても小さくて上手く切れ目を入れられず 回すようにひねることが出来なかった。

少し実がつぶれて 果汁がしたたる。桃の香りがあたりに立ち込めて 私は一気に子どものころに戻ってしまい 泣きそうになった。

父には もうすぐ子どもが生まれる。私にとっては異母弟妹にあたる。

私は もう大人で、父とは たくさんの乾杯をしてきたと思う。成人して会うときは いつも飲み屋で、先ずはビールで乾杯した。

娘が生まれてから飲み屋で飲むことはなくなったけれど アイスコーヒーなんかで お疲れ〜と言いながら軽く乾杯、自然な流れで 数えることもないほどの。

もうおとなだから、娘に桃のむきかたを教えられるし、異母弟妹のことを喜んでいるし、面白がっているし、楽しみでもあるし、父の将来をちょっぴり心配だってしている。(子どもが成人するころには80過ぎだ)

でも。

桃の香りは私をあっという間に子どもに引き戻し 子どもの私は泣きそうになっている。父に教えてもらった むきかたで上手に出来なくて。父と私は もう桃で「かんぱい」をすることはないのだろうと寂しがっている。

娘と桃で「かんぱい」する。娘は笑い私も笑う。「続いていく」とは こういうことをいうのだろうか、なんて思う。




私は 子どもの私を置きざりにしているのだろうか?

子どもの私は片割れの桃を持って泣いているのか。私は見えないふりをして 子どもの私を閉じ込めているのだろうか。

父は きっと異母弟妹とも「かんぱい」をするだろう。私も彼(彼女)とするかもしれない。家族になれるといいけれど 離れて暮らしているから どんな関係になれるかは分からない。それでも きっと「かんぱい」くらいは出来る。

私は片割れの桃を持ったままかもしれないけれど。いつになるかどこになるか分からないけれど。

また「かんぱい」しようよ。





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